新ローマ教皇はアメリカ人、しかし「アメリカ第一」ではない…トランプ支持者ら不満

画像提供, Reuters
ノミア・イクバル、マイク・ウェンドリング(米シカゴ)
キリスト教カトリック教会が、アメリカ政界でかつてないほど注目されている。トランプ政権の関係者の多くは、自分の考えは信仰によって形作られていると誇らしげに語る。政権はそういう人たちを、大統領の側近や高官として大いに歓迎しているのだ。
新しいローマ教皇が選出されると、「アメリカを再び偉大にしよう」(Make America Great Again、MAGA)と唱える右派が歓喜した。しかしその主なメンバーらは、初のアメリカ人の教皇が「アメリカ第一主義」ではないようだという結論に至り、落胆した。喜びは素早く消沈した。
シカゴ生まれの教皇レオ14世、本名ロバート・フランシス・プレヴォスト氏の政治傾向は、ほとんど知られていない。
新教皇はこれまで、貧しい人々や移民を気遣う言葉を発してきた。教皇名の選択は、カトリック教会をさらにリベラルに率いていく姿勢を表している可能性もある。ソーシャルメディアでは過去に、リベラル寄りだった前教皇フランシスコを支持し、トランプ米大統領の政策を批判していた様子が読み取れる。
トランプ大統領はこれまでのところ、教皇レオの選出について、アメリカにとって「素晴らしい栄誉」だと述べるにとどまっている。だが、トランプ氏の主な支持者らは、新教皇がトランプ氏と対立する可能性があり、移民などの問題では教皇フランシスコの路線を引き継ぐだろうとして、教皇レオを早速攻撃した。
教皇レオの選出に「あぜんとした」と、スティーヴ・バノン氏はBBCに話した。バノン氏はかつて、トランプ氏の首席戦略官だった。
「ツイッターのフィードや声明で、アメリカの有力政治家たちに反対する姿勢を示し続けた人物が、ローマ教皇に選ばれるとは衝撃だ」とバノン氏は述べた。
強硬右派でトランプ氏に忠実なバノン氏は、カトリック信者で、少年時代には礼拝の手伝い役を務めていた。そして、バノン氏は、教皇レオとトランプ氏の間には「間違いなく摩擦が生じる」と予想している。
期待と批判
教皇の兄のジョン・プレヴォスト氏は米紙ニューヨーク・タイムズに、弟はトランプ大統領と異なる意見も口にするだろうとし、次のように話した。
「移民について起きていることを、(教皇が)喜ばしく思っていないのは知っている」とプレヴォスト氏は言い、「それは事実だ。それについて彼がどこまでやるかは想像するしかないが、黙って何もしないということにはならない。彼が沈黙するとは思わない」と述べた。
超党派の米調査組織ピュー研究所が今年3月に発表した調査結果では、アメリカ人の約20%が自分はカトリック信者だと答えている。
そのうち約53%が共和党支持か、同党寄りだとしている。ただ、これには微妙なニュアンスが伴う。カトリック信者のアメリカ大統領は2人で、ジョン・F・ケネディ氏とジョー・バイデン氏はともに民主党員だった。また、アメリカではカトリック信者の約3分の2が、中絶は全面的またはほとんどの状況で合法であるべきだと考えている。これは、現在のカトリック教会の立場とは異なる。
アメリカのカトリック信者はまた、教皇フランシスコをおおむね支持していた。今年2月の調査では、回答者の78%が彼を好意的に受け止めていた。その中には、カトリック信者の共和党支持者の大半も含まれていた。
新教皇の故郷シカゴでは、何人かのカトリック信者らがトランプ大統領にがっかりしていると言い、教皇レオ14世には前教皇フランシスコに続いてもらいたいと話した。
「フランシスコが重視したテーマに、今後も取り組んでもらいたい」と、リック・スティーヴンス氏は話した。同氏はニュージャージー州出身のカトリック助祭で、教皇が選出された時、たまたまシカゴを訪れていた。
カトリック教会のアメリカでの活動を指導・調整する米カトリック司教協議会は、教皇レオの選出とそのメッセージを祝福した。
「もちろん、この国の息子が枢機卿らによって選ばれたのは喜ばしいが、彼は今ではすべてのカトリック信者と、すべての善意ある人々のもので、私たちはそれを承知している」と同協議会は声明で説明。「平和、結束、宣教活動を提唱する彼の言葉は、すでに前途を指し示している」とした。
アメリカのカトリック信者のうち、MAGA支持者は少数に過ぎない。だがその声は不相応なほど、保守系メディアやトランプ氏の耳に届きやすい。
強硬右派の「親トランプ」姿勢で知られるバノン氏のポッドキャスト「ウォー・ルーム」では、ゲストが入れ代わり立ち代わり新教皇を批判した。
「この男は、リベラル派と進歩派に大いに受け入れられている」とベン・ハーンウェル氏は言った。ローマ郊外に「ユダヤ・キリスト教の西側勢力」のための「剣闘士学校」を設立するという、バノン氏の構想を先導したジャーナリストだ。
「彼はやつらの仲間だ。(中略)彼は(教皇)フランシスコのDNAを受け継いでいる」
MAGAのコメンテーターで、ローマから電話で参加したジャック・ポソビエック氏は、率直に言った。「このアメリカ人枢機卿が選ばれたのは、トランプ大統領への反応、メッセージだ」。
教皇レオ選出の経緯はまだ完全には明らかになっておらず、教会の決定が米政治にそのまま投影されるわけでもない。それでも、世界中の関心ある人々は、教皇レオのソーシャルメディアのプロフィールを熟読し、彼の性質や信条について手がかりを得ようとしている。
教皇のプレヴォスト枢機卿時代のものとされるソーシャルメディア「X」のアカウントは、2015年までさかのぼって投稿内容を読むことができた。そこでは、トランプ氏の移民へのアプローチを批判するリンクが共有され、銃規制の強化といった政治的な見解がそれとなく示されていた。
同じアカウントは今年2月、米副大統領を厳しく非難した。「J・D・ヴァンスは間違っている: イエスは私たちに他者への愛をランク付けするよう求めてはいない」という見出しのオピニオン記事へのリンクを張ったのだ。
このアカウントはさらに、教会の教義や移民問題をめぐるヴァンス副大統領の発言について、教皇フランシスコが今年2月、間接的に異論を唱えた際の同教皇による書簡のリンクも張った。2019年に35歳でカトリック信者になったヴァンス氏は、インタビューでカトリックの教えを引き合いに出し、トランプ政権の移民政策を擁護していた。
ヴァンス氏は政権擁護を目的に、しきりに信仰を持ち出す。ホワイトハウスが 「アメリカ第一」を掲げる移民政策については、特にそうだ。
「家族を愛し、それから隣人を愛し、そして地域社会を愛し、次に同胞を愛し、その後に世界の他の国々を優先するという、キリスト教の考え方がある。極左の多くは、それを完全に逆転させている」と、ヴァンス氏は米FOXニュースで語った。
前教皇フランシスコの書簡と、そして後の新教皇レオ14世のものとされるアカウントは、ヴァンス氏のこの発言について、それはカトリック教会の教えとは異なるとそれぞれ指摘したのだった。
立場が不透明な部分も
他方、10年以上前からの投稿が読めたこのアカウントは、アメリカの民主党支持者らをまったく問題なしとしたわけではない。
会社従業員の避妊具代を会社の医療保険が負担するのを、カトリック信者の雇用主が拒否した際、アカウントの投稿主がこれを支持した様子がうかがえる。2016年の米大統領選挙後の投稿には、民主党候補だったヒラリー・クリントン氏について、人工妊娠中絶に反対するカトリック信者を無視していると非難する記事へのリンクを張ったものもあった。
BBCはローマ教皇庁(ヴァチカン)に、このアカウントが確かに教皇レオのものだったのか確認を求めたが、回答はなかった。
ヴァンス副大統領は、保守派のラジオ司会者ヒュー・ヒューイット氏の番組でこう言った。
「私は、ローマ教皇を政治化するゲームはしないようにしている」
「(新教皇は)私がとても気にいることを、たくさん言うだろう。私が賛成しないこともいくらか言うだろう。それでも私は、何だろうと常に、彼と教会のために祈り続ける。それが私のやり方だ」
新教皇がLGBTQ(性的少数者)をどうみているかも不明だ。保守的な枢機卿団を含め、一部の教会関係者は、新教皇は教皇フランシスコほどは政敵少数者を支持しないのではないかと考えている。
保守系メディア「デイリー・ワイヤー」のコメンテーター、マット・ウォルシュ氏は、「この新しい教皇については、良い兆しも悪い兆しも見られる。彼が教皇として実際に何をするのか見てから判断したい」と書いた。
だが、MAGAの最も熱心な支持者の一部は、すでに心を決めている。
トランプ氏が意見を聞き、閣僚などの人事に影響力をもつとされる極右のインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏は、新教皇を「反トランプ、反MAGA、国境開放支持派、教皇フランシスコのような完全なマルクス主義者」と呼んだ。
教皇レオ14世を教皇選挙のダークホースだとしていたバノン氏は、ホワイトハウスとヴァチカンの関係が緊張するだろうと予測。それによって、アメリカのカトリック信者が分断される可能性もあると述べた。
「トランプ大統領は教皇フランシスコを攻撃することをためらわなかった」、「だからもしこのローマ教皇が、実際にそうするだろうが、トランプ大統領と彼の大規模国外追放プログラムの実行の間に入り込もうとするなら、こちらも対応する」と、バノン氏は話した。
(追加取材:カイ・ピリウッチ)












