メルセデスのF1チーム、英で呼吸装置の生産に協力 新型コロナウイルス

ファーガス・ウォルシュ、医療担当編集委員

Professor Rebecca Shipley and Professor Mervyn Singer, who helped develop the device

画像提供, James Tye/UCL

画像説明, 持続的気道陽圧(CPAP)装置は、人工呼吸器よりも非侵襲的だという

新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)患者が集中治療室に入らなくても済む呼吸装置が、たった1週間で作られた。

英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドン(UCL)のエンジニアは、同大学病院(UCLH)の臨床医および独自動車大手メルセデス・ベンツのレース部門と協力し、人工呼吸器なしで肺に酸素を送り込む「持続的気道陽圧(CPAP)装置」を製造した。

CPAP装置はすでに病院で使用されているが、不足が指摘されている。中国とイタリアは、CPAP装置をCOVID-19の患者に使用した。

今回、製作されたCPAP装置のうち40基がUCLHとロンドン市内の別の3病院に搬入された。臨床試験が成功した場合、1週間以内に1日当たり1000個の製造が可能になるという。

イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はすでに、この装置に使用認可を与えている。

迅速な対応

UCLヘルスケア・エンジニアリング研究所の所長を務めるレベッカ・シップリー教授はBBCの取材で、「通常、医療機器の開発には数年がかかるが、我々はCPAP装置を数日で完了させた。これは既存の装置を大量かつ迅速に生産できるよう、『リバース・エンジニアリング』したからだ」と説明した。

リバース・エンジニアリングでは、既存の機器を分解し、その設計を複製・改善することで大量生産を可能にした。

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イタリア・ロンバルディアでの報告によると、CPAP装置を与えられた患者の約半数が、人工呼吸器を必要としなかったという。

UCLHのマーヴィン・シンガー教授は、「CPAP装置は簡単な酸素マスクと、患者に鎮静剤を打たなくてはならない侵襲的人工呼吸器の間に位置している」と説明した。

「CPAPの導入で、個数に限界のある人工呼吸器をもっとも重篤な患者だけに使えるようにすることで、命を救うことができる」

CPAP装置とは?

CPAP装置は、空気と酸素が混ざったものを定期的に口と鼻に送り込む。

圧力を使うため、肺が開き続け、肺に入る酸素の量を増やすことができる。

また、息を吸い込む労力が減るため、COVID-19によって肺胞が破壊されている時には有用だという。

酸素供給するだけのマスクと違い、CPAP装置は空気と酸素を圧力を使って送り込むため、患者の顔にぴったりと装着できるマスクが必要になる。これは鼻と口を両方覆うものと、頭にすっぽりとかぶる透明なヘルメットのようなタイプがある。

人工呼吸器では患者に強い鎮静剤を打ち、気道に管を挿入しなくてはならないが、CPAP装置はこれに比べて侵襲性が低いのが特徴だ。

ただし、英オックスフォード大学のダンカン・ヤング教授(集中医療)は、「CPAP装置を呼吸器感染症の患者に使うことには議論がある」と指摘する。

「マスクの周囲からの漏れが、臨床スタッフに分泌物を吹きかけてしまう可能性があるためだ」

これに対しシンガー教授は、マスクがぴったりと装着されている状態を維持したり、ヘルメット型のものを使用した上で、看護スタッフが個人防護設備(PPE)を適切に使っていれば、リスクは最小限に抑えられるとしている。

ロンバルディア地方の一般病棟では、2000人以上のCOVID-19患者がCPAP装置を利用した。

メルセデス・ベンツのF1エンジンメーカー「メルセデスAMGハイ・パフォーマンス・パワートレインズ(HPP)」のアンディ・カウエル社長は、「F1コミュニティーは、支援要請に対して素晴らしい反応を見せた。(中略)最高水準のCPAPプロジェクトを最速で実現するために、我々のリソースをUCLに提供できることを誇りに思う」と述べた。

このプロジェクトにはメルセデスAMG-HPPに加え、酸素モニタリング機器を製造しているオックスフォード・オプトロニクスも協力している。

人工呼吸器の開発も加速

一方、イギリスの工業、テクノロジー、エンジニアリング各社による共同事業体(コンソーシアム)「ヴェンティレイター・チャレンジUK」も、人工呼吸器の開発を進めている。

同コンソーシアムには航空機エアバスや防衛BAEシステムズ、自動車フォード、航空エンジンのロールス・ロイス、電機シーメンスなどが参加している。

ヴェンティレイター・チャレンジUKはこれまでに政府から1万個の人工呼吸器を受注しているものの、MHRAの認可待ちの状態だ。製造は来週にも始まる見通し。

コンソーシアムに参加しているハイ・ヴァリュー・マニュファクチャリング・カタパルトのディック・エルジー最高経営責任者(CEO)は、「このコンソーシアムは世界で最も革新的な企業のいくつかを集めたものだ。素晴らしい決意とエネルギーを持って、今必要とされている人工呼吸器を増産し、多くの国々に影響を与えているウイルスと戦おうと協力している」と説明した。