【解説】北欧王室の世代交代が始まるのか デンマークのマルグレーテ女王が退位

ラウラ・ゴッツィ、BBCニュース

14日に退位したデンマークの女王マルグレーテ2世

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デンマークの女王マルグレーテ2世が14日に退位し、長男のフレデリック10世が新たな国王に即位した。昨年の大みそかに突然発表された退位は、北欧3王室のタブーを破ったのだろうか。

チェインスモーカーで、派手好きで、数カ国語に堪能なマルグレーテ女王の在位は52年続いた。同国のメッテ・フレデリクセン首相は、女王を「デンマークを体現する人」と呼んだ。

女王の頭脳や、ひとくせもふたくせもある性格を、携帯電話とインターネットを頑として声高に拒否する姿を、そして気楽で快活な雰囲気を、国民はどれも誇りに思っていた。

マルグレーテ女王の親しみやすさは、デンマークやスウェーデン、ノルウェー各国の王室にはよくある姿だ。肩肘を張らないふるまいのおかげで、国民の人気は高く、「自転車に乗る君主たち」というあだ名まで付けられている。欧州北部では自転車が人気だというだけでなく、他の堅苦しい王国との違いを示す呼び方でもあるのだろう。

王室の若いメンバーのふるまいも、この印象を決定づけている。即位したばかりのフレデリック10世は親しみやすく、地に足の着いた家族思いの人物で、ロックの愛好家だ。

ノルウェーのホーコン王太子は、晩餐会でいたずらを仕掛けることで有名だ。スウェーデン国民に愛されるヴィクトリア皇太子は、自身の拒食症についてオープンにしている。

デンマーク王室とノルウェー王室では、多くの子女を公立学校に入れている。マルグレーテ女王とスウェーデンのカール16世グスタフ、ノルウェーのハーラル5世はいずれも、一般人を配偶者にしており、このことも人気につながっている。

(左から)スウェーデンのカール16世グスタフ、デンマークのマルグレーテ2世、ノルウェーのハーラル5世(2012年)

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3カ国の王室は親密な関係にある。頻繁にお互いを訪問し、一緒に休暇を取ることさえある。しかも、マルグレーテ女王はハーラル5世とは、はとこ。カール16世グスタフとは、いとこ。血縁同士なのだ。

デンマークの国営放送TV2の王室コメンテーター、マリー・ロンデ氏はBBCの取材で、「北欧の王族は同じ価値観と文化、歴史を共有している。勤勉で、国民の話を聞いたり交流したりすることに積極的だと、大勢がそう認識している」と語った。

3カ国の王室はまた、時代の変化にも対応していた。

スウェーデンでは1970年代後半に、長男ではなく第1子の長女が王位を継承できるようにするため、法律が変えられた。カール16世グスタフは長年、環境問題に取り組んでおり、自らの立場を使って気候変動への意識を高めようとしている。

ノールウェーのハーラル5世も、似たような進歩的な考えで知られる。2016年には、性的マイノリティー(LGBT)の人々や難民を支持する熱心な演説を行った。「アフガニスタン、パキスタン、ポーランド、スウェーデン、ソマリア、シリア」からやってきた市民たちに敬意を表したほか、ノルウェー国民とは「女性を愛する女性、男性を愛する男性、そして互いを愛する男女」のことだと述べた。

さらに北欧の王室は、単に表面的な変化にとどまらず、大きな自己改革ができるのだと証明してきた。とりわけ、その構成人数を自ら減らすという王室改革を、実現してきた。

マルグレーテ女王と長男のフレデリック皇太子(当時)一家

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スウェーデンでは2019年、国王の孫5人を王室から除名した。王室の人数が多く、公務に費用がかかり過ぎているとの見方が広がっていたことを受けての措置だった。

3年後にはマルグレーテ女王も、4人の孫から王族の称号を取り上げた。女王はこの時、この対応によって王室が「将来に備え」、「時代に対応」できるようになると述べた。

こうした決定は成果を上げている。デンマークとノルウェーでは、王室の支持率は常に80%前後で推移している。スウェーデンでも、王室に反対する世論は、過去20年で最も減少している。

こうした中で、退位するしないがハードルとして残っていた。一部では否定的な意味合いもあるが、欧州のすべての王室が嫌悪する習慣というわけではない。

たとえば、オランダでは退位は一種の伝統となっている。1815年に独立した君主国家となって以来、4人の君主が子供のために退位を決めた。隣国ルクセンブルクでも、国家元首である大公の地位は比較的、簡単に譲位される。

ノルディックスキー世界選手権を観戦するノルウェーのハラール5世とソニア王妃(右)、マルグレーテ女王(2011年)

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一方で、譲位という概念が多くの場所で不愉快な記憶を呼び起こすのも事実だ。スペインやベルギーでは、前君主が大きなスキャンダルを理由に退位した。イギリスでも1936年、エドワード8世が離婚歴のある女性と結婚するために退位を発表し、王室は危機に見舞われた。

北欧の君主たちみな、退位という選択肢を避け続けてきた。そのため、マルグレーテ女王による昨年の大みそかの発表は衝撃的だった。

マルグレーテ女王の退位は、長年の健康問題が理由だった。しかしこれを機に、北欧の別のどこかで似たようなサプライズが今後あり得るのではないかと、多くの人が考えるようになった。北欧の君主たちは、後継者のために退任するという提案を常に退けてきた。しかし、マルグレーテ女王は実行したので。

スウェーデン人の王室専門家ロジェ・ルンドグレン氏はBBCに対し、「マルグレーテ女王は常に、自分の王位は一生涯のものだと、死ぬまで続けるものだと確固たる意志を持っていた」と語った。

女王が即位40周年の2012年に、「私は倒れるまで王位に残る」と述べたのも有名だ。デンマークで最後に生前退位したのはエーリク3世で、1146年のことだった。

スウェーデンの王室コメンテーター、アンデシュ・ピールブラド氏は、カール16世グスタフもしばしば退位の可能性について尋ねられているものの、「それは国民が国王に不満があるからではなく、娘のヴィクトリア皇太子がとても、とても人気だからだ」と話した。

(左から)デンマークのフレデリック皇太子(当時)、スウェーデンのヴィクトリア皇太子、ノルウェーのホーコン王太子は互いに年も近く、親しい友人同士だと言われている(グリーンランド、2009年)

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カール16世グスタフは過去に、死ぬまで王位に残る決意を示唆したことがある。2014年に受けたスウェーデン・メディアのインタビューで同国王は、「引退? そんな言葉は私の家族にはない。少なくとも歴史的には」と述べた。「引退しないことが、私たちの古くからの伝統だ」。

ハーラル5世も自国メディアに対し、1991年の即位での宣誓は「一生涯」のものだと語っている。「私にとってはいたってシンプルなことだ。我々は最後までそこにいる」。

ノルウェー公共放送NRKのクリスティ・マリー・スクレーデ王室担当記者は、「ノルウェー国民は(ハーラル国王が退位するなら)支持するだろう。しかし、国王がさまざまな健康問題を抱えながらも公務を続けていることに、国民はとても感銘を受けている」と語った。

なぜ北欧の君主たちは退位に消極的なのか、不思議だと言われることもある。何十年も国に尽くした後なのだから、退位しても非難されたりしないはずだろうに、と。

3人の中で最年少のカール16世グスタフは現在77歳。即位したのは27歳だ。マルグレーテ女王の退位に伴い、カール16世グスタフは、世界で3番目に在位期間の長い、在位中の君主となる。

2月に87歳となるハーラル5世は、何度も療養のための休暇を取っている。これまでに心疾患と膀胱(ぼうこう)がんで手術を受けたほか、昨年にも感染症で入院していた。いずれの場合も、ホーコン王太子は滞りなく摂政として公務を行った。他の北欧王室の後継者同様、ホーコン王太子も人気者だ。

では、マルグレーテ女王の退位を機に、近隣の王国でも同じような展開はあり得るのか。

「半年前にこのような質問をされたら、退位などまったく、絶対にないと答えただろう」と、ルンドグレン氏は話した。

「しかし、デンマークのことがあって、何が起きてもおかしくないと明らかになった」