英マンチェスターのユダヤ教会堂で襲撃、2人と容疑者が死亡 ユダヤ教の祭日

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イギリス中部グレーター・マンチェスターのシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で2日午前、車と刃物を使ったとみられる襲撃があった。警察は、シナゴーグの外で警官に射殺された容疑者を含め、計3人が死亡したと確認した。ほかに3人が重傷を負った。この日はユダヤ教徒にとって特に神聖な祭日、「贖罪(しょくざい)の日」を意味するヨム・キプルの日にあたり、会堂には大勢が集まっていたとされる。警察は3日、銃で撃たれた死傷者は警官の発砲が原因だった可能性があると発表した。
グレーター・マンチェスター警察(GMP)は2日、イギリス人でシリアにルーツがあるジハード・アル・シャミー容疑者(35)をシナゴーグの外で射殺したと発表した。
警察は2日の時点で、今回の襲撃を「テロ事件」と断定。捜査の過程で、30代の男性2人と60代の女性1人の計3人を逮捕したと明らかにした。
さらに、負傷した3人のうち1人は刃物で刺され、1人は車に衝突されたほか、もう1人は、警官が容疑者を制圧しようとした際に負傷した可能性があると説明していた。
警察は3日午後、事件で死亡した被害者1人と負傷者1人は銃弾で傷を負っていることが分かったと発表。スティーヴン・ワトソン本部長は声明で、容疑者は銃を持たず、現場での発砲は警官によるもののみだったため、被害者のうち銃弾を受けた死者と負傷者はどちらも、警官の発砲が原因だった可能性があると明らかにした。
本部長は、「亡くなった被害者の1人は、銃創と見られる傷を負っていた」としたほか、「ジハード・アル・シャミー容疑者は銃を持たず、現場での発砲は、発砲許可を得たGMPの警官によるものだけだったと現在、考えられている。発砲した警官たちは、襲撃犯がシナゴーグに侵入してユダヤ系コミュニティーにさらに危害を加えるのを防ごうとした。このため、被害者は悲しいことに、この凶暴な攻撃を負わせるために警官たちが急きょ必要とした行動のため、予期しない形で銃創を負った可能性がある」と説明。
また、負傷して病院で治療中の3人のうち、1人が重体ではないものの銃創を負っていると本部長は述べ、「2人ともシナゴーグのドアの後ろで近くにいたと考えられている。襲撃犯が中に入るのを防ぐため、参拝者たちは勇敢に行動していた」のだと説明した。
アル・シャミー容疑者については、子どものころにイギリスに入国し、未成年だった2006年にイギリスの市民権を得たとの情報がある。
警察や治安当局の対テロ記録に容疑者の名前はなく、捜査対象にもなっていなかったとされる。
マンチェスター近郊プレストウイッチの住宅地に暮らしていたとみられる容疑者について、近隣住民はBBCに対して、容疑者は口数が少なく、筋肉トレーニングに熱心だったと話した。家の庭で腕立て伏せなどをしているのを見たという人もいる。服装は日によって、西洋式の服を着たり、中東式の服を着たりしていたという。
事件の経緯

警察によると、2日午前9時31分に一般市民から通報があり、マンチェスター・クランプソールにあるヒートンパーク・ヘブライ会衆シナゴーグで、車が人々の中へ突入し、男性1人が刺されたと知らされたという。
警察はその6分後に重大事件発生を発表。午前9時38分に、警官たちが容疑者と思われる男性に対して発砲したという。さらに3分後に救急隊が現場に到着し、負傷者を確認。車両や刃物により負傷した市民の手当てにあたったという。
目撃者によると、容疑者はシナゴーグ内に侵入しようとしたが、警備スタッフらが食い止めたという。
現場のビデオ映像では、容疑者とみられる男性が地面に伏せ、警官らは男性に銃を向けていた。その後、男性が立ち上がろうとしたところ、警官らが発砲した。発砲は、最初の通報から7分後のことだった。
BBCヴェリファイ(検証チーム)が確認したスチル写真は、襲撃現場の近くから撮影したもので、容疑者と思われる男性が写っていた。
男性は、腰に複数の白か銀色の包みのようなものを下げていた。頭髪はなく、口元に黒いひげをたくわえていた。この写真は、襲撃現場の検証済み映像で警察に射撃されたとみられる男性の特徴と一致している。
襲撃が発生する以前に、この画像がインターネットにアップロードされた形跡は確認されていない。写真はヒートンパーク・シナゴーグの西側で撮影された。
警察はその後、男性が腰につけていたものを調べた結果、爆発物ではないことがわかったとした。

事件発生時に現場で撮影された映像では、警察が容疑者から市民を遠ざけようとしている。
映像では、「他の人は全員、下がって。関係ない人は下がって、離れて……爆弾を持っている、離れろ」と警官が叫ぶ声が聞こえる。
事件のあったシナゴーグのウェブサイトに掲載されていた日程表によると、この日の襲撃が起きた少し前から、ヨム・キプルの日の祈りのために信者が集まる予定だった。
祈りの集会は午前9時半に始まる予定で、警察が事件の通報を受けたのは午前9時31分だった。

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事件発生を受けて、キア・スターマー首相は、全国のシナゴーグに「追加の警察隊」を配備すると表明。ロンドンのサディク・カーン市長も、市内のシナゴーグとその周辺で、警察による「視認性の高い」取り締まりを「強化する」と述べた。
スターマー首相は「クランプソールのシナゴーグでの襲撃に衝撃を受けている」と声明を発表。「この襲撃がユダヤ教の宗教暦で最も神聖な日のヨム・キプルに発生したのは、なおのこと恐ろしい。被害に遭った全員の家族に思いを寄せるとともに、救急機関およびすべての初動対応者に感謝する」と述べた。
デンマークの首都コペンハーゲンを訪れていた首相は、事件の知らせを受け、コペンハーゲンで開かれていた欧州政治共同体の会合から早期に帰国した。
官邸に戻った首相は緊急事態対策委員会「COBRA会議」を開催。「ユダヤ人という理由でユダヤ人を襲ったテロ攻撃」だと非難した。
首相は3日には妻ヴィクトリアさんと共に事件現場を訪れたほか、警察本部を訪問し、対応した警官や救急隊員たちをねぎらった。
チャールズ英国王は2日、事件発生から間もなくコメントを発表。自分とカミラ王妃が「とてもショックを受け、悲しんでいる」とした。また、「とりわけ、ユダヤ教徒の人たちにとってこれほど大事な日」にこのような事件が起きたことに心を痛めているとした。
「この恐ろしい事件に影響を受けた全員のことを私たちは思い、祈っている。また、救急サービスの迅速な行動に深く感謝する」とも、国王は述べた。
最も神聖な日に
アリーム・マクブール 宗教担当編集長
この事件は、ユダヤ教の宗教暦で最も神聖な日に起きた。このことは、多くのユダヤ系コミュニティーを最大限に痛めつけようとする狙いがあってのことではないかと、大勢が感じている。
ヨム・キプルは断食と贖罪の日だ。神が各自の今後数年の運命を定める日だと信じられている。
この厳粛な日には仕事が禁じられ、祈りと内省のためにささげられる。
また、普段はシナゴーグに参拝しない人の多くもこの日は参拝する。そのため、警備が強化されることが多い。
2019年にドイツ・ハレのシナゴーグで2人が殺害された事件も、ヨム・キプルの日に起きた。
この神聖な日には、ソーシャルメディアやテレビを見ないというユダヤ教徒もいる。そのため、マンチェスターでの襲撃を日没後に初めて知った人もいるかもしれない。








