ロンドン警視庁、「男性中心」文化で女性や子供をないがしろに=第三者報告書

画像提供, EPA
イギリス・ロンドン警視庁の組織風土の問題に関する第三者調査の報告書が21日公表され、大きな議論を呼んでいる。警察組織に人種差別やミソジニー(女性嫌悪)、同性愛嫌悪がはびこっており、女性や子供たちがないがしろにされていると強く非難している。
1年にわたる調査では、警視庁の構造的な欠陥が明らかになった。重要証拠を保管していた冷凍庫が壊れたため、レイプ事件が捜査打ち切りとなった事例なども判明した。
調査を主導したルイーズ・ケイシー女男爵は、ロンドン警視庁に「男性中心」文化がはびこっていると指摘。改善されなければ組織解体もありえると述べた。
一方、ロンドン警視庁のサー・マーク・ロウリー警視総監は、「ロンドン市民を失望させた」と認めた。
組織内の差別問題が浮き彫りに
ケイシー氏は2021年、当時ロンドン警視庁の警官だったウェイン・カズンズ受刑者が帰宅途中のサラ・エヴァラード氏(33)を誘拐、レイプ、殺害した事件を受け、組織風土についての調査を依頼された。
調査の中では、別の警官による女性への性的暴行や拷問事件も明らかになった。デイヴィッド・キャリック被告は今年1月、17年間で女性12人に対して計49件の性的暴行を重ねたと法廷で認めている。
363ページにわたる報告書は、ロンドン警視庁は組織的に人種差別的で、女性嫌悪的で、同性愛嫌悪的だと非難。人種差別的な警官や職員、日常的な性差別、「根深い」同性愛嫌悪などに言及した。
報告書では、以下のような内情が明らかになった。
- 老朽化した冷蔵庫は常に満杯。昨夏の熱波では冷凍庫が壊れ、保管してあった証拠が被害を受けてレイプ疑惑の捜査が打ち切られた
- 女性職員に対する差別がある。車に尿の入った袋が投げられる、男性職員同士が性器を露出し合う、コーヒーカップに性具を入れられるといった事例があった
- シャワー室で尿をかけられるといった通過儀礼が存在する
- シク教の警官がひげをそられたり、ターバンを靴箱に入れられたりした事例や、ムスリムの警官のブーツにベーコンが入れられた事例があった
- 調査に協力した職員の5人に1人が、個人的に同性愛嫌悪を受けたと答えている
報告書はまた、ロンドン警視庁のトップ層は数十年にわたってこうした事態を否定しており、差別的な行動やいじめの根絶において組織的な失敗があったとしている。
その上で、差別は「しばしば無視され」、苦情は「民族マイノリティーの警官に向けられる」傾向にあると分析。黒人警官が不祥事に問われる確率は、白人の同僚より81%高かったと報告した。

被害者に対する不適切な行動も
報告書はまた、イギリス最大の警察組織であるロンドン警視庁が、女性を加害する警官から市民を守れなかったと批判。ケイシー氏は、カズンズ受刑者やキャリック被告のような警官が警視庁にいる可能性は否定できないと述べた。
さらに、家庭内暴力(DV)事件はこの10年で2倍に増えているにもかかわらず、対応するチームには人員不足、超過勤務、経験不足が見られると指摘。加害者を取り締まるという公言した方針が「運用上の現実」になっていないことも明らかになった。
ケイシー氏はBBCの取材に対し、「銃器を持つ人物が好きなおもちゃを手に入れられる」一方で、レイプ事件担当の刑事は不十分なリソースの中で仕事をしていると語った。
ある警官は、ロンドン警視庁のレイプ摘発率があまりにも低いため、「ロンドンではレイプは合法だと言っていい」と証言した。
子供の扱いについても、問題事例が浮上した。昨年には、黒人の女子生徒が学校で、ロンドン警視庁の警官2人から、衣服を脱ぐ身体検査を受けたが、この女子生徒は生理中だったという。
また、ある黒人の少年は、警察ではない専門家に、犯罪組織から抜け出したい、護身用にナイフを持っていると相談した。この少年が後日、大人に襲撃されたため、この専門家は警察に届け出るとともにナイフを提出したが、別の警察部隊が少年を逮捕した。そのため、「この少年は完全に不信に陥ってしまった」という。
報告書は、こうした事例についてロンドン警察は、黒人の子どもに対する警官の行動に間違いがあると考えているかもしれないと分析。しかし実際には、人種や鈍感さ、組織的な偏見といった広範な問題を追及しない姿勢がみられたと指摘した。

画像提供, Getty Images
ケイシー氏は、緊縮財政が警視庁を「ゆがめ」ているほか、裁判の滞留やロンドンの人口増加などの圧力が警視庁により大きな負担を与えていると述べた。
一方で、1999年に当時18歳だった黒人のスティーヴン・ローレンス氏が白人2人に殺害された事件を受けたマクファーソン報告書でも、警視庁は「制度的に人種差別的」と指摘されたものの、それ以降に十分な変化がなかったと指摘。
ロンドンには「もはや機能する地元警察サービスがない」と述べ、特に「過剰な警察と過小な保護」を受けている「有色人種のコミュニティー」にとって、任意による取り締まりは破綻していると批判した。
改善か解体か
報告書では、ロンドン警視庁に対し16項目の改善策を提示。これには以下の内容が含まれている。
- 不祥事への対応方法を改革する新たなチームを発足させ、審査を直ちに見直す
- 独立した監督と精査の強化、定期的な進捗(しんちょく)状況の報告をロンドン市長が監督するシステムの構築、さらに2年後と5年後に、独立した形で進捗状況の見直しを行う
- 「過去の失敗への謝罪と再建への同意」に向けた手続きを開始する
- カズンズ受刑者とキャリック被告が所属していた議会・外交使節警備部隊について、現体制を解散させる。また、銃の携帯許可が出ている全ての警官を再審査する
- 女性専門の保護サービスと、子どもを守るための幅広い新戦略の設置。これには、黒人の子どもが成人かつ脅威として扱われる「大人化」防止対策が含まれる
- 独立した監視者の導入を含む、ロンドンにおける職務質問の抜本的なリセット
ケイシー氏は、改革に十分な進展がない場合は、ロンドン警視庁を国家担当と専門家組織、ロンドン担当に分割するべきだと結論付けている。
ロウリー警視総監はBBCのラジオ番組に出演し、報告書による「診断」を受け入れると話した。しかし、「構造的な人種差別」という言葉はあいまいで政治化されたものだとして、この言葉は使いたくないと述べた。
その上で、自分が警察を引き継いで以来、「問題のある」警官が「何百人も」発見されたと述べ、この報告書は「新しい始まり」でなければならないと語った。
スエラ・ブラヴァマン内相は、解決に数年かかる問題もあるとしながらも、警視総監やそのチームが公衆の期待に応えてくれると信じていると述べた。
BBCのマーク・イートン内政編集長は、警察組織がどれだけ早く事態を好転させられるかが問題だと指摘。
報告書では2年後と5年後に改善の進捗が見直されるとされているが、イギリスでは来年にも総選挙が予定されていることから、政治家がどのような反応を示すのかにも注目が集まるとした。









