ノーベル生理学・医学賞、新型ウイルスのmRNAワクチンに貢献した2教授に
ジェイムズ・ギャラガー、健康・科学担当編集委員

画像提供, EPA
今年のノーベル生理学・医学賞が、新型コロナウイルスのmRNA(メッセンジャー・リボ核酸)ワクチンにつながる技術を開発した科学者2人に贈られることが2日、発表された。
共同受賞するのはカタリン・カリコ教授とドリュー・ワイスマン教授。
授賞理由となった技術は、新型ウイルスのパンデミックの前は実験的なものだった。現在はそれによって開発されたワクチンが世界中で何百万もの人々に投与され、新型ウイルスの重症化を防いでいる。
同じmRNA技術は、がんなどの病気での利用も研究されている。
ノーベル賞委員会は、「受賞者たちは、現代の人類の健康に対する最大の脅威の一つの中で、前例のない速さでのワクチン開発に貢献した」と評価した。
ワクチンは免疫システムに働きかけ、ウイルスやバクテリアのような脅威を認識して闘うよう訓練する。
従来のワクチン技術は、ウイルスやバクテリアの死骸や弱体化したもの、感染性因子の断片を利用していた。
これに対し、mRNAワクチンはまったく異なるアプローチを用いる。
新型ウイルスのパンデミックのさなかに開発された、製薬会社モデルナとファイザー/ビオンテックのワクチンは、ともにmRNA技術を使ったものだった。
「ただの冗談」だと
カリコ教授とワイスマン教授は1990年代初め、米ペンシルヴェニア大学に勤務していた時に出会った。当時、mRNAは科学界でほとんど注目されていなかった。
ワイスマン教授は、「会合で自分の研究を発表すると、みんな私を見て、『それは素晴らしい。だが何か価値のあることをやってはどうか。mRNAはうまくいかない』と言った。それでもケイティと私は続けた」とBBCの番組「ニュースアワー」で振り返った。
カリコ教授は、受賞の知らせを聞いた時の二人の反応について聞かれると、最初は「ただの冗談」だと思ったと話した。
ワイスマン教授も同様に、「大喜びしたが、すぐに怪しいと思った。反ワクチン派のいたずらではないかと少し疑った」と説明。
「だが発表を見て本当だとわかり、素晴らしい気持ちになった」と述べた。

新型コロナウイルスのmRNAワクチンには、同ウイルスから取った、ある種のたんぱく質をつくるための遺伝的指示が入っている。
これが体内に注入されると、細胞はそのたんぱく質を大量につくり始める。
免疫システムはこれを異物と認識して攻撃。新型ウイルスとの闘い方を学習する。これにより、将来感染した時に先手を打てるようになる。
この技術で特に重要なのは、遺伝的指示を適切に把握していれば、ほとんどあらゆるものに対して、ワクチンを迅速に開発できる点だ。
そのため、従来よりはるかに早い、柔軟性のあるワクチン開発ができる。
この技術を使った実験的アプローチには、患者の体にがんと闘う方法を教えるものもある。
科学者たちは患者の腫瘍を分析し、健康な組織にはない、がんがつくる異常なたんぱく質を探す。そして、それを標的とするワクチンを開発し、患者に注射するというものだ。
決定的な突破口
カリコ教授とワイスマン教授は、mRNAワクチンの実現に向けて、決定的な突破口を開いた。
その原理は、人間の体の通常の仕組みを利用している。人体でのRNAは、遺伝情報(DNA)に閉じ込められた指示を、人体をつくり出すタンパク質に変換することが役割だ。
だが課題があった。人工のmRNAを使った動物実験では、危険なレベルの炎症が起きていたからだ。しかし技術改良によって、両教授は意図したたんぱく質を大量に作れるようになった。
この結果、人間向けのワクチン技術開発の道が開かれた。
カリコ氏は現在、ハンガリーのセゲド大学の教授。ワイスマン氏は今もペンシルヴェニア大学の教授を務めている。
過去のノーベル医学生理学賞の受賞者
2022年:スヴァンテ・ペーボ氏。人類の進化に関する研究
2021年:デイヴィッド・ジュリアス氏、アーデム・パタプティアン氏。身体の触覚や熱を感じる仕組みの研究
2020年:マイケル・ホートン氏、ハーヴィー・オルター氏、チャールズ・ライス氏。C型肝炎ウイルスの発見
2019年:ウィリアム・ケリン氏、サー・ピーター・ラトクリフ、グレッグ・セメンザ氏。細胞による酸素量の感知とその適応機序の解明
2018年:ジェイムズ・P・アリソン氏、本庶佑氏。がんに対する免疫チェックポイント阻害療法の発見
2017年:ジェフリー・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏。体内時計(概日リズム)を制御する仕組みの発見
2016年:大隅良典氏。細胞が自身のたんぱく質を分解する仕組みの解明











