EU、ワクチン輸出禁止の可能性をイギリスに示唆 不公平だと訴え

クリス・モリス、リアリティーチェック編集委員

European Commission President von der Leyen

画像提供, Reuters

画像説明, 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ヨーロッパで新型コロナウイルスのワクチンの供給が改善されない場合、欧州連合(EU)として、「ワクチン接種率がEU加盟国より高い国への輸出が適当なのか検討することになる」と述べた。

イギリスによるEU離脱(ブレグジット)後、双方はワクチンの輸出をめぐって意見が対立し、外交問題に発展している。

欧州理事会のシャルル・ミシェル議長(EU大統領)は先週、イギリスがワクチンと関連物の輸出を「完全に禁止」したと主張。ただ、現実にはそうした禁止は存在せず、英政府はミシェル氏の主張を「完全な誤り」として取り合わなかった。

それでもフォン・デア・ライエン氏は、EUはイギリスからの輸出を待っており、互恵関係を望んでいるとしている。

<関連記事>

EUはどれくらい輸出しているのか

EUからのワクチン輸出と、その禁止の可能性に関する問題が持ち上がったのは、EUが十分な供給を受けられず、ワクチン接種を思うように進められていないためだ。

さらに、EUにとって最大の輸出国がイギリスだということも理由となっている。

動画説明, アストラゼネカ製ワクチンで何が 欧州の対応を解説

フォン・デア・ライエン氏は、6週間で計4100万回分のワクチンが、EUから33カ国に輸出されたとしている。

うち1000万回分以上がイギリスに届けられた。これは、同国で2月に接種されたワクチンの合計より多い。また、今月17日までに同国で接種されたワクチンの合計の3分の1よりも多い。

ワクチンを輸出しているのはEUではなく、米ファイザーや英アストラゼネカなどの企業だという点は、留意されるべきだろう。それらの企業は、EUに国際的な製造拠点を置いている。

Chart showing number of doses administered in the UK, US, EU, Russia and China
画像説明, 人口100人あたりのワクチン接種件数。イギリス、アメリカ、EU、ロシア、中国の順(人数とは必ずしも一致しない。出典:アワ・ワールド・イン・データ、3月17日時点)

EUは今月11日までに、カナダに390万回分、メキシコに310万回分のワクチンを輸出している。主要なワクチン製造国であるアメリカにも100万回分を輸出した。ただ、アメリカはEUにまったく輸出していない。

米政府は、朝鮮戦争時代の1950年代に導入された国防生産法を利用して、企業によるワクチン輸出を規制している。

イギリスからEUへの輸出は

イギリスがワクチンを輸出しているとの発表は、これまでまったくない。輸出の事実を示す証拠も確認されていない。

保健省は、輸出の有無はわからないと述べた。アストラゼネカは、BBCによるコメントの求めに応じなかった。

ボリス・ジョンソン首相は今月8日の議会下院で、「はっきりさせよう。私たちはCOVID-19ワクチンやその成分の輸出を、1回分だろうと妨げたことはない」と述べた。

英政府は、世界規模の公平なワクチン分配のための機構COVAXに、5億4800万ポンド(約835億円)を拠出したことを強調する。だがそれは、ワクチンの輸出とは別の問題だ。

「イギリスの首相は、最優先すべきは自国民へのワクチン接種だと、私にはっきり言った」。アイルランドのミホル・マーティン首相は今月9日、そう話した。

「それが実現するまで、彼は他国にはワクチンを渡さない。そのことを私に強調した」

Map showing where the vaccines are made: Oxford in the UK and Pfizer in Belgium
画像説明, イギリスで接種されるワクチンの製造場所。英オックスフォード大学/アストラゼネカ製ワクチンはすべてイギリス国内で製造され(赤丸)、米ファイザー/独ビオンテック製ワクチンはベルギーで製造されている(青丸)

正式な禁止はない

どうやら輸出は禁止されていないが、公開されている情報からは、イギリスからワクチンは輸出されていない状況が浮かび上がる。英政府は、そうした状況の背景には、ワクチン製造企業が買い手に対して定めている契約義務があると主張。政治家らの要求が、大きな原因になっているわけではないとしている。

アストラゼネカのトップ、パスカル・ソリオ氏は1月、英政府との契約について、「まず私たち(英政府)に供給を」という内容だと説明した。

欧州理事会のミシェル議長は、英政府が輸出を「完全に禁止」はしていないと反論したのに対し、「ワクチン・医薬品の禁止や規制を実施する方法は他にも」あると述べた。政治ウェブサイト・ポリティコのインタビューでは、ワクチン輸出のデータを出すようイギリスに求めた。

そしていま、フォン・デア・ライエン氏が、警告を強化させている。

「状況がこのままであれば、ワクチン製造国への輸出について、その国がどれだけオープンな姿勢を取っているかに基づいて、考え直さなくてはならない」と同氏は述べた。

これに対し、イギリスのマット・ハンコック保健相は、法的契約によって、アストラゼネカ製ワクチンの最初の1億万回分は英政府が受け取ることになっていると説明。「EUの製造施設からイギリスにワクチンが供給されることで、契約上の責任が果たされる。契約が実行されることを全面的に期待している」と付け加えた。

EUのワクチン接種状況

EUのワクチン接種は、深刻な問題に直面している。そのため輸出を規制し、製造企業にはワクチン販売の際に、政府の許可を求めることを義務付けた。

イタリアは今月に入り、アストラゼネカ製ワクチン25万回分が、オーストラリアへの輸出されるのを阻止した。ただ、これまで300件以上ある輸出申請が拒否されたのは、この1件だけだ。

実際に不足が起こるのは、供給問題の深刻化が予想される、今年後半になってからかもしれない。そのころには、フォン・デア・ライエン氏が暗示したように、EUは自らの利益を守るため、イギリスを含む外国への輸出差し止めについて、決断を迫られる可能性がある。

いま検討されていることの1つが、「特定の製品について深刻な困難が生じた場合」に対策を取ることを認めている、EU条約の122条を利用することだ。その対策には理論上、輸出禁止や、ワクチンをめぐる特許権や知的財産権の放棄が含まれている。