「科学には人と資金の自由な移動が必要」 ノーベル賞学者らがブレグジット懸念
デイビッド・シュクマン、BBC科学編集長

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英国の欧州連合(EU)離脱が半年後に迫る中、科学界の大御所が英国と欧州の研究へのダメージを避けるよう政治家に訴えている。
ノーベル賞受賞者29人と、「数学のノーベル賞」といわれるフィールズ賞受賞者6人は共同で、テリーザ・メイ英首相とジャン=クロード・ユンケル欧州委員長宛に書簡を提出した。
書簡には、科学は「国境を越えた人とアイデアの流れ」が必要だと書かれている。
最新の調査では、英国から拠点を移そうと考えている科学者が多いことが判明している。
乳がんの研究でノーベル賞を受賞したサー・ポール・ナースは、「我々のメッセージは『科学をまじめに考えろ』だ」と話した。
書簡では、科学は病気の治療やクリーンエネルギーの創出、食糧供給の安定といった世界的な問題に立ち向かう助けとなるが、そのためには最も才能のある研究者を集めなくてはいけないと指摘。
その上で、英国とEUは「今こそ研究への被害を最小限に抑えられるよう懸命に努力すべき」と述べている。
科学者たちの懸念とは
資金集めと人の自由な行き来の2点が大きな懸念事項だ。
EUに加盟して以来、英国の科学者が獲得した欧州からの資金は、英国が支払った額よりも多い。
ナース氏は、科学研究の資金に関する合意が結ばれない限り、英国科学界は毎年10億ポンド(約1460億円)の資金を失うことになるだろうと話した。
当初は、スイスとEUが結んでいる、科学における相互貢献や資金提供を保障する関係性を目指して英国がEUと迅速な交渉に入るとの憶測があった。しかし、今のところ実現していない。
もう一つの懸念は、人の自由な行き来が保障されなければ、有能な人材がビザ(査証)申請の段階で当局にはじかれてしまう可能性があることだ。
若手研究者の動向
欧州最大の生物医学研究施設であるロンドンのフランシス・クリック研究所は、1000人以上の職員に対し、ブレグジット(英国のEU離脱)についての意見を聞いた。
対象者の4割がEU加盟国出身者で、ブレグジット後の身の振り方を考えるのが優先事項だと答えた。
EU離脱後の英国に留まるかという質問に対しては、EU出身の科学者の78%が「恐らくない」と回答。英国人を含む全職員に拡大しても、51%が恐らく留まらないだろうと答えた。
また、各研究室の室長への質問では、すでにブレグジットが研究に影響しているとの回答が45%に上った。これには新しい研究者の雇用や、EU主催のプログラムからの除外、ポンド安によるコスト拡大などが含まれる。
さらに、合意なしのブレグジットが英国科学界に悪影響を与えると答えた室長は97%だった。
なぜ科学者は英国を離れるのか?
フランシス・クリック研究所の研究室で室長を務める1人、リトアニア出身のバル・マチュリテ氏は、EU離脱プロセスの「不確実さ」が、7年住んだ英国を離れることを考え出すきっかけになったと話した。
「英国以外の場所を考えることになったのは確実にブレグジットが原因だと思う。欧州や中欧のどこか、あるいはリトアニアに帰ることも考えている」
ドイツから博士研究員として同研究所に滞在しているヤスミン・ゾーレン氏も、「誰も何が起こるかわからない」ため、今後の計画を立てるのが難しいと語った。
その上で、「ロンドンは大好き」だが、EU加盟国に住みたいと話した。
「私は今、EUからの補助金を受けているし、英国での博士号取得でもEUの補助金を受けた。これ以上、英国に大きなお金が流れ込まないことも分かっている。これは当然、大きな懸念だ」
スペイン出身のモニカ・ロドリゴ上級研究員は、この不透明感は皆に影響を与えていると指摘した。
「皆がさらされているストレスのレベルが最大の問題だと思う。職業上のキャリアだけでなく他のことにも影響を与えている」
「英国出身の科学者であっても、人生をどのように生き、将来何をしたいかに関わってくる。資金が限られている場所に留まるか、どこか他の場所に行くか」
合意なしのブレグジットになった場合は?
ナース氏は、合意なしのブレグジットになっても、英国の科学者は対処できる力を持っていると話した。
「もちろん生き延びられる。政府からの補助金も得られるし、研究も続けられる」とナース氏は強調した。
「しかし、今は英国科学界が最高水準だと世界から見なされているが、正しくことを進めなければその立場を失う危険性がある」
政府報道官は、「英国は欧州が研究の最先端拠点となるのに不可欠な役割を担っているし、世界の研究者の英国に対する貢献を評価している」と話している。
「これはEU離脱後も変わらない。我々は科学とイノベーションについてEUのパートナーたちと野心的な関係を築き、今後も互恵的な研究プログラムに参加できるよう模索する。今後も現代的な工業戦略に基づき、科学と研究、イノベーションを支援する。英国には世界の有能な科学者や研究者を迎え入れ、研究の場を提供した実績がある。EU離脱後も、これを推進する移民システムを構築する予定だ」








