ガザ中部の病院周辺で攻撃が激化 退避したイギリス人医師ら「深い懸念」語る

アリス・デイヴィース、BBCニュース

アル・アクサ病院でイギリスの慈善団体から派遣されたスタッフに抱かれる赤ちゃん

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画像説明, イギリスの慈善団体「パレスチナ人のための医療支援(MAP)」は、ガザ地区中部アル・アクサ病院での活動を終了せざるを得なかった

パレスチナ自治区ガザ地区中部で唯一機能している病院で働いていたイギリスの医師たちが、BBCに対し、院内に残っている患者や医療従事者について「深い懸念」を語った。イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は、この病院の周辺で激化しているとされる。

産科医のデボラ・ハリントン医師は、デイル・アル・バラフのアル・アクサ殉教者病院で、イギリスの慈善団体「パレスチナ人のための医療支援(MAP)」の一員として働いた。ハリントン医師は、戦闘によってこの2週間で、同病院で働けるスタッフの数が「本当に減ってしまった」と説明した。

ハリントン医師によると、アル・アクサ病院では毎日600~700人の患者が治療を受けているほか、家を失った数百もの人々が病院やその近辺に避難しているという。

同じくMAPの一員である外科医のニック・メイナード医師はBBCに対し、「働ける医療従事者が十分にいなければ、ガザ中部に住む人々にとっての大惨事が起きるだろう」と話した。

BBCがこうした報告をイスラエル国防軍(IDF)に示したところ、IDFは「同病院に最も近い部隊でも1.5キロメートル離れており、その地域では活動していない」と回答した。

病院は、国際人道法の下で特に保護されている。病院周辺でのいかなる軍事作戦も、患者や医療従事者、その他の民間人を助けるための段階を踏まなければならない。

MAPと国際救済委員会(IRC)は7日、「アル・アクサ病院周辺でイスラエル軍の活動が活発化」した結果、スタッフが「引き揚げを余儀なくされ、活動を中止した」と発表した。

世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長も、「重要なアル・アクサ病院付近で敵対行為が激化し、避難命令が続いているという厄介な報告を受けた。(中略)同病院の院長によると、その結果、600人以上の患者とほとんどの医療従事者が避難を余儀なくされた」と述べた。

同事務局長は、アル・アクサ病院は「ガザ地区中部に残っている最も重要な病院であり、人命救助活動を続けるために機能を継続させ、守られなければならない」と指摘。

「これ以上、この病院の活動を損なうことは許されない。これほどの負傷や人的被害のなかでそうすることは倫理的・医療的にもありえないことだ」と述べた。

ガザ地区の地図

MAPのメイナード医師は、アル・アクサ病院で2週間勤務した。エジプト・カイロの空港でBBCの取材に応じたメイナード氏は、5日にガザから避難するよう伝えられたと話した。

「その日はひどい爆発による負傷の手術をしていた。午後3時ごろに手術が終わって出てくると、集中治療室(ICU)が攻撃を受けたことを知った」

「そこで、病院を離れなければならないと伝えられた」

別の医師2人も、ICUでの出来事を伝えられた後、ソーシャルメディアで拡散されていた、ICU棟の壁の弾痕が写った写真を見せられたと語った。3人は自分たちではこの出来事を目撃していない。

BBCはこの報告を検証・確認できなかった。IDFにこの件を問い合わせたところ、「質問にある出来事についての空爆は認識していない」との回答があった。

同じくMAPを通じてアル・アクサ病院で活動していたジェイムズ・スミス医師は、その期間中に何日か、銃声を聞いたとBBCに話した。

「音は離れた場所まで伝わるので、(銃が使われたところからは)恐らく1~2キロ離れていただろう」とスミス医師は話し、病院の中庭にいると時折聞こえたと付け加えた。

国連は、9日に病院付近で砲撃の報告があったと発表した。

ハマスが運営するガザ地区の保健省も、過去24時間に57人の死者と65人の負傷者がアル・アクサ病院に運ばれたと述べたが、詳細は明らかにしなかった。

そしてパレスチナ赤新月社(PRCS)は10日、デイル・アル・バラフ近郊でイスラエル軍が救急車を狙った攻撃を行い、6人が殺害されたと報告した。うち4人はPRCSの職員で、残りの2人は救急車に乗っていた人物だという。

パレスチナの通信社WAFAは、この攻撃はアル・アクサ病院付近で起こり、犠牲者にはジャーナリスト1人も含まれると報じた。BBCはこの件についてIDFにコメントを求めている。

BBCはここ数日ソーシャルメディアに投稿された、周辺地域で煙が上がり、銃声が聞こえる映像を検証・確認した。しかし、銃撃の方向や発砲者は特定できなかった。

ソーシャルメディアにはこのほか、IDFが投下したと見られるビラの写真も投稿されている。ビラでは、ガザ地区北部のいくつかの地域の住民に「危険な戦闘地域」に入ったことを警告し、身の安全のために緊急避難するよう呼びかけている。このビラには、アル・アクサ病院周辺は含まれていない。

BBCが取材した医師たちも、こうしたビラのことは話していたが、実際に見た人はいなかった。

WHOの緊急医療チーム・コーディネーターを務めるショーン・ケイシー氏は先週末にアル・アクサ病院を訪問。同病院は避難区域に入ったと話した。

IDFは、アル・アクサ病院には「特定の避難指示を与えていない」としている。

ジェイムズ・スミス医師が書いたカルテ

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画像説明, ジェイムズ・スミス医師が書いたカルテ

ハリントン医師は、アル・アクサ病院の緊急治療室で働いていた看護師2人が、この2週間で戦闘によって殺されたと話した。また、別のスタッフが家を爆破され、家を失ったと述べた。

スミス医師は、「パレスチナの医療従事者の多くは、病院に戻るのは危険だと感じている」と話した。

「確かに、私が連絡を取っている何人かは、5日から病院に戻っていない」

その上で、まだ病院にいる人々のことを心配していると付け加えた。

「身体的に動けなかったり、高齢だったり、障害を持つ患者がたくさんいる。新生児ユニットにも多くの患者がいる。術後の回復中で動けない人々もたくさんいる。そして、病院の敷地内や近隣に住む数千人の国内避難民がいる」

膨大な数の「恐ろしい」けが

これ以降の記事には、苦痛を感じるかもしれない文章と画像が含まれます。また、病院に運び込まれた子供たちが受けた致命的な傷害に関する生々しい描写があります。

イギリスからの医師3人は、アル・アクサ病院の過酷な状況下で、「恐ろしい」けがを目撃したと語った。

「手術室に流水がなかったので、患部を拭いたり洗ったりできなかった」と、外科部門のメイナード医師は述べた。「手術前にアルコールジェルを使うだけだった」。

「手術室で患者を覆うドレープもなかったので、患者を無菌かつ清潔に保つためにその場しのぎのガウンを着せていた」

「手術器具も、縫合のための糸も限られていた」

ハリントン医師は緊急治療室の様子を思い返しながらこう語った。

「ストレッチャーがないので、汚くて冷たい床の上で患者の治療に当たった」

「酸素のチューブが患者まで届かないことすらあった。まったく不衛生な環境で胸腔ドレーンを挿入して、患者に尊厳を与えられなかった」

また、モルヒネなどの鎮痛剤もないことが多かったという。

「頭から離れないことがある。子供が生きて運ばれてきたが、骨までやけどしたような状態で、手は収縮していた。顔はまるで炭のようで、でも生きていて、話していた。モルヒネはなかった」

「この記憶とにおいを頭から消せない。子供は床の上で治療を受けていた」

緊急医療を担当していたスミス医師も、やけどから手足の切断、爆弾の破片による深刻なけがに至るまで、「恐ろしい外傷」を負った多くの患者が病院に運ばれてきたと説明した。

「外傷性切断の人々を見た。私が見たのは、2本の手足を外傷で切断された1歳くらいの子どもで、残りの2本もひどいけがを負っていた」

アル・アクサ病院の床に散らばる医療器具と血だまり

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画像説明, アル・アクサ病院では不衛生な状況で負傷者の治療に当たらなければならなかったと医師らは話した

国連の人道問題調整事務所(OCHA)は報告の中で、9日にイスラエルによる空陸海からの激しい砲撃が、ガザの大部分、特にデイル・アル・バラフや南部ハンユニス周辺で続いたと指摘。

「これらの地域での攻撃は、多くの人々の死傷につながり、何万人もの市民に壊滅的な結果をもたらす。市民の多くは安全のためにガザ市や北部から南部に逃げてきた人々だ」と警告した。

イスラエルは、ハマスの「壊滅」と人質救出のためにガザで軍事作戦を展開しているとしている。

また、民間人への危害を避ける努力をしているとし、ハマスが民間人の中に戦闘員を紛れ込ませていると非難している。

イスラエル軍によるガザ地区での攻撃は、10月7日にハマスが実施したイスラエルへの奇襲攻撃に反応したもの。ハマスは民間人を中心に約1200人を殺害し、約240人を人質にした。

一方、ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、10月7日に戦争が始まって以来、ガザでイスラエル軍に殺害された人数は2万3350人以上に上る。