北朝鮮が狙い定めたグアム 葛藤抱える島で

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北朝鮮が米領グアム沖に弾道ミサイルを打ち込む計画を発表したことで、グアムに世界の注目が集まった。BBCのルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者が現地の表情を取材した。

グアムにいる私は今、米国内にいるわけだが、ここはロサンゼルスよりもマニラにずっと近い。
一番近い米国の州ハワイは、東に6400キロ近く離れている。州都ホノルルは日付変更線の向こう側なので、今は水曜日。こちらは木曜日で、もう日が沈もうとしている。
グアムの人たちがしばしば米国から忘れ去られているように感じるのも、無理はない。
入管で並んでいても米国に来た感じがあまりしない。大挙して飛行機から降りて空港にあふれるのは、東京や大阪、ソウル、釜山(プサン)からやって来た若い家族連れだ。

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毎年グアムを訪れる観光客150万人の大半を占めるのは、日本人と韓国人だ。その人たちにとってグアムは、アジア沿岸にあって多少のアメリカらしさを感じさせてくれる場所なのだ。
レンタカーの店からは、明るい黄色のムスタングのオープンカーがどんどん借り出されていく。若い韓国人カップルが、ルーフを下したオープンカーでビーチ沿いの道をドライブする。
射撃練習場も日本人男性に人気だ。自分たちの国では違法でタブーなM16(自動小銃)を、喜んで手にしている。
グアムが米領となったのは歴史の偶然だった。1898年の米西戦争で米国がスペインから割譲されたのだ。米国はこの戦争でプエルトリコやフィリピンも得ている。
このことが複雑な遺産となった。
フィリピンはその後独立したが、グアムは米領のままだ。自治が許された実質的な植民地として。
自分たちを「グアメイニアン」と呼ぶグアムの住民は、米国籍を持つ。しかし、地元で米大統領選に投票する権利はない。米下院議員を選出しているものの、議員は法案に投票できない。
ここで私が話を聞いた全員が、現状維持は不可能だと考えていて、グアムは米国の1州になるか独立国家になるかのどちらかが必要だと話す。だが独立の可能性は乏しい。
グアムに元々住んでいた人々は「チャモロ」と呼ばれる。先祖は約4000年前にこの島にやって来た。遠い親戚にあたるハワイやサモアの人々と同様、米国人としての自己認識について深い葛藤を抱えている。
今週のある夜、独立を訴えるチャモロのグループがグアム最大の町ハガニアの街頭に集まった。平和を訴える垂れ幕とグアムの旗を掲げ、伝統的なフォークソングを歌った。通り過ぎる車が応援の意思表示にクラクションを鳴らした。
「余りに長い間、他人の戦争に私たちは駆り出されてきた」と、一人の若い女性は私に話した。「植民地でいるのをそろそろやめないと」。
集会のまとめ役のケネスさんは、「米軍はこの土地の27%を占拠している」と指摘する。
「第2次世界大戦の後、多くの土地はチャモロの人々から取り上げられた。みんながそれを受け入れているわけじゃない。私たちは先住民です。何千年もここに住んできた。板挟みになったことは前にもあった。歴史が繰り返されないようにしたい」
しかし、大きな米軍の存在はグアムの自己認識に意外な形で影響を及ぼした。
取材したほぼすべての人は、おじやいとこが米軍にいたなど、家族が米軍と関わりがある点で共通していた。地元出身者が米軍兵士になる割合で、この小さな島は米国一だ。

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背景には貧困もある。グアムはミシシッピー州よりも貧しい。しかし、グアムの愛国心は驚くほど強いという意味にもなる。
過去1週間、私は何度もこう言われた。「米軍がいるから安全だと感じる。強いし我々を守ってくれる。北朝鮮は我々に何もしない。何かしでかしたら、あいつらを破滅させる」と。
しかしだからこそ北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、この小さな米国の領土に関心を持つのだ。アジアに近いからではない。米国が何をここに置いているかが、大事なのだ。
島の北端には、深いジャングルの中に巨大な空軍基地がある。滑走路の脇には流線型のB1爆撃機の一群が並ぶ。北朝鮮が韓国を攻撃することがあればすぐ飛び立てる態勢だ。
グアム西岸には、攻撃型原子力潜水艦の艦隊が停泊する、さらに人目につかない基地がある。
しかし、より重要なのは、島南部の丘の下に隠されているものかもしれない。
「そこは米軍の倉庫です」とグアムのエディー・カルボ知事は語った。
カルボ知事は体格の大きい、はつらつとした政治家だ。共和党員で、ドナルド・トランプ大統領のファンだ。
知事は、「土曜日に庭仕事をしていると大統領から電話がかかってきました」と話す。「私たちを1000%支えると大統領に言われましたよ」と笑いながら言う。
カルボ知事はこの島の戦略的な重要性をよく認識している。「米国内で一番弾薬が貯蔵されているのが、ここグアムなんです」。
戦争の遂行に当たって、弾薬は実は不可欠な要素だ。戦闘が始まれば消費されるのは早い。グアムの丘の下に米国は、戦争を何週間も継続するために十分な爆弾やミサイルを貯蔵している。
だからこそグアムは米国にとってこれほど重要なのだ。そしてだからこそ今では、砂浜が延々と続く、あきれるほどにフレンドリーな人々が住むこの小さな島が、北朝鮮の弾道ミサイルの標的になっているのだ。











