ロイヤル・アルバート・ホールが揺れた……大相撲ロンドン公演、ネットのファン層が集まる

暗い場内の中央にしつらえられた土俵を、観客が囲んでいる。土俵では朱色の衣装の行司を前に、二人の力士が見合っている。土俵の上には四隅から房が垂れ下がった神明造の吊り屋根「屋形」があり、さらにその上には設置された円形のLEDスクリーンに土俵の映像が映し出されている

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画像説明, ロイヤル・アルバート・ホールに作られた土俵

フローラ・ドルリー(ロンドン)

15日に始まった大相撲ロンドン公演が、19日に終わった。

競技が始まる前に儀式が45分間続いても、観客がずっと夢中のままでいるスポーツはそう多くない。

それでも、何百年もほぼ変わらずに続いてきた小さな土俵で繰り広げられる精緻な伝統行事は、まさに観客の心をわしづかみにした。

ロイヤル・アルバート・ホールで5日間続いた大相撲のイベントには、最高峰の力士40人が参加した。

相撲の最も古い記録は、紀元前23年のものだとされる。その競技を迎えて、イギリスのヴィクトリア朝時代に建てられたロンドンのコンサートホールは完全に姿を変えた。土俵の上には重さ6トンにもなる、日本の神社様式の屋根がつるされた。

ここで力士たちは、邪気を払うために足を踏み鳴らし、神々の注意を引くために手をたたいた。さまざまな古式ゆかしい儀式が行われた土俵の上には、アメリカのバスケットボールの試合会場にあってもおかしくない、巨大な回転式LEDスクリーンが設置され、観客に各種データやリプレイを提供した。

相撲は古代に始まった競技で、力士のあらゆる所作について厳格な決まりごとがある。それでも相撲は、現代社会の中に存在しているのだ。

そしてその現代社会が、相撲を日本の国境を越えて広める手助けをしている。

暗い会場を背に、豊昇龍がまいた塩が空中に白い弧を描いている

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画像説明, ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで塩をまく横綱・豊昇龍。取組前に土俵を清めている

シャーン・スペンサーさん(35)は数年前、「たまたま見た動画」に興味をひかれた。

それがきっかけとなり、彼女はすぐさま、いくつかの相撲部屋の映像に特化したYouTubeチャンネルを見つけた。相撲部屋は、力士が生活し稽古する場所だ。力士たちは早朝に起きて稽古し、高タンパクの「ちゃんこ鍋」を食べ、午後には昼寝をする。すべては体を大きくするために。

相撲部屋の様子を見るようになったのに続いて、シャーンさんは「本場所」というものを知った。15日間で優勝を争う、いわばチャンピオンシップ大会だ。この時点でシャーンさんはもう、すっかり夢中だった。

ロンドンでのトーナメントは、これまでネットで見てきたあれこれを実際に目の前で見られる、「一生に一度の機会」だったとシャーンさんは話した。

黒いスエットシャツを着て黒い眼鏡をかけた長い金髪のシャーンさんと、チャックシャツにTシャツをきた茶色い髪とひげのルークさんが、ロイヤル・アルバート・ホールの外に並んでほほんでいる。後ろには、豊昇龍関がかまえて前を見つめる写真の、ロンドン相撲のポスターが見える

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画像説明, シャーン・スペンサーさん(左)とルーク・メイさんは、相撲観戦のためにロンドンを訪れた

エディンバラ在住のジュリアさん(34)とパートナーのセザールさん(36)は、もっと伝統的な方法で相撲を知った。二人にとっては6年前の日本旅行がきっかけだったのだ。

「いかにも観光客がやることだと思ったけれども、それで実際に相撲という競技が大好きになった」のだと、ジュリアさんは話した。「それからは、仲間や情報を探して、もっともっと知ろうとした」のだと、セザールさんが続けた。

二人が相撲に夢中になったと知って、同僚や友人や家族が驚くこともあった。

「私たちが見るスポーツはこれだけ」というジュリアさんは、テレグラムなどのメッセージアプリで同じ趣味を持つ人たちを見つけたのだと説明した。

「イタリアのグループやイギリスのグループも見つけました」とジュリアさんは話した。

「日本国外で相撲とかかわるには、オンラインしか方法がない」のだとセザールさんが付け加えた。

トップレベルの相撲トーナメントを見るには、日本へ行くしかないのが現状だ。

今回のロンドンでのイベントは1991年以来2度目の開催で、日本国外での大相撲の興行は、2013年のジャカルタ巡業以来だった。

ただし、日本に行ったとしても席が取れるとは限らない。共同通信によると、昨年は28年ぶりに6場所すべてが完売した。その背景には、国内での関心の高まりに加え、外国人観光客の急増がある。2024年に外国から日本を訪れた観光客は、3600万人以上だった。

こうした事情から、多くの人はロンドン公演で初めて相撲を生で観戦した。そして、期待は裏切られなかった。

「間近で見ると、テレビでは伝わらないスピードと力強さを感じる。本当にすごかった」と、ロンドン在住の相撲ファン、キャスパー・エリオットさん(36)は絶賛した。「(力士は)すごく大きい」。

相撲で勝つには、対戦相手を土俵の外に押し出すか、土俵内で倒す必要がある。ほとんどの力士は、相手を押すか組み合うかのスタイルで、瞬時に勝負を決める。

そしてどう勝つにしても、取組の瞬間に力士同士がぶつかり合う音は、ホール全体に響き渡った。

金色の化粧まわしに白い綱をつけた横綱大の里が、手のひらを正面に向けて向けて右腕を真横にあげ、左手はわき腹につけて、両脚を開いて膝を直角に曲げ、四股を踏んでいる。

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画像説明, 横綱・大の里がロイヤル・アルバート・ホールで披露した土俵入り(15日、ロンドン)
ロイヤル・アルバート・ホールの壮麗な壁が赤く照らされ、日英の国旗と共に「満員御礼」と書かれた垂れ幕が下げられている

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画像説明, 力士のスピードと力強さを、多くのファンが初めて生で目の当たりにした。写真は、大相撲ロンドン公演2日目の力士入場
Sumo wrestlers, also known as Rikishi, during the opening ceremony on day two
派手な化粧まわしを着けて土俵に並んだ力士たち

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画像説明, ロンドンでも土俵入りは化粧まわしをつけて行われた。写真はロンドン公演2日目の土俵入り
大相撲ロンドン公演2日目に対戦した玉鷲と金峰山

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画像説明, 相撲には体重別の等級はない。このため、40キロ以上の体重差がある取組もあり得る

キャスパーさんと妻のメガ・オカイさんは、昨年の日本旅行で観戦するため幸いにもチケットを入手できた……のだが、郵便が間に合わなかった。

それでも2人はすっかり相撲に夢中になり、今年の本場所はすべて観戦している。だからこそ、大相撲ロンドン公演を見るために万全を期した。

「チケット予約のために端末を4台使ったと思う」とキャスパーさんは大会前にBBCに話した。そして、熱烈なファンにとっての必須アイテム、力士タオルを誇らしげに見せてくれた。「最前列の座布団席が取れた」。

土俵のすぐそばの座布団席はもちろん非常に人気だったが、リスクも少々ある。

16日には体重183キロ、身長194センチの湘南乃海が客席に突っ込んだ。少し離れた安価な席の人々は、ほっとしていたかもしれない。

がっぷり組み合った力士たち

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画像説明, 16日の湘南乃海と時疾風の取り組みでは、2人とも客席に落ちた
相手の胸に顔を押し付ける力士たち

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画像説明, 2人の力士の体重は合計320キロになった
ロンドン公演2日目に向き合った伯桜鵬と王鵬

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画像説明, 神社の屋根のような形の屋形が土俵の上にかかる。重さは約6トンだ

もちろん、ほとんどの人が相撲のことを考えた時に真っ先に思うのが、力士の大きさだ。アルバート・ホールのプログラムディレクターは英紙ガーディアンに、「最大200キロまで耐えられる椅子を、新たに調達・購入する必要があった」と話した。

だが、完売続きの相撲人気とは裏腹に、舞台裏では問題もある。過去数十年にわたって、いじめ、八百長、性差別などのスキャンダルが競技のイメージを傷つけてきた。

そして昨年は、チケットの売れ行きが好調だった一方で、新しく相撲部屋に入門した新人の数は過去最低だった。

力士は厳格な生活を送る。それが、かつてほど魅力的に映らなくなっているのかもしれない。若い日本人の間では、野球など他のスポーツが人気を集めており、相撲の人気を脅かしている。

BBC社内の相撲ファン、トーマス・ファブリ記者は、「日本の友人たちは、相撲は年寄りのスポーツだと思っている。なので、相撲に夢中な私を変人扱いする」と話した。

下がり続ける日本の出生率も、相撲界にとって問題となる。加えて日本相撲協会の規則は、各部屋に外国人力士は1人までと制限している。それでも、近年はモンゴル出身力士が特に多いし、最も注目される新星の一人はウクライナ出身だ。

ロイヤル・アルバート・ホールの前でアフリカ系の女性1人と白人男性2人が、青で「安青錦」、ピンクで「宇良」と書かれた鮮やかな力士タオルを広げてカメラに向かって笑っている
画像説明, ダン・ミルン=モリーさん、メガ・オカイさん、キャスパー・エリオットさんは、力士応援タオルを持って相撲観戦に臨んだ

それでも、ロンドンの相撲ファンは特に気にしていない。

「相撲につきものの儀式や作法を見ることができて、とても特別な体験だった」とファンのシャーンさんは話した。「実際に目の前で見て、前より自分がその一部になった気がした」。

ジュリアさんとセザールさんも、観戦した翌日、同じようにメッセージしてきた。

「これは日本のスポーツだけど、自分たちが場違いだとは思わなかった。周りに世界中から来た人たちが本当に大勢いたから」

メガさんは、相撲のドラマチックな部分に「とても感動した」と話した。ほかの相撲ファンと交流できたのも素晴らしかったという。

「(掲示板サイトの)レディットのとてもニッチなコミュニティーから飛び出して、これほど多くの相撲ファンを実際に目にすることができて、自分たちと同じくらい熱く語り合えた。まさに金星と言えるくらい、有意義な体験だった」

(追加取材:トーマス・ファブリ)