スポーツ仲裁裁判所、「追悼ヘルメット」のウクライナ選手の訴えを却下 失格決定

深刻な表情で、死亡したアスリートらの写真をつけたヘルメットを右手に持つヘラスケヴィッチ選手

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画像説明, ウクライナのスケルトン男子のヘラスケヴィッチ選手は今大会、ロシアの侵攻によって死亡したアスリートらの写真をつけたヘルメットを着用して練習に臨んだ
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ジェス・アンダーソンBBCスポーツ記者(コルティナ)

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は13日、ミラノ・コルティナ・オリンピック(五輪)で、国際オリンピック委員会(IOC)が使用禁止としたヘルメットをめぐり失格となった、ウクライナのスケルトン男子選手の異議申し立てを却下した。これにより、ウラジスラフ・ヘラスケヴィッチ選手(26)は今大会に出場しないことになった。

開会式でウクライナの旗手を務めたヘラスケヴィッチ選手は、ロシアによるウクライナ侵攻で殺されたアスリートたちの姿を多数描いたヘルメットを、大会の競技中にかぶると表明した。しかし、IOCはこれを認めず、同選手を失格とした。

これを受けてヘラスケヴィッチ選手はCASに緊急に訴えを起こし、失格処分の撤回とヘルメットの着用許可、そして12日に欠場したスケルトン2本の滑走をCASの監督下で完了することを求めていた。

それに対してCASは、ヘラスケヴィッチ選手の主張と、同選手の「表現の自由」の権利には「十分に理解を示す」としつつ、競技の場では認められないとした。

IOCは当初、ヘラスケヴィッチ選手の参加資格そのものを剥奪していたが、最終的に返還した。CASも「この状況下では」資格の剥奪は「不当」だと判断した。

ヘラスケヴィッチ選手は先週、競技前のトレーニング中にこのヘルメットを着用していた。これについてIOCは、五輪憲章の規則に反すると指摘した。

オリンピック憲章は規則40条2項で、「オリンピック競技大会における全ての競技者、チーム役員その他のチーム関係者は、オリンピックの価値観及びオリンピズムの基本原則にのっとり、かつIOC理事会が定める指針に従って、表現の自由を享受する」と定めている。

IOC側は、「競技場は神聖だ」とする一方、会場のミックスゾーン(報道陣が選手にインタビューできる区域)やソーシャルメディアでヘルメットを見せることや、競技中に黒い腕章を着けて追悼の意を示すことは認めると提案した。しかし、ヘラスケヴィッチ選手は妥協しなかった。

IOCのカースティ・コヴェントリー会長も、12日の競技前に最後の説得に努めた。会長によると、丁寧な話し合いが長時間続いたが、妥協点を見いだすことができなかったという。

「ロシアの手口に乗せられている」

ヘラスケヴィッチ選手はCASに対し、IOCによる失格処分は「不釣り合い」だと述べ、他の選手は大会中に自分の悲しみを表現することができていたと主張した。

たとえば、10日にあったフィギュアスケート男子ショートプログラムでは、アメリカ代表のマキシム・ナウモフ選手が演技後の採点待ちの間に、米首都ワシントン近郊で先月起きた航空機事故で死亡した両親の写真を掲げていた。

しかしIOCはヘラスケヴィッチ選手について、五輪憲章に盛り込まれている「アスリートの表現」ガイドライン(2023年策定)に違反したと指摘した。同ガイドラインは、「五輪で焦点となるのは、選手の競技でなくてはならない」と定めている。

ガイドラインはまた「五輪の競技においてスポーツは中立であり、政治的、宗教的、その他いかなる種類の干渉とも切り離されていなくてはならない。これは根本原理だ」と規定している。

IOCの広報担当マーク・アダムズ氏は12日、戦死者を追悼する装備の着用をIOCが認めたりすれば、五輪が悪用される可能性があると述べた。

これに対しヘラスケヴィッチ選手は、今大会が「ロシアの宣伝工作」として機能していると非難した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、IOCが「ロシアの侵略者の手口に乗せられている」と述べた。

ヘラスケヴィッチ選手はCASの決定後、ドイツでミュンヘン安全保障会議に出席しているゼレンスキー大統領と面会。ゼレンスキー氏から自由勲章を授与された。

ヘラスケヴィッチ選手は、五輪に参加する同胞からも支持を受けている。14日には、アルペンスキー男子大回転に出場したドミトロ・シェピウ選手が、競技後に「ウクライナの英雄は我々と共にいる」と記した紙を掲げた。リュージュ・団体リレーのウクライナチームも13日、ヘラスケヴィッチ選手への連帯を示すため、ひざまずいてヘルメットを掲げた。