韓国人のいないKポップグループ、EXP Editionが議論の的に
イヴェット・タン、BBCニュース

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Kポップのアーティストになるには、韓国人でなければだめ?
ボラ・キムさんはEXP Edition(エクスペディション)を作った時、この疑問に答えたかった。
大学院の課題として始めたこのグループはまもなく、非韓国人による世界初のKポップグループへと発展した。
グループは批判を集め、文化の盗用だと非難され、殺害の脅迫まで受け取った。しかし3年たった今、グループは今も好調だ。
どうやって? そして、なぜ?
グループ結成
韓国で育ったボラ・キムさんは学生時代、Kポップを聞いて過ごした。Kポップとはポップスとヒップホップ、韓国語と英語が混ざった音楽で、韓国文化で絶対的な存在となり、無数の「アイドル」を生み出した。
しかしキムさんがKポップの本当の意味を考え始めたのは、2014年に渡米しニューヨークの有名なコロンビア大学で修士課程を学び始めてからだった。
「若い頃は、韓国の外の人たちが韓国文化を消費するようになるなんて思ってもいませんでした」とボラさんは話した。
「(米国に着いた時)Kポップはすごく勢い付いていて、私はKポップを違う角度から見るようになりました。それで考えるようになったんです。韓国人がやっている場合だけがKポップなのだろうか? Kポップを後押しするにはどうしたらいいだろう? 限界は何だろう?」

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自分の疑問に答えを出す一番の方法は、自分でKポップグループを作ることだと考えた。韓国人以外だけで構成されたグループだ。
これはその後2年間、コロンビア大学大学院でのボラさんの学位論文になった。
最後に残った問題は、「どう実現しよう?」だった
メンバー探し
ボラさんの目標は、現実の世界に実在できるKポップグループを作ることだった。
「ニューヨークを象徴するような、韓国人ではないメンバーを見つけたかった」とボラさんは語った。
「なのでまずはオーディションをしました」
最終的に6人が選ばれた。ゆくゆくはEXP Editionを構成することになるメンバーだ。
「本当に歌唱力がある人もいたし、踊りが上手な人もいた。でも全員が、とにかく個性が強かった」とボラさんは話した。
最終的に残ったメンバー候補は、クロアチア出身のシーメ・コスタさん、ポルトガル系米国人でロードアイランド州出身のフランキー・ダポンテさん、日本人とドイツ人の両親を持ちテキサス州育ちの光希(コーキ)・トムリンソンさん、共にニューヨーカーのハンター・コールさんとデヴィッド・ウォレスさん、そしてテキサス出身のタリオン・アンダーソンさんだ。

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韓国の血を引いている人は誰もいなかった。そして多くが、それまでほとんどKポップを聞いたことがなかった。韓国語も話せなかった。
ボラさんは、このグループをEXP Editionと名付けた。EXPは「experiment(実験)」の略だ。
Kポップを探求
ボラさんが論文を書くためのショーの一環として、グループは2015年の夏にシングルを出す必要があった。しかしやらなければならないことが山ほどあった。
韓国のアーティストはほとんどが精力的なトレーニングを重ねる。大手音楽会社がマネジメントを行い、Kポップの世界にデビューする前の若いころからトレーニングする。
その結果、平均的なKポップのスターは非常に洗練されている。一分のすきもない振り付けで曲を踊り、完璧な韓国語で歌い、頭の先からつま先まで非の打ちどころがない。
EXP EditionがKポップグループになるには、韓国人アーティストのほとんどが数年かけてすることを数カ月でこなす必要があった。
メンバーは、ボラさん自身から韓国語を教えてもらうようになり、歌のレッスンからダンスの練習にまで打ち込んだ。
曲は音楽プロデューサーに書いてもらった。レコード会社コロムビアで働いていた人物で、ボラさんの友人だ。
ボラさんはその後、歌詞を韓国語に翻訳し、メンバーはそれを暗記する必要があった。ボラさんが言うところの非常に「DIY(自分でやる)」的なプロセスだ。
現実の世界へデビュー
数カ月のトレーニングを終え、EXP Editionはついにデビュー・シングル「Luv/Wrong」を発表した。
公平に言っても……素晴らしい出来ではなかった。そして大成功というわけでもなかった。
しかしこの時までにメンバーは何カ月もトレーニングを重ねており、すでに1ステージ分の構成を作っていた。そこでショーに出演することにし、少しずつニューヨークのあちこちでイベントに呼ばれるようになっていった。

ボラさんの美術学修士課程が終わり修士号を取得した時に出てきた問題は明らかだった―― 「次は?」
「メンバーは、EXP Editionに集中したいと私に言ってきました」とボラさんは振り返る。
ボラさんたちは、クラウドファンディング・サイトのキックスターターで資金を集めることにし、3万ドル(約340万円)の調達に成功した。またこれとは別に、個人投資家からの投資も取り付けた。

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「Kポップグループとして、次の動きは韓国への移住が理にかなっているように思えました」とボラさんは話した。「一大決心でした。特にメンバーにとっては、友達や家族から離れるわけですから」。
バンドのメンバー2人、デヴィッドさんとタリオンさんは韓国へは行かないと決めた。しかし残りの4人は韓国行きを決意した。
「試してみないと後悔すると気づいたので、僕らは『やってみよう』という感じでした」とハンターさんは話した。
大きな変化
2016年8月、EXP Editionは正式に韓国へ渡った。
「韓国に移ってきた時は本当に大変でした」とボラさんは言う。「メンバーは韓国語を勉強しつつ、ダンスや歌の先生は全員韓国人。(中略)練習するために、メンバーは毎朝6時に起きていました。初期の頃の話をすると、メンバーはいつも涙ぐんでしまいます」
EXP Editionの韓国デビューは2017年の夏。音楽ビデオを発表し、韓国のバラエティー番組に生出演した時だ。

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「韓国の人たちは、メンバーに非常に好奇心をそそられ、歓迎して支持してくれた」とボラさんは話す。「観客の1人がライブ後に私のところに来て、EXP EditionのおかげでKポップとは何なのかを考え直したと言ってくれました」。
しかし彼らはKポップなのだろうか?
EXP Editionはデビュー当初から今日に至るまで、絶え間ない反発にさらされてきた。多くは、彼らはKポップではないし今後もそうなり得ないというものだ。
殺害の脅迫を受け取ったこともあるし、インターネットには何百という侮辱が書かれ、ユーチューバーから「偽Kポップ」と呼ばれたことすらある。
中には、文化的盗用だと責める人もいた。無礼にも韓国文化で金儲けをしていると言うのだ。
「(みんな)とても意地悪で、とても憎しみに満ちていました。私たちがしていることは恥だと言って」とボラさんは振り返った。
メンバーのシーメさんは「この人たちは、私たちがKポップを見下そうとしていると思ったんだと思います。私はそれがいつも怖かった。Kポップをばかにしにきたと思われるのが」と説明した。

メンバーと話すと、彼らがKポップに抱く新たな情熱は心からの偽りのないものだとはっきり分かる。そして、彼らが韓国を本当に好きになり始めているというのも。
ボラさんについて話す時、メンバーは最高経営責任者(CEO)を意味する韓国語を使うが、筆者がその意味を尋ねると、困ったメンバーはお互いに聞き合う。「待って、英語で何て言うんだっけ?」とメンバーの1人が口にする。
最新の音楽ビデオは、デビュー曲と比べるとかなり上達している。Kポップがゆっくりと、その根本から拡大していることを表しているのかもしれない。
ボラさんは、文化的盗用との非難は全く公平ではないと話す。というのも、Kポップ自体がかなり多くの影響を受けているためだ。
「Kポップの出どころや伝統的な韓国らしさは、1つだけじゃない。あらゆるものが混ざったものなんです。米国や日本からの影響を受けています」とボラさんは説明した。

ニューヨークを拠点に活動するジャーナリストでありKポップ専門家のジェフ・ベンジャミンさんは、KポップをKポップたらしめているものには、韓国らしさ以外の要素があると話す。
「Kポップ音楽そのものは、そこまで音で定義されるものではありません。基本的に、全ての曲には歌があって、ラップがあって、ダンスのための間があって、さまざまなジャンルを融合しています。それよりも、集中したトレーニング制度、きらびやかな音楽ビデオ制作、グループがパフォーマンスするバラエティー番組や音楽番組など音楽以外の要素があります」とベンジャミンさんはBBCに説明した。
「EXP EditionはKポップアーティストたちの音や外見、雰囲気を再現できはしますが、『Kポップスター』になるための文字どおり血と汗と涙を再現することはできません。そして彼らがKポップと呼ばれるために足りないのは、そこだと私は思います」

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英リヴァプール大学で音楽講師を務めるオム・ヘイギョン博士もこれに同意する。
「EXP EditionをKポップと思うか? 難しい質問です。彼らが歌って踊るものはKポップのスタイルに沿ったものかもしれませんが、『正真正銘』のKポップを作る韓国音楽業界の外で作られたものですから」
ここ数カ月、EXP Editionは韓国のバラエティー番組や音楽番組に出演している。今も精力的にトレーニングをこなしており、まだ売れっ子というわけではないが、少ないながらもファンが付き、徐々に増えつつある。
ボラさんにとっては、EXP Editionが何者かという疑いはもはやない。
「私たちはKポップかって? ええそうです」と答える。
「でも同時に、何か違うものでもあります。メンバーは全員、さまざまな生い立ちを持った人たちですから。このグループは、それを新たに掛け合わせたものなのです」









