台湾の洪水被害、なぜ甚大になったのか 「せき止め湖」決壊の警告はなかったと住民ら

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「スーパー台風」となった台風18号(ラガサ)は、台湾に深刻な洪水被害をもたらした。現地当局は、少なくとも14人が死亡し、32人が負傷、46人が行方不明となっているとしている。住民らは、警報などは出されず、避難する間もなく濁流が押し寄せたと話している。
台湾東部・花蓮県光復郷の書店主のアワさん(42)は、山側から洪水が押し寄せてきたとき、夫と車で逃げようとした。だが、時すでに遅しだったという。「外は川みたいで、車が浮いていた。すべてが流され始めていた」。
夫妻は書店の2階に避難。できるだけ多くの本を被害から守ろうとしたと話す。
「まだショック状態にある。どうしてこんなことになったのか、想像もつかない」

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台湾の緊急事態当局は、7月の台風による土砂崩れで山間部に形成された「せき止め湖」が決壊したことが、今回の被害を生んだとしている。
決壊によって一気に放出された水は、壁のようになって街に流れ込んだ。橋を流し、木を根こそぎ倒し、車を水没させた。死者の多くは、自宅に水が押し寄せ、逃げることができなかった高齢者だったとされる。

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国立台湾大学の陳文山名誉教授(地質学)は、せき止め湖の決壊で放出された水について、「運動エネルギーは津波よりも大きいかもしれない。流れの速さは時速100キロを超えることもある」と話す。
「平野部に達するころにはエネルギーは落ちるが、それでも強力かつ速いことに変わりはない。一般的な川の堤防はとうてい持ちこたえられない」
書店主のアワさん同様、多くの台湾の住民にとって、今年最大の台風ラガサの大きな被害は予想外で急だった。
光復郷の被災者らは、災害の直前、当局からは何の警告もなかったと話している。
前出の陳名誉教授は、せき止め湖については学術界が以前から警鐘を鳴らし、当局と緊急対策計画にも取り組んでいたが、「住民を適切に避難させられなかったことが、被害が深刻化した要因の一つとなった」と話した。

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台風18号が台湾に接近する前日の22日、花蓮県の当局は警報を発令し、約7000人を避難させるとともに、避難センターを3カ所設置した。中央政府も県当局に対し、避難を急がせるよう繰り返し求めた。
しかし、避難は「強制的ではなく」、県当局は住民に高台への避難を呼びかけただけだったと、地元議員はBBCに話した。
せき止め湖が決壊したのは23日午後3時前だった。当局は、放出された水が下流の居住地域に到達するまで2時間かかり、影響を受けるのは川の近くの住民だけだと予想していた。
しかし実際には1時間もしないうちに、約1万2000人が暮らす光復郷に大量の水が流れ込んだ。
高校の管理者は、洪水に関する特別な警報は出されていなかったとBBCに証言。昼食を終えた午後3時ごろ、せき止め湖が決壊したと聞いたと話した。
「10分もしないうちに、道路から学校へと水が広がってきた。グラウンドは水没した」と管理者は当時の状況を説明。いす、テーブル、冷蔵庫、車までもが流されてきたと話した。
管理者はまた、当局が台風の影響を過小評価していた可能性があるとの見方を示した。先月の別の台風の上陸では、せき止め湖は決壊していなかった。

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今回の洪水の死者の多くは高齢者だった。現地メディアによると、遺体のほとんどは家屋の1階で発見されたという。
書店主のアワさんは、「農村部の高齢者はふだん、家を訪ねてくる人を通して情報を得ている。当局がどのように高齢者に情報を伝え、状況を管理していたのかはわからない」と話した。花蓮県では高齢化が進んでおり、高齢者の多くはスマートフォンを使っていないとされる。
前出の地元議員は、「多くの高齢者は慢性疾患で寝たきりになっていて、誰も彼らを助けることができなかった」と話す。
せき止め湖の危険性について指摘する声もある。
台湾の公共テレビ局によると、島内では1970年代から88のせき止め湖が形成された。そのうち57%は台風の後、23%は地震の後にできた。ほとんどは1年以内に消滅するが、四つが数十年前から存在しているという。
しかし、台湾の人々はせき止め湖についてほとんど理解していないと、元内政部長(内務相)で土木技師の李鴻源氏は現地メディアに話した。同氏によると、せき止め湖の決壊を目にしたのは、多くの研究者にとってもこれが初めてだったという。






