藻類のたんぱく質で視力回復、光遺伝学を応用=フランスの研究

ジェイムズ・ギャラガー、健康・科学担当編集委員

Eye

画像提供, Getty Images

フランスで行われた研究で、藻類に含まれる光を感知するたんぱく質により、完全に目の見えない人が視力を取り戻した。

医学誌「Nature Medicine」に発表されたこの研究では、光遺伝学と呼ばれる手法を用い、藻類のたんぱく質を使って目の後ろ側にある視細胞を制御した。

患者の男性は横断歩道のしま模様を視認できるようになったほか、机の上にあるものをつかみ、個数を数えられるようになったという。

The patient undergoing tests in the lab

画像提供, José-Alain Sahel and Botond Roska, Nature Medicine

画像説明, 研究所内で実験に参加する患者の男性

フランス・ブルターニュ地方出身のこの男性は40年前、網膜の視細胞が徐々に死んでいく「網膜色素変性症」と診断された。

網膜色素変性症は、全世界に200万人以上の患者がいる。完全に失明することはまれだが、この男性は過去20年にわたって視覚を失っていた。

この患者が受けた治療に使われた光遺伝学は、神経科学の基礎として長い間研究されてきたものの、医療分野での応用は新しい試みだという。

光遺伝学では、光を使って特定の脳細胞の活動を制御する。今回は患者の目の片方について、光を感知する能力を回復させた。

この技術には、藻類が生成するチャネルロドプシンと呼ばれるたんぱく質が利用された。チャネルロドプシンは光に反応して活動を変えるたんぱく質で、藻類はこれを使って光のある方へと移動する。

まず、遺伝子治療が行われた。ロドプシンを生成する遺伝子コードを藻類から抽出し、これを患者の目の後ろ側にまだ残っていた網膜の深部に与えた。

これにより、網膜に光を当てることで、脳に電気信号が送られるようになった。

しかし、このたんぱく質は黄色い光にしか反応しない。そのため、患者は全面にビデオカメラ、後方にプロジェクターの着いたゴーグルを装着し、現実世界で起きていることを適切な波長で網膜に送った。

眼球の中に十分な量のロドプシンが生成され、脳が新しい視覚情報を認識するようになるには数カ月がかかったという。

横断歩道が見えるように

最初に視覚が戻ってきたのは、患者の男性が散歩に出た時のことで、突然、横断歩道のしま模様が見えるようになったという。

パリの視覚研究所に所属するジョゼ=アレン・サヘル博士は、「たんぱく質の注射から実際に見えるようになるまで長い期間があったので、患者は少しいらだっていた」と語った。

「でも道路に浮かび上がる白いしま模様が見えるようになったと報告してきた時、彼がどれだけ興奮していたか想像できるでしょう。私たちもみんな興奮していました」

男性は完全に視覚を取り戻したわけではないが、全く目が見えないのと、わずかでも周りが見えるのとでは、生活に大きな違いが出る。

バーゼル大学のボトンド・ロスカ教授は、「今回の発見は、光遺伝学を用いた治療法で視力を一部回復できるという概念実証になった」と話した。

視覚を取り戻す治療法は、これまでにもいくつか考案されている。

中には、疾患の原因となる遺伝子を修復する手法もあるが、網膜色素変性症には71以上もの遺伝子の変異が関わっており、非常に困難だという。

他にも、目の後ろ側に移植した電極とカメラをつなげる手法などがある。

光遺伝学はまた、パーキンソン病や、脳卒中からの回復に使えないかといった研究にも利用されている。

ユニヴァーシティー・コレッジ・オブ・ロンドン(UCL)で網膜研究を行っているジェイムズ・ベインブリッジ教授は、この研究は非常に質の高いものだが、たった1人の患者しか対象になっていないと指摘した。

「ただ、この期待の新技術が、視覚に深刻な障害を持つ人々の手助けになるかもしれない」