ロシアは次にどう動くのか 英軍情報トップがウクライナ情勢を語る

ジョナサン・ビール防衛担当編集委員

ロシアもウクライナも、決定的な軍事行動を年内に起こすことはないだろう――。イギリスの軍情報機関のトップ、ジム・ホッケンハル中将が、そうした見方をBBCに示した。

ホッケンハル氏が、インタビューに応じるのは珍しい。取材の中で同氏は、ロシアが核兵器を使用する可能性を注視していると述べた。

首相への早朝の報告

今年2月23日、ホッケンハル氏は夜遅くまで仕事をしていた。真夜中に自転車で帰宅し、午前1時ごろ寝た。

1時間すると電話があり、ウクライナ国境で妙な動きがあったと知った。再び自転車に乗り、仕事に戻った。

確かにロシアが隣国に侵攻したと、確認が取れた。

数分後、まだ早朝だったが、首相と国防相に、第2次世界大戦後のヨーロッパで最大の武力衝突が始まったことを報告した。

ホッケンハル氏は、国防情報当局の長としてこの4年間、極秘情報を扱う組織を影で指揮してきた。ウクライナで戦争が起こると、その組織と彼の仕事は重要さが増した。

ロシアの侵攻が目前に迫っていると同氏が確信を強めたのは、昨年11月だったという。「これは起こるぞ」と思った、と振り返る。

侵攻の前の週、ホッケンハル氏は極めて異例の決断をした。ロシアの侵攻計画を予測した地図を、ツイッターで公開したのだ。簡単な決断ではなかったが、情報を公にする必要があると確信したという。

「うそが流れ出す前に、真実を表に出すことが大事なのだ」

ホッケンハル氏はまた、ロシアの化学・生物兵器使用の可能性を強調した、西側諸国の判断を支持する。

西側がそうした可能性を強調することで、ロシアのいわゆる偽旗作戦の阻止に役立った、というのが彼の見方だ。ロシアは偽旗作戦で、紛争を扇動しているのはウクライナ人や西側だと見せかけようとしていたとされる。

ロシアは多くの問題に直面

機密情報がこれほどたくさん公表されることはめったにない。国防情報当局は今回の戦争中ずっと、最新情報を毎日発表している。

機密情報(インテリジェンス)は科学ではない。確率に照らして予測する。国防情報当局が驚いたことも多数ある。

西側諸国の結束とウクライナの抵抗の強さは予想以上だと、ホッケンハル氏は話す。

ロシア軍の失敗も予想外であり、指揮や統制、兵たんは「お粗末」なレベルだと同氏は説明。ロシア軍は戦略から戦術に至るまで政治的な干渉を受けている、と付け加える。

ロシアの政界と軍部には信頼関係が欠如しているというのが、ホッケンハル氏の見方だ。ロシアはこれらすべての問題に同時に見舞われており、そのことに同氏は驚いていると話す。

次に何が起こるのか

ウクライナにおける戦争について、勝つか負けるかの二項対立で考えたり、膠着(こうちゃく)状態だと思ったりしないよう気をつけるべきだと、ホッケンハル氏は言う。

大きな損失を被ったロシアは、明らかに戦力の増強に努めているという。

ホッケンハル氏はまた、ロシアは部隊の一部をドンバス地方から南へと再配置する必要性に直面していると話す。南部ヘルソンやその周辺では、ロシアはウクライナ軍の強い圧力にさらされているという。

ただ、今後数カ月内に南部で決定的な転換があると期待するのは非現実的だと言う。

ホッケンハル氏は、ウクライナの領土奪還への意欲は理解できると話す。しかし、反撃や反転攻勢はあるだろうが、勝敗を決するような行動をどちらかが起こすことは、年内にはないとみている。

つまり、長期戦になるというのが彼の予想だ。

核の選択肢

ここで1つの疑問が生じる。もし、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事目的の達成に苦労し続けたら、彼は何をするのか、というものだ。核兵器の使用に踏み切る可能性はあるのだろうか。

ホッケンハル氏は、この点を「極めて注意深く」見ているという。

ロシアは西側諸国とは異なり、軍事政策として、作戦のために戦術核兵器を使うとしている。

ホッケンハル氏は、戦術核兵器がすぐに使用される可能性は低いと考えているが、今後も注視していくという。

そして、戦況が変われば、使用される可能性も変わるかもしれないと説明する。

中国への懸念

国防情報当局のトップを4年務めたホッケンハル氏は、次は国防省の戦略司令部のトップに就く。イギリスの宇宙、サイバー、特殊部隊の活用といった活動の監督などが任務だ。

同氏はなおも、ロシアを最大の脅威と見なしているが、中国への懸念も強めている。

中国はここ数週間、台湾周辺で軍事力を見せつけている。

ホッケンハル氏は、「政治問題を解決すると決意した国の驚異的な軍事近代化」を同氏が問題視しないとしたら、不適切なことだと話す。

イギリスの軍情報機関の仕事は、楽にはならない。