大スターから一転……そしてオスカー主演男優賞 ブレンダン・フレイザーさんの復活

ポール・グリン、イアン・ヤングス、BBCエンターテインメント担当記者

Brendan Fraser holding his Oscar up

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画像説明, アカデミー賞主演男優賞を得たフレイザーさんは、「クリエイティブな命綱」を自分に投げてくれたと、アロノフスキー監督に感謝した(12日、米ロサンゼルス)

俳優ブレンダン・フレイザーさん(54)にとって、大型映画の主演は実に12年ぶりだった。そしてその「ザ・ホエール」で12日夜、アカデミー賞主演男優賞を手にした。

かつて「ハムナプトラ」などのアクション巨編で主役を張る大スターだったフレイザーさんは、約10年間「荒野をさまよっていた」と自ら認める。

見事な復活を「ザ・ホエール」で果たしたフレイザーさんは、その多彩な才能のうち、これまであまり知られていなかった一面を示した。

フレイザーさんが演じた文学教授は、世間から身を引いて引きこもり、ひどく肥満している。関係が途絶えていた娘とのつながりを、築きなおそうとする。

アカデミー賞の授賞式で名前を呼ばれると、フレイザーさんはこみ上げる感情を抑えきれない様子で、息せき切りながらオスカー像を手に、これまでの苦労を振り返った。俳優としてのキャリアが思うようにいかなくなることもあり得ると、自分は気づいていなかったのだと。

「自分は30年前にこの業界に入って、いろいろ苦労してきたけれども、それがなくなるまでいかにありがたいことか分かっていなかったものがあった」

「ザ・ホエール」の意味するクジラとは、ハーマン・メルヴィル作の小説「モービー・ディック」への言及でもある。そのためフレイザーさんは、受賞スピーチで海にちなんだたとえを繰り返し、「海の底まで潜る冒険をしていたような気がする」と話した。「水面のボートから空気を運んでくれるチューブがつながっていて、自分の人生にかかわるいろいろな人が、その様子を見守ってくれているみたいだった」と。

受賞を、息子2人と喜ぶフレイザーさん

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画像説明, 受賞を、息子2人と喜ぶフレイザーさん

見守ってくれたのは、息子たちとマネジャーだった。フレイザーさんはスピーチでさらに、今作のダレン・アロノフスキー監督が「クリエイティブな命綱を投げてくれて、『ザ・ホエール』という素晴らしい船に自分を引き上げてくれた」と感謝した。

「みんな、ありがとう。1人1人それぞれとみんな全員。本当にありがとう」と、フレイザーさんはスピーチで続けた。

「再起へ準備万端」

Brendan Fraser in George of the Jungle

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画像説明, 1997年の「ジャングル・ジョージ」で名声を得たフレイザーさん

フレイザーさんは1997年映画「ジャングル・ジョージ」で名声を得た後、1999年から2008年にかけて「ハムナプトラ」3部作で主演した。

さらに、サー・イアン・マケレン主演の「ゴッド・アンド・モンスター」やマイケル・ケイン主演「愛の落日」、2005年のアカデミー賞作品賞受賞作「クラッシュ」などで、ドラマチックな役を演じたほか、「悪いことしましョ!」や「センター・オブ・ジ・アース 」など魔法やアクション満載の作品にも主演した。

しかし、アクション場面を演じる際の負傷から脊椎(せきつい)やひざや声帯の手術を繰り返し、2000年代後半になると出演の機会が少なくなっていった。

結婚が破綻すると、養育費の支払いをめぐり裁判となった。さらには、ハリウッドの実力者から性的暴力を受けたと名乗り出た。

Brendan Fraser and Rachel Weisz in The Mummy in 1999

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画像説明, 1999年の「ハムナプトラ」から、レイチェル・ワイスさんと

フレイザーさんは2018年、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)のフィリップ・バーク会長(当時)によって2003年に尻を触られたのだと公表した。HFPAは、バーク氏が確かに「不適切」な形でフレイザーさんに触れたと認めたものの、「ふざけてのことで、性的に誘ったわけではない」という判断を示した。

これに対してフレイザーさんは、この件を機に「引きこもるように」なったのだと話している。

大きい役がこなくなったのは、つらかったとも話す。「自分を大事だと思えるのは、仕事を通じてであって、せめて仕事のオファーがあるのか、オファーしてもらえるのか、そこにかかっていた」。

「初期のいろいろな映画を作って積み重なった、健康上の問題やけがや腰がどうしたとか関節がどうだという、そういうもろもろの手当てをまず済ませなくてはと気づいて。それで今また、再起に向けて準備万端だ」

「ザ・ホエール」がアメリカなどで昨年9月に公開されて以来、フレイザーさんの演技は今年度の映画界で最高峰とされ、本人にとっても過去最高だと高く評価されていた。

英紙テレグフラフは映画評で、「美しく力強い」作品だと5つ星の最高評価を与えた。BBCカルチャーは昨年9月の時点で、「魅力的な」フレイザーさんは「オスカー受賞が順当」だと書いていた。

それに比べると英紙ガーディアンの映画評は辛口で、フレイザーさんの演技はほめつつも、「陳腐」で「おおげさ」で「甘ったるい」映画だとして、星5つのうち星2つにとどめた。

Brendan Fraser plays Charlie

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画像説明, フレイザーさんが「ザ・ホエール」で演じた「チャーリー」

フレイザーさんは今年1月、BBCニュースの取材に対して、この映画を通じて「肥満とともに生きる人たちへの偏見」が減ることを期待すると話した。

自分が演じる「チャーリー」に言及し、「チャーリーのように暮らす人たちの代弁者」になる必要を感じたと話し、「彼のような登場人物を映画で初めて、尊厳と敬意をもって表現」しようとしたのだと述べた。

「(チャーリーのように極端に肥満した人も)思いや感情、心と家族のある人間なんだと、見失いがちだと思う」とも、フレイザーさんはBBCに話した。

フレイザーさんが「チャーリー」になるには、全身を特殊メークで覆う必要があった。これを身に着けることは、肉体的にも、感情面でも「挑戦だった」という。

しかし、アカデミー賞のメイクアップ・ヘアスタイリング部門で受賞した特殊メークによって、フレイザーさんが肥満の人物を演じたこと、さらには同性愛者を演じたこと、加えて「チャーリー」の人物像そのものについても、批判の声も出た。

「ミーン・ガールズ」などで知られる米俳優ダニエル・フランゼーゼさんは昨年9月、米誌ピープルに対して、どうしてフレイザーさんが「チャーリー」役に選ばれたのかと疑問を呈した。

「(フレイザーさんは)素敵な人で、映画は素晴らしい。でもどうして? どうしてわざわざ、特殊メークと肉じゅばんで、体重180キロのクィア(性的少数者の意味)の男を演じる必要が? 肥満したクィアな男について誰より詳しいのは、肥満したクィアな男だよ」

米作家・評論家のロクサーン・ゲイさんは米紙ニューヨーク・タイムズで、映画は「見る者の感情をぐちゃぐちゃにする」と評したうえで、特殊メークによる肥満の表現を「とんでもない」と批判。「チャーリーの肥満の描写は、悪質だ。搾取的で、時に残酷でさえある」と書いた。

「人間にとって太っているというのは究極的な欠点で、おぞましいことで、絶対に避けなくてはならないことだ」とアロノフスキー監督と脚本家サミュエル・D・ハンター氏が思っているのは、「火を見るより明らかだ」とも、ゲイさんは批判した。

「荒野をさまよった」

アカデミー賞に先駆けて、フレイザーさんは、全米映画俳優組合賞と放送映画批評家協会賞でも最優秀男優賞を受賞していた。

放送映画批評家協会賞を受けた際には、フレイザーさんは「僕はこれまで荒野をさまよっていました」と話した。

「この映画、『ザ・ホエール』は愛についての映画です。贖罪(しょくざい)について、暗闇の中でいかに光を見つけるか、そういうことについての映画です」

「荒野」で過ごした十数年はつらい日々だったという。しかし、その後の映画賞レースは見事な復活劇となった。

BBCのトーク番組で司会者のグレアム・ノートンさんに、「ブレンダンのルネッサンス(復活・再生)」を意味する「ブレネッサンス」だと呼ばれるのをどう思うか聞かれると、フレイザーさんは「なんて呼ばれてもかまわない。僕のことを呼んでくれる限り」と答えた。

Brendan Fraser

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