トランプ氏、英国王夫妻に「敬意を表し」ウィスキー関税を撤廃と発表 EUには自動車関税を引き上げると

チャールズ英国王とトランプ米大統領が、晴れた屋外で握手を交わしている。背後にはカミラ王妃とメラニア・トランプ氏が言葉を交わしているのがぼやけて写っている

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アメリカのドナルド・トランプ大統領は4月30日、イギリスの国王チャールズ3世とカミラ王妃のアメリカ公式訪問に「敬意を表し」て、同国のウイスキーに対するすべての関税を撤廃すると発表した。一方5月1日には、欧州連合(EU)から輸入される自動車およびトラックに課す関税を、25%に引き上げると発表した。

トランプ氏は、英スコットランドが米ケンタッキー州とウイスキーおよびバーボンについて協力する能力に課していた制限も、解除すると述べた。

イギリス政府はこの発表について、アイルランド産ウイスキーを含むすべてのウイスキー関税に適用されると認めた。

他方、欧州委員会は、「EUの利益を守るために選択肢を残しておく」と述べた。自動車製造は欧州経済の中で大きな比重を占めており、トランプ氏は特に敏感な分野を選んだ形だ。

イギリス国王夫妻はアメリカ公式訪問で、4日間にわたり首都ワシントンのほか、ニューヨークとヴァージニア州を訪れ、30日に出国した。

ウィスキー関税に関するトランプ氏の今回の発表を受け、国王夫妻の公務を管理する英バッキンガム宮殿の報道官は、国王がトランプ大統領に「心からの感謝」を伝えたと明らかにした。国王は「大統領の思いやりに乾杯する」ことになるとも、報道官は述べた。

スコットランド自治政府のジョン・スウィニー第一大臣(首相に相当)は、「スコットランドにとって素晴らしいニュースだ」と述べ、国王が果たした重要な役割に感謝しているとした。また、「スコットランド経済から毎月、数百万ポンドが失われていた」と述べた。

「素晴らしい名誉」

トランプ氏は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「ホワイトハウスを後にして素晴らしい祖国に間もなく戻る、イギリスの国王と王妃に敬意を表し、スコットランドとケンタッキーにとって非常に重要な産業のウイスキーとバーボンについて、スコットランドがケンタッキー州と協力する能力に関連する関税と制限を、解除する」と書いた。

ケンタッキー州で使われたバーボン樽の最大の顧客はスコッチウィスキー業界で、年間約2億ポンド(約430億円)相当を輸入してきた。

パレットに積まれたウイスキー樽が何段にも積みあがっている。その手前で、蛍光色の作業着を着た男性が樽を転がしながら運んでいる

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「国王と王妃は、ほとんど頼みもしないのに、ほかの誰にもできなかったことを私にやらせた」とトランプ氏は述べ、「二人をアメリカ合衆国に迎えられたことは、素晴らしい名誉だ」と書いた。

この投稿後に開かれた記者会見では、トランプ氏は「私はすべての制限を外した。これでスコットランドとケンタッキーは、再び取引を始められる」、「先ほど(アメリカを)去った国王と王妃に敬意を表するためにしたことだ」と話した。

王室の「威光」が後押しか

スコットランド自治政府とイギリス政府の双方は、スコットランドおよびアメリカの蒸留業者の双方の利益になるとして、これまでの10%関税を引き下げるか撤廃するよう働きかけてきた。

トランプ政権下で導入された対米輸出への関税は、輸入コストに10%を上乗せするもので、スコッチ・ウイスキーにとって最大の輸出市場のアメリカでの販売を直撃していた。

4年前に停止されていたシングルモルトに対するアメリカの関税も、トランプ政権との間で合意が成立しない限り、25%の追加分を伴って近く復活する見通しだった。高価格で販売されるシングルモルトは、アメリカ向け輸出の中でも特に重要な位置を占めている。

スコッチ・ウイスキー協会のグレアム・リトルジョン代表(戦略担当)は、「大変うれしい」とBBCスコットランド・ニュースに話した。

リトルジョン氏は「業界はアメリカ向け輸出の減少のせいで、週に約400万ポンドを失っていた。関税が課されていた過去1年では、約1億5000万ポンドの損失となっている」と説明。「これは業界にとって本当に追い風で、関税撤廃のおかげで蒸留業者はほっとするはずだ」と述べた。

リトルジョン氏はさらに、「ここまでこぎ着けたのは、何カ月にもわたり非常に高いレベルで続けられてきた膨大な交渉の成果だ」として、「今回の公式訪問が最終的な実現の触媒になったのかもしれないし、取引成立を国王の威光がいくらか助けたのかもしれない」とも話した。

イギリスのピーター・カイル・ビジネス・通商相は、「これは、スコッチ・ウイスキー産業にとって素晴らしいニュースだ。この業界の輸出額が約10億ポンドに達し、イギリス全土で数千人の雇用を支えている」と述べた。

EUが「合意を順守していない」と非難、詳細は明かさず

他方、トランプ氏は1日、「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、EUが「完全に合意された貿易協定を順守していない」と非難した。ただし、どの点が問題なのかについては説明しなかった。

また、「自動車とトラックについて、EUに課している関税を来週から引き上げると発表できてうれしい」とも書いた。

関税引き上げを発表するにあたり、トランプ氏は欧州の自動車メーカーに対し、生産をアメリカに移すよう促した。

投稿でトランプ氏は、「自動車とトラックをアメリカの工場で生産すれば、関税は一切かからないということは、完全に理解され、合意されている」と記した。

また、アメリカの各地で自動車とトラック工場に数十億ドルが投じられていると述べ、これを「自動車・トラック製造の歴史における記録だ」と表現した。

トランプ氏はさらに、「今日アメリカで起きているような事態は、かつてなかった」と付け加えた。

EUとアメリカは昨年7月、トランプ氏が英スコットランドに持つターンベリー・ゴルフ場で貿易協定の枠組みに合意。アメリカはこの時、トランプ氏が「解放の日」に課した欧州製品大半への30%の関税を、15%に引き下げると約束した。

欧州側はその見返りとして、対米投資を約束するほか、アメリカの対EU輸出拡大につながると見込まれる変更を、域内で実施すると約束していた。

この協定は最終的に3月に欧州議会が承認した。トランプ政権が「協定の目的を損ない、EUの経済主体を差別し、加盟国の領土保全や外交・防衛政策を脅かし、または経済的威圧に関与した」と判断された場合に、協定を停止できる条項が追加された。

その後、鉄鋼とアルミニウムをめぐる対立のため、協議は再び停滞している。ドイツやフランスなど欧州の主要な経済国は、幅広い品目で関税を調整するというアメリカの計画を拒否していた。

アメリカは「信頼できない」と欧州議会幹部

トランプ氏の発言を受け、欧州委員会は声明で、EUは「通常の立法慣行に沿って協定を実施し、その過程で米政権には常に全面的に情報を提供してきた」と述べた。

同委員会の報道官は、「我々は大西洋をまたぐ、予測可能で、双方に利益のある関係に引き続き全面的にコミットしている。アメリカが共同声明と整合しない措置を取る場合には、EUの利益を守るため、選択肢を残しておく」と述べた。

欧州議会のベルント・ランゲ国際貿易委員長はBBCに対し、トランプ氏の発言は、アメリカが貿易相手として「いかに信頼できないか」を示すものだと述べた。

EU内で影響力の大きいドイツ出身のランゲ氏は、「トランプ大統領の行動は容認できない」と述べた。

また、EUが協定上の義務を果たしていないとする大統領の主張を否定。欧州議会は必要な立法措置の策定を進めており、6月までの完了を目指していると説明した。

一方でランゲ氏は、欧州議会の国際貿易委員会が、グリーンランドをめぐるアメリカの圧力や、米連邦最高裁判所の判断の余波を受けて、協定の実施を一時停止していたことは認めた。

そのうえで、鉄鋼やアルミニウムを含む製品が現在、平均で26%の関税を課されていると述べ、アメリカは「繰り返し協定に違反してきた」と指摘した。

「今回の最新の動きは、アメリカ側がいかに信頼できないかを示している。グリーンランドの件でも、こうした恣意(しい)的な攻撃をすでに目の当たりにしてきた。これは、緊密なパートナーに対する扱いではない。いま我々にできるのは、自らの立場の強さを踏まえ、最大限の明確さと断固とした姿勢で対応することだけだ」

スイスの国際経営開発研究所(IMD)に所属する貿易専門家、サイモン・イヴネット教授はBBCに対し、「この(米)政権はどんな合意も守れないと、そう思ってきた人たちは、そら見たことかと思っているに違いない」と述べた。

一方で、「もっとも、SNSへの投稿は法律ではない。EUは、報復に踏み切るかどうかを決める前に、細部を確認しようとするはずだ」とも話した。

トランプ氏が1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に導入した「解放の日」関税については、米連邦最高裁が今年2月、その大部分を無効と判断した。これを受け、政府に支払った輸入関税の全額返還を受けるため、複数の企業が訴訟を起こしている。

ただし、自動車に影響する関税は別の法的手続きに基づくため、この最高裁判断の対象になっていない。