大勢が元主婦で非正規雇用……日本の「ウーマノミクス」はどこへ?

大井真理子、BBCニュース(日本)

Yumiko Suzuki with her husband and children.

画像提供, Yumiko Suzuki

画像説明, キャリアコンサルタントの鈴木祐美子さん(左)は、7年間の子育てを経て再就職した

女性活躍推進「ウーマノミクス」がうたわれて早6年。当初の「2020年までに指導的地位に占める女性割合を30%に引き上げる」という目標は、その半分にも届かず期限を過ぎた。

昨年12月、政府は目標達成時期を「2030年までの可能な限り早期」に先送りしたが、このままで本当に達成できるのだろうか?

安倍晋三前首相やその支持者が「ウーマノミクス」は成功したと言う時に掲げるのは、女性の就業率だ。過去最高の70.9%(15〜64歳)、25~4歳の女性では77.7%が働いている。

その背景には、第一子出産前後の離職率の減少がある。長年約6割で推移していたが、リクルートワークス研究所によると、2019年には42.1%となった。

日本ではこれまで、女性の仕事復帰を助けるために、入所申請後も保育施設に入れないいわゆる待機児童を減らすなどの政策がとられてきた。

しかし、日本の女性たちは本当にやりたい仕事に復帰できているのだろうか?

「すべての女性が輝く社会づくり」を目指したウーマノミクスだが、1990年代から減り続けている生産年齢人口の穴埋めに過ぎず、夫の単独収入だけで家計が支えられなくなっただけだという批判もある。

そして大学進学率は男性と同じく半数を超え、優秀な女性が多いにもかかわらず、平均年収が男性より40%以上も低いのはなぜなのか?

Former Japanese Prime Minister Shinzo Abe

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画像説明, 安倍晋三前首相のウーマノミクスは、「すべての女性が輝く社会づくり」を目指した

様々な理由があるが、その原因に挙げられるのは、仕事をやめて子育てに専念した後、キャリアに復帰した女性の給料低下、そして新卒一括採用や年功序列が今でも続く日本の雇用体制だ。

その影響を受けているのは女性だけではない。大学卒業時に内定がもらえなかった場合、翌年再度就職活動を行うことは難しく、履歴書にブランクがある人の大企業への再就職も困難だ。

「女性男性に関わらず、正社員というレールから日本で外れてしまった時に、正社員で復帰するということはほぼ無理です」と話すのは鈴木祐美子さん。WARC AGENTでリサーチャーを勤めている。

「もし復帰しようと思ったら、自分の家の近くのスーパーとか、学生がアルバイトするような感覚で、スキルもそんなにいらないお仕事に就くところから考え始めないと」

Japanese business women in Tokyo's central business district

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実は鈴木さんも15年前、専業主婦になる道を選んだ。

新卒で就職後は、終電を逃しタクシーで帰宅することもよくあったと言うキャリアウーマン生活を送った。男性と同じだけ働ける、結果が出せると証明したかった。

しかし同じ会社に勤める夫との結婚を決めた時、このままでは家族は持てないと思ったという。

「お互いに転勤の可能性があり、お互いに残業が当たり前の生活だった」

今なら時短勤務というオプションも増えたが、当時はなかった。

2人の子供の育児に専念した7年間後に仕事復帰を目指したが、履歴書にブランクがあると面接に呼ばれないことも多かった。

鈴木さんは3つの資格を取り、ベンチャー企業で再就職を果たし、今は他の女性のキャリア復帰を手伝っている。

Yumiko Suzuki with her husband and children.

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画像説明, 子育て後に再就職しようとした鈴木さんは職歴に空白期間があった。面接に呼ばれないことも多かったという

シニア男性と同じ支援を主婦にも

日本では珍しく、元専業主婦やシングルマザーを積極的に雇っている会社がある。薄井シンシアさんがカントリーマネージャーを務めるLOFホテルだ。

自身も17年の専業主婦生活を経て、47歳で得た仕事は娘の学校の給食係だった。

薄井さんは、「自分もいろんな人にチャンスをもらったから、今度は私が人にチャンスを与える番」と話す一方で、多様性に欠ける企業は生き延びられないと信じている。

「私が作っているチームは日本の未来だと思っています。高齢化が進む今、日本企業にもチョイスはない」

しかし、仕事復帰を目指す元主婦のトレーニングにかかる費用、また短期間で辞められてしまうなどのリスクを負うのは薄井さんの会社だ。

「日本政府は50代60代の男性の再就職支援に多額を費やしている。同じだけの努力を元専業主婦のトレーニングに行うべきだ」

シニアの再就職を押す理由も、日本の労働人口の減少だ。

Women walk past a cleaner in Tokyo's Ginza district on April 3, 2019

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ウーマノミクスを成功させるには?

しかし、「ウーマノミクス」の提唱者として知られる元ゴールドマン・サックスのキャシー松井さんは、変化はすでに起きていると指摘する。

「私が最近入ったベンチャー業界では、すでに労働者の取り合いになっている。今までなら、日本のエリートの学生たちは大企業での就職を目指した。でも若者は、父や祖父のように部長になるのに30年も待ちたくない。彼ら、彼女たちの取り合いが続く中、今までの雇用制度は見直されている」

ジョブ型雇用を採用しているベンチャー企業が増え、その変化はいずれ日本全体に広がるという。

ウーマノミクスが成功するための秘訣(ひけつ)をキャシーさんに聞いてみた。

「日本では、ウーマノミクスは人権問題や男女平等問題だと捉えている人がまだ多い。もちろんその通りだけど、それではみんなの協力は得られない。女性の管理職を増やすことで、企業の実績や、国の経済成長に貢献するという理解を深めなくてはいけない」

「2020年までに女性リーダを3割に」という目標をたてて失敗した日本政府を除けば、ゴールの数値と期限を決めて女性活躍を目指す日本企業は少ない。

一方で外資系企業、たとえばキャシーさんが以前勤めていたゴールドマン・サックスは、新卒採用での男女比目標を「50:50」にしている。

同行は、エンジニアと雇用する新入社員候補に女子学生が少ないことに気づき、2019年にはコーディングの基礎を教えるワークショップを始めた。その背景には、大学の工学部における女子生徒の割合が約15%にとどまっている事実がある。

真の女性活躍の推進は、日本政府や企業の課題でもあると同時に、日本人女性の意識の問題でもある。

Japan, Honshu, Tokyo, Subway Passengers

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元専業主婦の鈴木さんは、家にいた7年で学んだスキルも多いと話す。

「洋服をたたみながら、夕飯の献立を考えながら、お姉ちゃんの宿題を見る。優先順位をつけて、タイムマネージメントをすることを、私は専業主婦になって学んだんです。そのスキルが社会でも役に立つと信じるのは女性次第。私は履歴書のブランクは、本当のブランクではないと信じています」