上司に「できません」と言いにくい時、どう言えばいい

オフィスで机に片肘をつき、手で頭を支えているアフリカ系の女性。渋い表情をして斜め後ろを見ている

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アレックス・テイラー

上司に向かって「いいえ」、あるいは「できません」と言うなど無理――。私たちはそう思いがちだ。

自分の仕事がなんだろうと、相手をがっかりさせるよりは、すごい、大したものだと思ってもらいたいのも人の常だ。

しかし、意欲や向上心というのは厄介なものだ。自分でも気が付かないうちに、ずるずると坂を滑り落ちていることがある。気が付かないうちに、仕事を家に持ち帰っている。持ち帰った仕事は、週末に忍び込み、あなたの休日に染み込み、家族や友達と過ごすはずの時間を妨害する。

この流れをせき止めるには、境界線をどうやって引くか、そのやり方を学ぶことが有効だ。働き方の専門家たちは、そう口をそろえる。

働き方アドバイスのポッドキャストを持つキャリアコーチのヘレン・タッパーさんは、この線引きについて、どういう言い方をするといいか、よりしっかり線が引けるようになるか、こう提案する。

「できません」ではなく、「しません」と言うのだ。

「できません」という答えは「駆け引きの余地を生んでしまう」と、タッパーさんは言う。「中には、『いや、実はできるでしょう』とあなたを説得しようとする人もいるかもしれない」。

なので「できません」の代わりに、「しません」「やりません」と答えた方が意味がはっきりしていて、相手も「いやそんなことはないでしょう」とは言いにくい。

たとえば、「水曜の午後5時以降は、会議に出ません。子供を迎えに行くので」という言い方はどうだろうと、タッパーさんは提案する。

モデル出身の料理人でテレビで数々の料理番組に出演したロレイン・パスカルさんは、自分で線を引かなかったことで、結局は自分が燃え尽きることになってしまったのだと話す。

パスカルさんはテレビに出ながら、ロンドン中心部の繁華街コヴェント・ガーデンにケーキ店を開き、料理本を何冊も出した。その間ずっと、娘を育てながら。

「私はともかく、『ノー』と言うのがあまり得意じゃなかった」とパスカルさんは言う。

「人をがっかりさせたくないし、自分が何をどうするべきか、いろいろな人がいつでもいろいろなことを言ってくる。なので、自分はがむしゃらに頑張り続けてしまう」という状態が続いたのだと、パスカルさんは今月、BBCラジオ番組に話した。

パスカルさんは、たとえば自分の本に掲載するレシピをすべて自ら確認して承認しなくては気が済まないといった自分の完璧主義も、決して自分のためにならなかったとも話した。

やがて身体的にも精神的にもくたびれ果ててしまった時、パスカルさんはケーキに一切「近づきたくなくなった」のだという。

「自分の体全体が反応しているみたいだった。胸がぎゅっとなる感じで」とパスカルさんは話した。

「自分で自分とずっと言い争っていた。すごく自分を責めて、罪の意識もすごくて、とても疲れていた」

赤いカーテンを背に、黒い服と黒いヘッドバンドを付けたアフリカ系女性がカメラに笑顔を向けている
画像説明, 10月初めにBBCラジオ番組「Woman's Hour」に出演したパスカルさん

働きすぎ、がんばりすぎて燃え尽きてしまうことは、誰にでもあり得る。パスカルさんの経験がそれを示している。ただし、女性の方がそうなりやすいという統計もある。家族の世話や家事の負担が、女性にかかりやすいからだ。

クレア・アシュリー医師は神経科学を専門とする一般診療医で、自分自身が燃え尽きを経験した後に書いた「The Burnout Doctor(バーンアウト医者)」の著者でもある。

そしてアシュリー医師は、実践的な話として、毎日いつ仕事を終えるのかしっかりしたルーティーンを決めてそれを守るようにとアドバイスする。その繰り返しを守ることで、私たちの脳はその日の「ストレス・サイクル」を完了させ、その後のオフの時間を楽しめるようになるのだという。

しかし、本当の解決方法は、自分の目標を自分が「今できる範囲」に合わせることだと、アシュリー医師は言う。

「自分が達成したいことが、その時その時の自分の心と感情の余地に照らして、理にかなっているか、自分に聞いてみるのがいい」

パスカルさんの場合、そうするために彼女は料理からいったん離れて、セラピーを受けることにした。その結果、周りに認められようとがむしゃらになる、自分のそのがんばりに含まれる負の要素が実は、里親に育てられた自分の幼少期に関係すると、理解することができた。

自分自身を理解するに至ったこの経験を経て、パスカルさんは心理学を勉強するようになった。そして、自分が「そうしたい」から料理をするという状態に徐々に戻れるようになり、「前よりずっと」回復したのだという。

もちろん、どのような仕事にもストレスと長時間勤務はつきものだ。

しかし、複数の統計によると、「もう無理」という状態に達してしまう働く人の数は増えている。

私たちは「バーンアウト(燃え尽き)」という表現を使う時、その定義をあまり厳密には考えていない。ただし、ストレスを感じたり、バーンアウトした(燃え尽きた)と感じることと、医学的な分類としての「燃え尽き症候群」は同じではない。

アシュリー医師は、(1)疲労、(2)デタッチメント(距離を置くこと、意欲低下、無関心)、(3)仕事のパフォーマンス低下が、「燃え尽き症候群」の典型的な3症状だと説明する。

この症状が三つともそろわなければ、「燃え尽き症候群」とは診断されない。しかし、たとえ診断されなくても、その状態に近づいていないとは言い切れない。

他人との比較ではなく

前出のキャリアコーチ、タッパーさんは、次はどうする何をするとただ「次」に集中し続けるよりも、いったん立ち止まり、自分のこれまでの成果・成功を認め、受け入れ、ほめてあげるのが大事だと話す。

さらに、同僚たちとの比較をできるだけ避けるのも役に立つと、タッパーさんは言う。自分が自分として走れるように。

もちろん、職場で立場上、「やりません」と言えない人も大勢いる。特に、企業や、上下関係の厳しい環境では。

イギリス国民保健サービス(NHS)の精神科医で「Burnout-Free Working(燃え尽きない働き方)」の著者でもあるリチャード・ダギンズ医師は、こうした人たちを支援している。自分では線を引けないと感じている人たちだ。

組織の序列での自分の地位はあまり高くないとしても、それでも上司に話してみるのがいいと、ダギンズ医師は背中を押す。

「ほとんどの上司や雇用主は、どれだけ頑固で厳しい人でも、燃え尽き防止が全員のためになるのだと理解すれば、部下の言い分に耳を傾けて、必要な調整をしてくれるものだ」

ダギンズ医師はさらに、境界線を引くことや助けを求めること、あるいは仕事量を調整したり柔軟な対応方法を工夫したりすることは、どれも役に立つと言う。けれども結局のところ、自分が働く環境が変わらないならば、働く側が、自分自身を守るために必要な変化を起こす必要がある。

自分がいま人生のどの段階にあるのか、自分のライフステージを理解することも、役に立つとアシュリー医師は言う。

「たとえばパートタイムで働いている人や、家族の世話をしなくてはならない人が、若い同僚と同じようには働けないと言うのは、それはそうだろうということになる」

パスカルさんはこういう言い方をする。

「やる気や意欲はいいものです。意欲的なのは素晴らしいことです。ただし、今よりは、『ノー』と言えるようになる方がいい」