【解説】 アストラゼネカ製ワクチンをめぐるEUとイギリスのもみ合い悪化

カティヤ・アドラー欧州編集長

Italian doctor using AstraZeneca vaccine in Bologna, 19 Mar 21

画像提供, Getty Images

欧州連合(EU)の高官はきょう、「これはEU対イギリスの話ではない。アストラゼネカとの問題だ」と話した。

私たちは英オックスフォード大学とアストラゼネカが共同開発した新型コロナウイルスワクチンについて、話をしていた。EUがアストラゼネカとの契約に漕ぎ付けるまで、また厄介な難関があったと。

議論はいま、アストラゼネカのワクチンを作っている、オランダの工場に集中している。

ボリス・ジョンソン英首相は25日のEU首脳会議(サミット)に先駆け、複数のEU首脳に電話をしている。オランダ・ハリックスの工場で作られたワクチン(あるいはその材料)がEUで足止めされ、イギリスに届かないなど、そんなことがないように。

これに対しEU側は、イギリスから正式な輸出要請は来ていないとしている。今はまだ。

しかし、英仏海峡を挟んでワクチンをめぐりぎくしゃくしていることは、すでに悪評と共に知れ渡ってしまっている。

EUは、アストラゼネカが昨年EUおよびイギリスとそれぞれ結んだ契約で、異なり矛盾する約束をしたのではないかとみている。

アストラゼネカとEUとの契約は以下のようなものだという。

  • アストラゼネカは、EUとイギリス両方の製造拠点で作られたワクチンをEUに供給すること
  • アストラゼネカは、EUとの契約履行を妨げるような契約を他国などと結ばないこと

「しかし同時に、アストラゼネカはイギリスと、最初の数百万回分のワクチンを優先的に供給するという契約を結んでいたようだ。EUとイギリス、両方の製造拠点を使って。これは筋が通らない。しかしこれはイギリスのせいではない」と、私がきょう最初に話したEU外交官は語った。

「アストラゼネカが昨年12月すでに約束していた2000万回分を含めれば、今月末までに1億2000万回分のアストラゼネカ製ワクチンを確保できるはずだった。しかし今は、このうち3000万回分でも手に入れば御の字だ」

アストラゼネカは、EUとの契約履行が不十分だとは、認めていない。契約では「適切な範囲で最善を尽くす」ことが決められており、製造面での困難に直面しながらも、自分たちは最善を尽くしているのだと説明する。

イギリスのEU離脱、その後の緊張

アストラゼネカに対するEUの苛立ちは、数カ月にわたってふつふつと続いている。

そして、ブリュッセルがどう反論しようとも、この問題にはイギリスに対するEUの政治的態度がにじみ出てしまっている。

アストラゼネカ製ワクチンの供給をめぐる論争が今年1月に始まったことを忘れてはいけない。当時、EUはまだブレグジット(イギリスのEU離脱)に頭を悩ませ、通商交渉や、今も続く北アイルランド条項をめぐる双方のいらだちに苦しんでいた。

こうした中、アストラゼネカが(本当に最近まで)イギリスにワクチンを供給し続けた一方で、EUとの約束の大半を反故にしていたことは、多くのEUの政治家の怒りを増幅させたようだ。

イギリス政府の高官は、この件に関する小競り合いはEU側から始まったものだと言っている。イギリスのワクチン接種事業が比較的速やかに成功しつつあるのを、EUが妨害しようとしているのだと、政府高官はそう考えている。

イギリス国内では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領といったEU首脳がアストラゼネカ製ワクチンをしきりに批判するのは、イギリスと関連があるからだという意見も出ている。

マクロン大統領は1月、アストラゼネカ製ワクチンは65歳以上の人々には「準・非効果的」だと述べた。しかし考えを改め、フランス政府は高齢者にもこのワクチンの接種を認可した。

イギリスの医薬品当局がこのワクチンの緊急使用を認可した際、EUは認可手続きに長めの時間をかけ、イギリスの対応の安全性に疑問を呈した。EUのこうした態度を快く思わないと話すイギリス人は、ほかにもいる。

Chart showing the number of doses administered in the UK, US, EU, China and Russia
画像説明, 主要国および欧州連合の、人口100人当たりの新型コロナウイルスワクチンの接種人数
Presentational white space

一方で、EUもまたイギリスに批判の目を向けている。イギリスの政治家やメディアがワクチン接種事業を利用して、ブレグジット後の政治的有利を勝ち取ろうとしていると非難しているのだ。

「イギリスは、アメリカがアストラゼネカ製ワクチンをまだ承認していないことを決して重視しない」と、あるEU高官は私に話した。

「イギリスが批判するのは、EUだけだ」

別のEU加盟国外交官は、「イギリスはブレグジット後の勝利主義にひたりすぎている」と非難した。

「ブレグジットがなければワクチン接種事業はこんなに成功しなかっただろうと、そういう主張が多い。しかしそれは間違いだ。イギリスが加盟国のままだったとしても、ワクチンについては独自の道を貫いただろうから」

これに対しイギリスの外交官は、ワクチンとEUの問題について、彼らのいうところのボリス・ジョンソン英首相の「もっと慎重な物腰」を挙げる。つまり、ワクチン接種計画は政府の「最高位」から来ているものであり、そこが重要なのだという。

こうした中、オランダのハリックスのワクチン工場については、EUと英首相官邸は一種の譲歩案を探しているようだ。

協議は続いていると聞いている。イギリスの外交官によると、解決策に向けて双方が動いている兆候があるという。

ワクチン接種が急がれる中、ワクチンやその材料が英仏海峡の両側で「倉庫に放置される」ような状況は誰も望んでいない。外交官はそう話す。

AstraZeneca vaccine, 20 Mar 21

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EUのワクチン輸出制限はどうなる?

ハリックスの工場はまだ、EUや加盟国からワクチンおよびワクチンの材料の供給認可を得ていない。ただし欧州委員会は、ゴーサインは近いと言う。

イタリアは数週間前、オーストラリア行きのワクチン25万回分の輸出を、欧州委員会の許諾を得て差し押さえた。このワクチンがその後どうなったかは明らかになっていない。

EUの現行法では、ワクチンメーカーがEUへの供給契約を満たさなかった場合、加盟国がEU域外へのワクチン輸出を阻止できることになっている。

EU高官によると、このルールは現在、アストラゼネカ製ワクチンにしか適用されていない。

そして今、欧州委員会はこのルールを厳格化しようとしている。自国にワクチン製造拠点があり、接種事業がEUよりも進んでいる国に対し、EU域内で製造されたすべてのワクチンの輸出を禁止する可能性がある。

欧州委は特にイギリスを名指ししていないが、イギリスは確実にこの対象となる。

欧州委のこの提案について、加盟国首脳の意見が一致しているわけではない。それは、25日に始まるEUサミットでより明確になるだろう。多くの加盟国は、交渉の上で解決策を見いだしたいとしている。

動画説明, アストラゼネカ製ワクチンで何が 欧州の対応を解説

アイルランドのミホル・マーティン首相は22日、EUにがワクチンの輸出を制限すれば「事態が後退し」、ワクチンの原材料供給に影響が出る可能性があると指摘した。

一方、欧州委のエリック・マメル報道官は、EUは輸出を禁止しようとしているのではなく、契約どおりのワクチン供給を確保するのが目的だと語った。また、EUは現在、その方法を模索していると述べた。

こうした中、欧州委がワクチン供給と製造能力について判断を誤ったという批判がEU内外から出ている。

欧州委はこの点では守勢に回っている。世界最大のワクチン輸出者という評判を得るため、欧州委はたった6週間で31カ国に4000万回分のワクチンを輸出したと発表した。この恩恵に最も預かっているのがイギリスで、この期間に1000万回分を受け取ったとしている。

「この点から見れば、EUがイギリスのワクチン接種事業の成功に寄与したといえる」と、EU外交官は私に話した。

「ハリックスの工場についての解決策があるとすれば、そこには互恵関係が必要となるだろう。イギリスのワクチン接種事業はEUよりもはるかに進んでいるが、今のところEUはイギリスからワクチンを1回分も受け取っていない。イギリス政府は『これまでもそうしてきたように、欧州の友人を助ける』などと触れ込むだろう」

もちろんジョンソン首相は、国内のワクチン事業を引き続き成功させるよう、国民から大きな圧力をかけられている。

EUや各加盟国政府も、ワクチン事業の改善を求める政治的な圧力を受けている。とにかく急がなくてはならない。

ワクチン接種において、EUはイギリスとアメリカから大きく遅れを取っている。そうしている間にも、多くの国に流行の第3波が押し寄せている。

ドイツは22日、ロックダウンを延長し、さらに厳格化すると発表した。イタリアはイースター(復活祭)の3日間、店舗や学校などを閉鎖する。中東欧の国々では、COVID-19による死亡率が世界最高レベルにまで達している。

欧州委はなお、今夏の終わりまでには成人のEU市民の大半がワクチンを受け終わるとしている。また、4月にはEU域内のワクチン供給が劇的に増加すると述べている。

しかしEUが直面している問題はワクチン供給だけではない。その需要、あるいは信頼についても、問題を抱えている。

イギリスに比べ、EUの人々はワクチンについて常に懐疑的だ。

EU加盟国の首脳がアストラゼネカ製ワクチンへの対応を二転三転させたことも、プラスには働いていない。

最近では、このワクチンの副作用で脳内に血栓ができる恐れがあるという主張が飛び交った。

EMAは調査の結果、ワクチンの安全性を確認した。しかしこの一件で、EU加盟15カ国のワクチン接種事業が遅れた。

ワクチンに対する市民の信頼はすでにまだら模様だったが、この一件でさらに損なわれたようだ。

調査会社YouGovが行った世論調査では、スペイン、イタリア、フランス、ドイツで、アストラゼネカ製ワクチンは安全だと答えた人が半数以下だった。このワクチンの安全性は確認済みだというのに。

EU加盟国のうち、アストラゼネカ製ワクチンにもっとも依存しているのは、オーストリアを含む中東欧諸国だという。

25日から始まるEUサミットで、各国は早急の解決策を要求するはずだ。