ロシア、不法移民をウクライナでの戦争に誘い込む 「簡単で良い仕事」と言い在留許可も提示

オレグ・ボルディレフ、BBCロシア語

サッラ国境検問所のロシア側に設置されたテントに集まる移民

画像提供, Governor of Murmansk/Telegram

画像説明, フィンランド国境のロシア側では、ビザの期限切れを理由に多くの移民が拘束された。画像はサッラ国境検問所のロシア側に設置されたテントに集まる移民

ロシアが、フィンランドとの国境で拘束した外国人移民を、ウクライナでの戦争に参加させようとしている。フィンランドはロシアが第三国からの亡命希望者を同国へ誘導しているとして、ロシアとの国境にある検問所を全面閉鎖している。

複数の外国人が、移民法違反で拘束された数日後に、ウクライナとの国境にあるロシア軍のキャンプに送られたことを示すいくつかの証拠を、BBCは確認した。

ロシアが国外退去させる人々を収容する施設で、ウクライナで兵役につく契約を交わすよう強制するのは、いまに始まったことではない。しかし、フィンランドとの全長1340キロの国境に多くの外国人が到着したことで、その数は膨れ上がった。

フィンランド政府は、同国が4月に北大西洋条約機構(NATO)の31番目の加盟国になったことを受け、ロシアがフィンランドの不安定化を狙い、移民や亡命希望者をフィンランドへと誘導していると非難。ロシアとの国境にある8カ所の検問所を11月30日から12月13日までの2週間、全面閉鎖している。

フィンランドと国境を接する、ロシア北部カレリア共和国の裁判所での審問に関する分析では、有効なビザ(査証)を持たずにロシアに滞在したとして逮捕され、強制送還される運命にあった人が、この3週間で236人いたことが示されている。フィンランドとの国境に位置するレニングラード州とムルマンスク州でも同様の状況がみられた。

カレリア共和国の裁判所に出廷した人には、11月中旬に逮捕された40代のソマリア人男性が含まれる。この男性は2000ルーブル(約3100円)の罰金を科され、国外退去の処分が決定するまでの間、勾留されていた。これは、適切なビザを持たない者に対する標準的な手続きだ。

「アワド」という名のこの男性は、カレリア共和国の首都ペトロザヴォーツクにある国外退去前センターに収容されていた。そこには、アワドさんのほかに少なくとも12人の収容者がいた。彼らは逮捕後すぐに、ロシア軍の代理人に声をかけられ、「国家のための仕事」に就くことを提案された。高い給与と医療ケア、そして軍との1年間の契約完了後にロシアに滞在する許可も与えられると約束された。

「アワド」は男性の本名ではないが、BBCは男性の身元を確認している。

アワドさんは7月中旬にロシアに到着し、隣国ベラルーシへ向かった。その後数カ月間、ポーランドへの入国を試みた。11月上旬には、亡命希望者に人気のある複数のインターネット・チャットグループが、フィンランドとロシアの国境がアクセスしやすくなったというニュースで持ちきりになっていたという。

ラヤ・ヨーセッピ国境検問所のフィンランド国境警備隊と警察

画像提供, Reuters

画像説明, フィンランドは11月30日、ロシアとの国境にある八つの検問所のうち唯一開放されていた最北端のラヤ・ヨーセッピ国境検問所も閉鎖した。画像は同検問所のフィンランド国境警備隊と警察

そして、かつてない数の移民がフィンランド国境に現れ、難民申請を行うという事態が生じた。

フィンランド当局は、ロシアがフィンランドへの移民の流入をけしかけ、国境地帯に入る旅行者に通常行っているビザのチェックを放棄したと非難した。

また、ロシアが移民に対して組織的に自転車を配布したと、フィンランドは強調している。ほとんどの自転車は新品で、移民たちはこの自転車を、ロシア側の国境地帯の最後の区間を移動するのに使ったとした。ロシアは徒歩で国境を通過することを禁止しており、この問題を回避するためだという。

フィンランドは11月29日、ロシアとの国境にある八つの検問所のうち唯一開放されていた最北端のラヤ・ヨーセッピ国境検問所を11月30日から12月13日までの2週間、閉鎖すると発表した。フィンランドに航空機や船舶で到着した人は今なお亡命を求めることができるとしている。

アワドさんは11月14日にタクシーをチャーターし、別のソマリア人移民1人と一緒にサンクトペテルブルクから数時間かけて、フィンランド国境から30キロの場所にあるカレリア共和国の町ラフデンポヒヤまで移動したと、BBCに語った。

自分たちだけで行動し、誰の助けも受けなかったと、アワドさんは主張した。

フィンランドの国境検問所
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アワドさんの話は、典型的な事例だった。彼の1カ月間有効のビザは、8月にその期限が切れていた。警察の検問でタクシーが止められ、アワドさんは逮捕された。アワドさんとほかの12人は翌日に有罪判決を受けて拘置所に移された。

複数の人権団体によると、ロシアを経由地として西側に向かう外国人が、欧州連合(EU)諸国との国境を越えようとする間に、短期ビザの期限が切れてオーバーステイになることは日常的にあることだという。

そのため、11月中旬に警察が有効なロシアのビザを持たない人々を逮捕し始めたことは、フィンランド国境での移民に対するロシア側のアプローチの変化を示していた。

ロシアの当局者がソマリア人らに提示した、仕事を紹介する書類はロシア語で書かれていて、移民グループにその内容を理解できる人は1人もいなかった。アワドさんたちは、ロシア国内で軍に関連する仕事が与えられるものと思っていたという。

「契約書類は渡されなかったし、きちんと見せてももらえませんでした。(どんな仕事か)たずねると、簡単で良い仕事だと言われました」と、アワドさんはBBCに話した。

ソマリアで武装組織アル・シャバブに何度か命を脅かされたことがあるというアワドさんは、ソマリアへの送還を恐れていた。アワドさんとほかのソマリア人5人、アラブ諸国から来た男性5人、キューバ人1人は、ロシア側からの提案を受け入れた。彼らはバスに乗せられ、南へ向かった。

BBCはカレリア共和国の内務省に、このような拘置所から釈放された収容者がほかに何人いるのか情報を求めたが、これまでのところ反応はない。

私たちは、アワドさんたちのグループにいた別の男性の身元も確認している。この男性の名前は、カレリア共和国の裁判所記録の名前と一致している。

ロシアとの国境近くを歩くフィンランド国境警備隊と自転車を押す移民たち(11月21日、サッラ国境検問所付近)

画像提供, Reuters

画像説明, フィンランドとの国境には、この数週間で数百人の移民が自転車に乗って到着した。画像はロシアとの国境近くを歩くフィンランド国境警備隊と自転車を押す移民たち(11月21日、サッラ国境検問所付近)

アワドさんたちとは別に、同じくフィンランド国境近くで逮捕されたイラク人男性1人も、国外退去命令を無効にする方法として、ロシア軍と契約を交わすよう圧力をかけられていたと、複数の人権活動家に語っている。

この男性は、イラクに戻っていたら、自分の命が深刻な危険にさらされていたと話した。男性が実際に契約に署名したのかはわからない。

今週初め、ソマリアのラジオ「クルミエ」は、ベラルーシのソマリア人コミュニティーの代表者に話を聞いた。名前を伏せたこの人物によると、少なくとも60人のソマリア人がロシアの拘置所に収容され、軍の勧誘員から接触を受けた。

そのうち少なくとも8人がロシア軍と契約を結んだと、この人物は述べた。

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アワドさんは、バスでの移動は、ウクライナとの国境にあるロシア軍のキャンプにたどり着いたところで終わったと、BBCに語った。ぬかるんだキャンプ地には大きなテントが複数設置されていたという。

この時に、自分たちが戦場に送られていることに気が付いたという。「私たちは、1年間の訓練と、良い給料とケアを受けられるオプションがあると聞いていました。だけど、ウクライナ国境に行くとか、戦争だとかは聞かされていなかった。言われていたことは全部うそでした」。

外国人の勾留者が釈放と引き換えに軍との契約を提示されているという疑惑について、BBCはロシア内務省に再度コメントを求めた。

アワドさんたちは契約の破棄を要求したという。キャンプの関係者は軍法違反で長期刑に処されることになると脅してきたが、その後、仕事のオファーが取り消され、国外退去の手続きが再開されることになると言って去っていったという。

この移民グループのうち4人は、仕事を取り消すことを認める内容の書簡を受け取ったと、アワドさんは述べた。BBCはこの書簡を見ていない。

いまのところ、彼らは軍のキャンプにとどまっている。アワドさんは「裁判所とのビデオ会議」が近々行われると知らされたというが、どのような審問が行われるのか詳細は明らかにされていないという。

自分はだまされてロシア軍に入隊させられたのだと、アワドさんは主張し続けている。ただ、自己弁護の唯一の主張は、ロシア語で提示された内容を十分に理解していなかったという点だけだ。

「私はノーと言いました。自分が何にサインしたのかわからないし、母国語で書かれているわけでもないので」とアワドさんは述べた。「私は亡命希望者であり、兵士ではない」。