【解説】 「対トランプ戦術」で割れる欧州 ウクライナでの戦争めぐり協議したが

フランスのエマニュエル・マクロン大統領(左)と北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長

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画像説明, フランスのエマニュエル・マクロン大統領(左)と北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長

カティヤ・アドラー欧州編集長

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は17日夜、パリのエリゼ宮殿から欧州の主要軍事国の指導者たちが去った後、すぐにドナルド・トランプ米大統領と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にそれぞれ電話をかけた。

マクロン大統領はどのような成果を誇ることができたのだろうか。急きょ開かれたこの安全保障サミットは成功だったのだろうか。

その明確な答えがないことが、ヨーロッパから批判の声があがっている原因だ。欧州各国は多くの価値観や目標を共有しているものの、それぞれがそれぞれの主張を持っている。

しかし、アメリカとロシアに蔓延(まんえん)している、世界を強者と弱者に分ける白黒思考のなかでは、欧州が持つ「ニュアンス」は弱さと見なされるかもしれない。

こうした厳しい目が注がれる中、17日の会議は失敗に終わった。

ウクライナ情勢を協議するため、イギリスと欧州各国の首脳、EUやNATOの代表らが急きょ集まった(17日、パリ)

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欧州の指導者たちは期待していいと話していた。サミットが招集されるや否や、ニュースを独占した。

北大西洋条約機構(NATO)のトップ、欧州連合(EU)の首脳ら、そして欧州で最も影響力のある軍事国家の指導者たちは、早急に集まった。

みんなトランプ氏の注意を引きたかった。トランプ氏を感心させたかった。トランプ氏がウクライナの将来についてプーチン氏と話し合うために計画している和平交渉に、自分たちの席を確保したいと思っていた。

欧州は、今もなお、脇に追いやられたことに傷ついている。

ウクライナは欧州の国だ。その運命は大陸全体に影響を与える。

プーチン氏が和平交渉の場からどれだけ強気な態度で出てくるかにもよるが、彼が他の国々の主権を覆すことに目を向けるのではないかと、欧州の安全保障機関は懸念している。

特に、ロシアに隣接するバルト諸国は脅威を感じている。

しかし17日、欧州の指導者たちは、こうした自分たちの不安を和らげることはできなかった。

米ホワイトハウスの大統領執務室に座るドナルド・トランプ米大統領

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欧州の指導者たちは、トランプ氏の要求に応じて、自国の防衛費を増やすと言っている。各国とも政府予算は限られ、生活費危機に対する懸念が広がっているにもかかわらずだ。

パリの会議では、欧州各国の軍隊をウクライナに派遣し、最終的な停戦を監視する可能性についても議論された。数週間前には考えられないことだった。

だがそれがアメリカの大統領の望むことだ。

しかしパリに集まった首脳たちは最終的に、実業家出身のトランプ氏が注目するような、強力で統一された、1行のSNS投稿にまとめられるような回答を示せなかった。

ウクライナや欧州の安全保障に対する緊急性が共有されているなかで、そうなった理由は多岐にわたる。

欧州の指導者たちの多くは、トランプ氏の指示に従わなければならないことに憤慨している。

いつもは冷静なオラフ・ショルツ独首相が、パリでの会議を後にした際に見せたいら立ちは明らかだった。

ショルツ氏は、「今この議論(欧州軍をウクライナに派遣する議論)をするのは完全に時期尚早であり、完全に間違ったタイミングだ。この議論には少しいら立ちを感じている」と述べた。

ドイツのオラフ・ショルツ首相

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そのうえで、ウクライナにおける責任をアメリカと欧州で平等に分担すべきだと主張した。

ショルツ氏は近いうちに職を失う可能性が高い。ドイツでは23日に総選挙が予定されており、与党の敗北が広く予想されている。ショルツ氏は最近、国内で珍しく感情を爆発させているが、恐らく重圧を感じているのだろう。

それでも、トランプ氏がウクライナから手を引き、他の問題に注意を向けようとしているのではないかと疑っているのは、欧州指導者の中でショルツ氏だけではないと指摘するのは重要だ。もしかすると、他の問題は「中国」かもしれない。

欧州の首脳たちは、アメリカが第2次世界大戦以降に欧州の同盟国に提供してきた「防衛の傘」を、トランプ氏がなくしてしまうかもしれないと懸念している。さらに、今やトランプ氏自身とその政策から、自分たちを守る必要があるかもしれないとさえ思っている。

一方 キア・スターマー英首相の発言は、こうした暗いヨーロッパの懸念とは対照的だった。

スターマー首相は、イギリスがアメリカとの「特別な関係」を、欧州とアメリカの橋渡しで積極的に利用したいと公言している。

スターマー氏は、英米関係を壊さないと決意しており、国内の有権者に対しても、ヨーロッパの安全保障が国益にかなうと語っている。

サウジアラビアで行われたロシアとアメリカの対面での準備協議に対しても、スターマー氏は平然とした態度を崩さなかった。

イギリスのキア・スターマー首相(左)とマクロン仏大統領

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トランプ氏とプーチン氏による重要な会談の日程はまだ設定されていない。

スターマー氏は、来週ワシントンでトランプ氏と会談する際に、ヨーロッパの立場を押し通すための機会をつかみたいと考えている。

アメリカは同盟国の側に立ち続けなければならないと、スターマー氏は宣言している。

もしそうでなければ、欧州の指導者たちは、ウクライナと共通の安全保障のための道筋で合意するまで、会議を続けなければならないだろう。

そしてもし再び失敗すれば、この大陸の安定性に長い影を落とすことになるだろう。