火星で史上初のヘリコプター飛行に成功 NASA
ジョナサン・エイモス、BBC科学担当編集委員
米航空宇宙局(NASA)は19日、火星で小型ヘリコプターの飛行に初成功した。
小型ヘリ「インジェニュイティー」(創意工夫の意)が飛行したのは1分未満だったが、史上初の、他の惑星での制御された動力飛行の成功に、NASAの管制室はわきかえった。
飛行成功は、火星の周囲を回っている人工衛星からの映像送信で確認された。
NASAは、数日以内にさらに野心的な飛行を計画していると話している。
エンジニアは技術の限界を探るため、インジェニュイティーをさらに高く、長く飛ばす予定だ。
インジェニュイティーは、今年2月に火星に着陸したNASAの探査車「パーサヴィアランス(忍耐の意)」の胴体に収納され、火星の赤道付近にあるジェゼロと呼ばれる深いクレーターに到着した。

NASAジェット推進研究所でインジェニュイティーのプロジェクト責任者を務めるミミ・アウン氏は、「人類が回転翼による航空機を別の惑星で飛ばしたと言える」と報告した。
「火星における『ライト兄弟の瞬間』についてずっと話してきたが、ついに実現した」
これは、ウィルバーとオーヴィルのライト兄弟が1903年、世界初の有人動力飛行に成功したことにちなんでいる。
インジェニュイティーは、ライト兄弟が米ノースカロライナ州キティー・ホークで最初に飛ばした「フライヤー1」の片翼に使われていた布の一部を携えて飛行した。

画像提供, NASA/JPL-CALTECH

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インジェニュイティーが宙に浮かぶ写真が地球に送信されてきた時、ジェット推進研究所では大きな歓声が上がった。映像では、ミミ・アウン氏が「現実になった!」と話しているのが聞こえる。
同僚から拍手を送られたミミ・アウン氏は、計画が失敗した時のために用意していたスピーチ原稿を破り捨てた。

画像提供, NASA/JPL-CALTECH
インジェニュイティーは火星の地表面から3メートル上昇し、96度回転した後、しばらく滞空してから着陸した。離陸から着陸まで40秒近くだった。
火星での飛行は簡単ではない。大気は地球のわずか1%ほどの薄さしかないため、ブレードはほとんど上昇する力を得ることができない。
重力の低さが助けてくれるが、それでも地面から浮き上がるのには大変な労力を要する。
そのため、インジェニュイティーは非常に軽量に設計され、ブレードの回転を非常に速くしてある。最大出力は350ワット。今回の初飛行では、毎分2500回転以上を記録した。
制御は自動で行われている。地球から3億キロ離れた火星に電波が届くのには何分もかかる。操縦桿(かん)での操作は単純に問題外だ。
飛行成功に驚いたかという質問に、ミミ・アウン氏は「そんなことはない」と話した。
「方程式やモデル、地球でのラボテストでの確認も正確だった。なので問題となっていたのは、インジェニュイティーの素材が宇宙や火星の環境に耐えられるものだったかという点だった」
「我々は『理論上は可能』というところから、実現にまで到達した。人類にとって大きな『初めて』だ」
インジェニュイティーは2台のカメラを搭載している。地面に向いたモノクロカメラはナビゲーションに使われており、もう一つは高解像度のカラーカメラで、進行方向を向いている。
ナビゲーション用カメラの写真には、宙に浮いたインジェニュイティーの影が地表面に落ちているのがうかがえる。
飛行ミッションの間、パーサヴィアランスは65メートル離れた位置からその様子を撮影していた。

画像提供, Nasa
NASAは、パーサヴィアランスが今回のミッションのためにインジェニュイティーを設置したジェゼロの「飛行場」を、「ライト・ブラザーズ・フィールド」と名付けたと発表した。
国連の国際民間航空機関(ICAO)も、NASAと米連連邦航空局(FAA)に対し、インジェニュイティーに航空機コード「IGY」を付与すると発表した。
インジェニュイティーは、数日間であと4回のフライトを予定しており、早ければ22日にもその初回の飛行が行われる予定。フライトごとに記録を更新していくという。
ジェット推進所の火星ヘリコプター操縦士、ホーヴァート・グリップ博士は、「もっと高く、もっと長く、もっと速くを目標に、このヘリコプターの能力を伸ばしていくつもりだ」と語った。
NASAの主任科学者トーマス・ザーブチェン氏は、「アクセルを踏んで前進する」と述べた。

今回のデモ飛行が、ゆくゆくは遠い惑星の探査手段になることが期待されている。
小型機が未来の探査車の偵察役となり、人類が火星に降り立った暁にも、そうした役割を果たしてくれるだろう。
ジェット推進所のマイケル・ワトキンス所長は、「インジェニュイティーの成功によって、3次元に到達した。惑星探査において地表面から解き放たれたことで、地表面を走行しサンプルを採取し、予備調査を行い、探査車でたどり着けない場所で科学実験を行うといった組み合わせが可能になった。そうやって未来を築き上げていく」と話した。
インジェニュイティーのチーフエンジニア、ボブ・バララム氏は、すでに大型ヘリの投入についても協議が始まっていると述べた。
「25~30キロ台の探査車に、4キロの科学設備を搭載することを考えている」
NASAはすでに、土星の衛星であるタイタンでのヘリコプター計画「ドラゴンフライ」(トンボの意)を承認している。ドラゴンフライは2030年代半ばにタイタンに到着する予定だ。タイタンは火星よりも大気が濃いため、飛行実験は容易だと期待されている。










