破壊されたダムの下流、数千人が避難 ウクライナは4万人超が避難必要と

アレックス・ビンリー(ロンドン)、ポール・アダムス(キーウ)、BBCニュース

動画説明, ウクライナのダム破壊 これまでの被害状況は

ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域にある水力発電所のダムが決壊したことで、ドニプロ川の下流では数千人が避難している。

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ノヴァ・カホフカにあるカホフカ・ダムが6日未明に決壊した後、80町村が浸水する可能性があると述べると共に、ロシアがダムを決壊させたとした。

ドニプロ川に大量の水が流出しており、下流のヘルソン市は壊滅的な洪水の危険に直面しているとされる。

カホフカ・ダムを管理しているロシアは破壊行為を否定。ウクライナの砲撃によるものだとしている。

双方の主張ともBBCは検証できていない。

巨大なカホフカ貯水池の下流にあるカホフカ・ダムは、地域の農家や住民らに水を供給すると共に、欧州最大のザポリッジャ原発にも冷却水を供給している。また、ロシアが占拠しているクリミア半島への重要な水路の一部にもなっている。

ウクライナの原子力事業者エネルゴアトムは、下流への水の流出のピークは7日朝との見通しを示し、注意を呼びかけた。その後、「安定化」の期間となり、水は4〜5日間で急速に引くだろうとした。

「原発に直ちにリスクない」

国際原子力機関(IAEA)は、ザポリッジャ原発の状況について、管理ができており、「直ちに原子力安全上のリスクはない」としている。

複数の映像によると、ダムの決壊部分から大量の水が噴き出ている。いくつかの町はすでに浸水しており、より下流の地域で暮らす人々はバスや電車での避難を余儀なくされている。

ウクライナのテレビでは、同国のヴィクトリヤ・リトヴィノヴァ副検事総長が、ドニプロ川の西側のウクライナ領で1万7000人、東側のロシア支配地域で2万5000人が避難の必要があると説明。イホル・クリメンコ内相は、これまでに約1000人が避難し、24の集落で浸水被害が出ていると述べた。

内相はまた、住民が非難しているヘルソン南部をロシアが砲撃したと非難。住民らに対しては、水位上昇で地雷がむき出しになっており危険だと注意を呼びかけた。

動画説明, ウクライナ南部ヘルソンのドニプロ川で建物が流されていった

カホフカ・ダムの近くに住むアンドリイさんは、ロシアが街を「溺れ」させようとしていると語った。同ダムはロシアが昨年2月にウクライナに本格侵攻を始めた直後からロシア軍が押さえている。

ウクライナ管理下のヘルソン市では、リュドミラさんという女性が、洗濯機などを古い車に連結したトレーラーに積んでいた。「洪水が怖い。少し高いところに家の物を運んでいる」と言い、ロシア軍については「ここから追放してほしい。(中略)私たちに向けて銃撃している。私たちを水浸しにするなどしている」と話した。

同じくヘルソン市で暮らすセルヒイさんは、「ここですべてが死ぬ」のを恐れていると心境を説明。近くの家や庭を手で示しながら、「すべての生き物や人が流される」と言った。

A Red Cross vehicle drives through Kherson

画像提供, Reuters

画像説明, カホフカ・ダムから約80キロ下流のヘルソン市も浸水した
Presentational white space

ロシアが制圧しているノヴァ・カホフカの川岸では、ロシアが任命したウラジミール・レオンティエフ市長が、街が水没して900人が避難していると説明した。

市長によると、同市と近隣の2集落から住民を安全な場所に移動させるため、避難用のバス53台を当局が手配したという。水位は11メートルを超え、住民の中には病院に運ばれた人もいるという。

小さな町オレシキーでも大規模な浸水が発生したと、ロシアが任命した町当局者らが明らかにした。

ロシア支配地域の川岸にあるカズコヴァ・ディブロワ動物園はフェイスブックに、同園が完全に浸水し、約300匹いたすべての動物が死んだと投稿した。

動画説明, ノヴァ・カホフカでは水面を白鳥が泳いでいた

カホフカ・ダム決壊の原因について、ウクライナ軍の情報機関はロシアが意図的に爆破したとしている。

ロシア側は、ウクライナ軍が反転攻勢でダムの道路を通ってロシア支配地域に進入することを恐れていた節がある。そのことからすると、ウクライナ側の見方は理にかなっていると思われる。

ウクライナ南部の支配地域を死守したいロシアにとっては、カホフカ・ダムは明らかに問題だった。

ウクライナ軍は昨秋、ドニプロ川下流の道路や鉄道橋を攻撃し、ロシア軍をヘルソン周辺で孤立させるのに成功した。ロシアはウクライナによる多方面からの反撃を恐れており、ダムの破壊に踏み切ったのかもしれない。

カホフカ・ダムとその周辺の地図

一方、ロシア政府関係者は、ウクライナが反転攻勢と、クリミア半島に真水が届かないようにするのに「失敗」したことを目立たなくするため、ダムを攻撃したと主張している。

ウクライナの大規模な反撃はしばらく前から予想されている。ウクライナは予告はしないとしているが、ここ数日の軍事活動の増加は反撃の開始を示しているとみられている。

ゼレンスキー大統領は6日夜のビデオ演説で、ダムの破壊がウクライナを止めることはないと強調。「私たちはすべての領土を解放する」と述べた。

An aerial image shows water pouring through what appears to be a breach in the dam

画像提供, Maxar Technologies/Reuters

画像説明, カホフカ・ダムの決壊場所とみられる衛星画像
Presentational white space

ウクライナ国防相顧問のユーリ・サク氏は、BBCラジオ4の番組で、ロシアが別のダムも狙っていることが、傍受された電話の内容からうかがえると説明。「(ロシア側は)ドニプロ川のダムをもっと爆破するよう指示している」と述べた。

ウクライナは、今回のダム攻撃を「エコサイド」(環境の大規模破壊)と呼び、エンジンオイル150トンがドニプロ川に流出したと明らかにした。

ウクライナの水力発電関連の事業者は、カホフカ・ダムとつながる発電所について、「完全に破壊された。(中略)水力発電の構造物が流されている」とした。

各国の指導者らは、今回のダム決壊はロシアの責任だと主張。戦争犯罪だとする人もいる。

イギリスのリシ・スーナク首相は、ロシアのせいだと判明すれば、「ロシアの侵略が新たなレベルへと悪化したのを示すことになる」と述べた。

北大西洋条約機構(NATO)イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ダム破壊はウクライナでのロシアの戦争における残虐性を改めて示したと発言。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は「前例のない攻撃に衝撃を受けている」と述べた。

戦争でダムを標的にすることは、民間人に危険が及ぶことから、ジュネーヴ条約で明確に禁止されている。