【解説】 戦闘機に航路変更を迫られたら、旅客機はどうすればいいのか
サイモン・ブラウニング、ビジネス担当記者

画像提供, Reuters
「軍用機に進路を妨げられ、指示を受けたら、応じる」。あるパイロットはBBCにそう話した。そして、ベラルーシが旅客機を着陸させたのは「まったく無謀」だったと言った。
ベラルーシは23日、戦闘機を緊急発進させ、ギリシャからリトアニアに向かっていたライアンエアーの旅客機を、ベラルーシの首都ミンスクの空港に着陸させた。爆弾が仕掛けられていたと同国は主張したが、爆発物は発見されなかった。
この騒動の中、ミンスクの空港では、旅客機に乗っていた反体制派ジャーナリストのロマン・プロタセヴィッチ氏が、ベラルーシの警察によって連行された。この空港に寄ることは、当初の飛行計画には含まれていなかった。
BBCが取材した航空関係者たちは、今回の出来事を「大きな外交問題」だとした。あまりに深刻で、似たような例は思いつかないと話した。
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航空機は国際空域を飛行している時、機体が登録された国の国籍を有している。
今回のライアンエアーの機体は、ポーランドで登録されたとみられている。ライアンエアーはアイルランドの航空会社だが、子会社の「ライアンエアー・サン」の登録だった。つまり、この航空機は飛行している間、どの空域にいようとポーランド国籍を持っていることになる。
「飛行中の航空機の進路を妨げるのは、登録した国を巻き込む外交問題だ」と、主要航空会社の幹部は話した。
あるパイロットは、「今回のことは数多くの国際協定に大きく違反している」と述べた。
航空機が着陸せずに各国の上空を飛ぶことを認めているのが「第1の空の自由」だ。それらの「空の自由」は、乗客や貨物を世界各地に運ぶうえで欠かせないものとなっている。
旅客機の航行を上空で妨げ、第三国に着陸させたベラルーシの判断は、それに違反するものだ。ライアンエアーのマイケル・オリアリー最高経営責任者が今回の事象を「国家主導の海賊行為」と呼んだのは、そのためだ。
ただベラルーシは、「第1の空の自由」や他の権利などを具体化した「国際航空業務通過協定」に署名していないとみられることが、BBCの取材でわかっている。
軍が航路変更を指示できるのは
航空専門家らによれば、軍が航空機の誘導をしたり航行を妨げたりするのは、主に安全上の理由がある場合だ。乗客や地上の住民らが危険な状態にある時、国は保護のための対応を取る。
航空管制(ATC)が一時的に航空機と交信できなくなった場合は、管制官らがすぐに再開に努める。それがうまくいかず、航空機の乗員が2種の周波数の呼びかけに応じない場合、軍が出動できる。
「戦闘機は乗員の注意を引き、交信させて、ハイジャックされていないことや、首都に墜落間近ではないことを確認する。9・11事件の後、ATCは交信が途絶えることにとても神経質になっている」と、あるパイロットは説明した。
機長が機体の遭難を知らせる多数の「スクォーク・コード」の1つを無線で発信した場合も、軍は出動できる。機器の緊急事態、交信不能、違法な妨害を受けていることをATCにひそかに知らせる場合など、状況はさまざまだ。

戦闘機による誘導
戦闘機が旅客機を誘導するために緊急発進した場合は、旅客機の前で編隊を組む。
「機長は操縦室で左側に座っている。そのため戦闘機の1機は航空機の左側につき、機長からはっきりと見えるようにする」と、航空業界の有力者は言う。2機目の戦闘機がいる時は、航空機の右側か後方に位置を取るという。
この時点で、戦闘機は旅客機に対し、国際緊急周波数での交信を試みる。無線が通じず、コミュニケーションが取れない場合は、次の行動を示す各種のシグナルを発することになる。
「夜であれば照明を点滅させる。昼なら翼を揺らし、ついて来るよう指示する。その場合、従う必要がある」と前出のパイロットは説明する。
フェイスブック内のパイロットたちの私的なグループでは24日、今回の緊急着陸に関する活発な議論が起きた。多くの人が、戦闘機に従ってミンスクに向かったパイロットが批判されていることについて意見を述べた。
「軍用機に飛行を妨げられ、命令されたら、従うしかない。従わないわけにはいかない。従わないという選択肢はない。地上で警察に指示された場合と同じだ」と前出のパイロットは話した。
パイロットの苦悩
ヨーロッパのすべてのフライトは、欧州航空管制局に提出されたフライトプランがある。そこには離陸から、飛行ルートに関するあらゆる要素、着陸までのあらゆる事が記されている。しかし、軍用機に飛行が妨げられた場合、そうしたプランはほぼ完全に吹っ飛ぶことになる。
「パイロットは極めて不安になる。彼らは理由も、何が起きているかもわからない。どこに行くのか? 空港はどんなふうなのか? 天候はどうなのか? 案内書はない。私はそうしたことを心配に思う」と、前出の英大手航空会社のパイロットは話した。
問題なのは、今回のようなケースでは、後をついて飛行するよう求められるルートをパイロットはよく知らず、全般的にリスクが高まる恐れがあることだ。
「進行中の出来事の中に放り込まれ、フライトプランや安全管理についてのコントロールを失う」と、航空業界の幹部は説明した。「プランがない状態で状況認識力は低下し、安全な着陸のための飛行経路を計画する能力も落ちる」。
イギリスの航空機は現在、ベラルーシの空域を避けるよう勧告されている。
グラント・シャップス英運輸相は24日、「乗客の安全確保のために」航空会社にベラルーシ空域を飛行しないことを求めるよう、民間航空機関に指示したと話した。ベラルーシの国営航空会社ベラヴィアの営業許可は一時差し止められた。
ベラルーシ上空で23日朝、何時に何が起きたのかなど、多くの詳細はまだ明らかになっていない。ただ、航空会社1社、乗客2人、大陸全体をめぐって、大々的な外交問題が進行している。
今回の出来事における外交および安全面の状況を考慮し、航空業界の関係者らは氏名を出さないことを希望した。









