イスラエル・ガザ戦争の偽情報と憎悪投稿、背後に誰がいるのか
マリアナ・スプリング偽情報・ソーシャルメディア担当編集委員

画像提供, Reuters
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区で起こっていることをめぐって、うそ、陰謀論、憎悪に満ちたコンテンツがソーシャルメディアにあふれている。インターネットでの会話を操作するために偽のアカウントが使われているのではないかという疑問の声も多数出ている。
先日、記者がTikTok(ティックトック)のFor Youページを開くと、若いイスラエル人女性が今月7日にハマス(ガザ地区のイスラム組織)戦闘員に人質に取られた場面の動画が目に飛び込んできた。衝撃的な映像だった。
コメントをスクロールすると、予想外の内容が書かれていた。
動画に心を痛めたとする人がいた一方で、映っている内容は実際には異なると、虚偽の説明する人たちもいたのだ。
後者の人たちは動画の女性について、「民間人ではなく」兵士だと主張。ハマスを陥れるために、演出されたものだと書き込む人もいた。
さらに、ハマスが人質に暴力を振るった証拠はないと強弁する人もいた。
動画では、血まみれの若い女性が武装した男性らに車に押し込まれている。BBCはこの映像が現実のものだと確認した。撮影場所はガザ市郊外のシェイジャだった。
他のソーシャルメディアでも、人質に関する動画や投稿に、似たようなコメントが見つかった。
確かに、イスラエル国民は兵役が義務付けられている。だが、ハマスに人質に取られた人の多くは民間人だったことを示す証拠がある。人質には音楽フェスティバルの参加者や子どもたちもいる。
偽情報は、人質は大した暴力を受けていないかのような印象操作を狙うアカウントに限られたものではない。イスラエル政府の行動を支持するアカウントも、誤解を生じさせる憎悪に満ちたコンテンツを広めている。

画像提供, EPA
先週末に目にしたアカウントは、パレスチナ人がガザ地区で負傷したふりをしているという、虚偽の動画を拡散していた。この動画は、パレスチナの映画や慈善団体で働くメイクアップアーティストに関する、2017年の報道から取ったものだった。
一連の虚偽情報に私が驚いたというだけならともかく、虚偽情報は、現状についての全般的な理解に影響を及ぼす。
オンラインのやりとりをゆがめたり混乱させたりする狙いで虚偽情報を投稿し、それがうまくいけば、最新情報をソーシャルメディアに頼っている人は、現地で何が起きているのか、本当のことを知るのがかなり難しくなる。
このことは、国際社会が戦争犯罪の疑惑を調査し、援助を提供し、どこで何が起きているかを把握するうえで、深刻な影響を及ぼす可能性がある。
誤解を生じさせるような投稿は、発信元が簡単に特定できることもある。
例えば、ポップスターのジャスティン・ビーバー氏のように、有名人の投稿だ。インスタグラムで「イスラエルのために祈ろう」と呼びかけながら、その投稿にイスラエル軍によるガザ地区の破壊の画像を添えた投稿を、ビーバー氏は拡散してしまい、のちに削除した。
X(旧ツイッター)で陰謀論を広めることで知られるいくつかのアカウントは、現地の状況を実際より軽く見せたり逆に誇張したりする、誤解を招く投稿を、あえて拡散している。
それらの投稿は、過去のさまざまな戦争の古い映像やビデオゲームの映像を見せ、現在のイスラエルやガザ地区の状況だと伝える。
Xで親イスラエルや反イスラムの投稿をしている非常に活発なアカウントの中には、インドに拠点を置き、同国のナレンドラ・モディ首相への支持を表明しているものもある。
身元や所在地がはっきりしないアカウントの真相に迫ってみたい。
アカウントの背後に誰がいるのか?
ハマスの人質になったのは民間人ではなく兵士だとするアカウントのいくつかは、実在する若い人たちのもののようだ。若者たちは自分のプロフィールに、面白いミーム(インターネットで拡散される文言や画像、動画など)やサッカーの動画なども載せている。
一部は「パレスチナを解放せよ」といったスローガンを掲げた写真を投稿している。メッセージを送ると、パキスタンとアラブ首長国連邦を拠点にしていると答えた。
プロフィールの中には、実在の人物なのかはっきりしないものもある。
いくつかは、政治的なトピックがさまざまに交じった投稿をしている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やウクライナでの戦争を支持したかと思えば、ドナルド・トランプ前米大統領についても投稿している。これらのアカウントのいくつかは新たに開設されたか、最近になってよく使われるようになったものだ。
かつてはイスラエル政府もハマス戦闘員らも、「ボット」のネットワーク(分断や誤解を引き起こすような考えを繰り返し押し発信する、複数の偽アカウント)を使ってオンラインの会話をゆがめようとしていると非難された。
イスラエル拠点のソーシャルメディア分析会社サイアブラによると、今月7日以降にハマスによる攻撃について会話しているアカウントの2割が、偽物だという。
ここで言う「偽アカウント」には、自動化されたものも含まれる。しかし、実在の人物が身元を詐称して偽アカウントを操作している可能性もある。
サイアブラは、XやTikTokなどで約4万個の偽アカウントを見つけたとしている。
これらのプロフィールの中には、ハマスを支持する目的で、誤解を招く主張を広めたり、戦闘員らは人質に同情的だったなど、実際の証拠と異なる内容をほのめかすものもあるという。だからといって、親イスラエルの偽アカウントが存在しないというわけではない。
アカウントが偽だと見分けるための、手がかりはある。例えば、開設間もないアカウントが突然、意見対立が激しく内容について、誤解を招き、時に相反するコンテンツを大量に投稿している場合だ。
しかし結局のところ、プロフィールが偽物かどうか、そしてその背後に誰がいるのかを突き止めるのは非常に難しい。ソーシャルメディア企業が持っていて、ジャーナリストがなかなかアクセスできないタイプの情報が必要になる。
ソーシャルメディアサイトへの圧力
ソーシャルメディアサイトは先週来、偽情報の拡散をめぐって批判されている。欧州連合(EU)は、テロリストや暴力的なコンテンツ、ヘイトスピーチの拡散の可能性に関してXを調べている。
ツイッター時代の元従業員らは以前、新オーナーのイーロン・マスク氏の下で進められた人員整理により、国家ぐるみの偽情報からもはや身を守れなくなっていると話していた。
同社で国家公認の偽情報拡散作戦に対処していたレイ・セラート氏は、マスク氏による買収後に彼の元チームがいかに「壊滅」したかを話した。
彼によると、中東を含む「特別地域を担当」し、特定の組織的な偽情報戦に対処していた多くの重要な専門家が、もう同社にはいないという。
BBCはXにコメントを求めたが、同社は応じていない。Xは先週、ハマス関連のアカウント数百個を削除したと発表した。
TikTokは「コミュニティガイドライン」で、現在の状況に関連して、「TikTokでの暴力的、憎悪的、または誤解を招くコンテンツの防止を支援するための専用リソースを増やした」としている。
X、TikTok、その他のプラットフォームで偽情報がどう拡散するかで、ガザ地区とイスラエル双方の状況についての社会の見方は形づくられる。
そしてそれはやがて、この状況について大きな決断を下す政治家たちに圧力をかけることにもなる。










