なぜ韓国の女性はショートヘアを取り戻そうとしているのか 発端は女性五輪選手の髪型
イヴェット・タン、ワイイー・イップ、BBCニュース

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東京オリンピックの女子アーチェリーで、韓国代表のアン・サン選手が3つの金メダルを獲得した時、地元での声は称賛ばかりではなかった。アン選手は同時に多くの批判にさらされた。
なぜか? 彼女がショートヘアだからだ。
さまざまな侮蔑が飛び交う中、アン選手は「フェミニスト」と呼ばれるようになった。本来は女性の権利拡大を求める人を指す言葉だが、韓国ではミサンドリー(男性嫌悪)と関連付けて使われている。
ある男性はインターネットへの投稿で、「アン選手が金メダルを取ったのは良いけれど、短い髪を見るとフェミニストのように見える。もしそうなら応援しない。フェミニストは全員死ねばいい」と書いた。
しかし、アン選手への批判が強まると、彼女を擁護する活動も勢力を増した。
韓国全土の何千もの女性が、髪型で女性であることが損なわれることなどないと宣言するため、ショートヘアにした写真をインターネットに投稿し始めた。
韓国の女性は長年、性差別やミソジニー(女性嫌悪)と闘っているが、ここ10年で大きく前進している。セクハラ被害者を支援する「MeToo(私も)」運動の台頭や、人工妊娠中絶禁止の撤廃などがその一例だ。
では、アン選手の髪型をめぐるこの活動も、さらなる変化をもらたすのだろうか?
「女性らしさは失われない」
ハン・ジヨンさんは、ツイッターで行われているショートヘア活動の中心人物で、ハッシュタグ「#여성_숏컷_캠페인
(女性・ショートカット・キャンペーン)」を作った。
ハンさんはBBCの取材に対し、「男性優位のオンラインコミュニティーに(アン選手に対する)女性嫌悪的なコメントが1件2件ではなく(たくさん)あふれていた」のを見て心配になったと語った。
こうしたアンチ・フェミニストの大半は若い男性だが、より高齢の男性や、中には女性もいるという。
「こういう集団攻撃は(中略)男性は女性の体をコントロールできるとか、女性はフェミニストとしての人格を隠さなければいけないとか、そういうメッセージを発している」
「女性がショートヘアの写真を投稿し、女性のオリンピック選手への連帯を示す活動を始めることで、この両方の問題に立ち向かえると思った」
投稿された写真は数万件に上った。多くの女性が、髪を切る前と切った後の写真を掲載した。また、アン・サン選手の髪型を見て、髪を切ろうと思ったと語る女性もいた。
この女性はハッシュタグと共に、「長い髪に化粧、チョーカーなどなど。コルセットがきつい時代もあったけど、髪の毛を短くすればその分だけ肩が軽くなって自由になれる」と投稿した。

しかしなぜ、ショートヘアとフェミニストが関連付けられるのか?
韓国の「MeToo」運動に関する本を出版予定の作家ユン・ハウォンさんは、多くの人がこの2つを重ねるようになったのは、2018年に起きた「脱コルセット」運動の後だと指摘する。この運動では、女性たちが髪をショートカットにしたり化粧をしなかったりすることで、長年理想の美しさとされてきた常識に立ち向かった。
「それ以降、短く切った髪は若いフェミニストたちにとって一種の政治的主張になった」
「このフェミニストの覚醒は、やりすぎではないかと考える男性からの厳しい批判にさらされた」

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物議をかもしたジェスチャー
ショートカット運動の数週間前には、「フェミニスト」に対する別の攻撃があった。
この時に標的になったのは、親指と人差し指でものをつまむようなジェスチャーだ。一部の男性は、このジェスチャーはフェミニストが男性器のサイズを馬鹿にするときに使うものだと主張している。
このジェスチャーは、過激的なフェミニスト・オンラインコミュニティー「メガリア」のロゴだった。メガリアは男性嫌悪的だと見られていたが、現在は閉鎖されている。
韓国のコンビニエンスストア「GS 25」や、フライドチキン・チェーンの「BBQジェネシス」、「キョチョン・チキン」などは今年初め、このジェスチャーが含まれている広告を出したところ、ボイコット運動が高まり、広告を取り下げている。

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これらの企業は政治的主張をしたかったわけではないようだが、それでも、このジェスチャーに少しでも似たものがあれば排除しようとする男性たちから、ある種の「魔女狩り」に遭った。
米カリフォルニア大学でジェンダー学の教授を務めるジュディー・ハン博士は、「一部の男性は、特定のフェミニズムのブランドが自分たちを貶めていると主張し、それと関連付けられるイメージに執着するようになっている」と指摘している。
この騒動では、批判の声があまりにも強く、謝罪させられる企業すらあった。
GS 25のチョ・ユンサン社長は、広告を取り下げたにも関わらず、与えた「苦痛」について謝罪。このジェスチャーとソーセージを使ったポスターのデザインに誰がかかわったのか調査すると述べた。

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専門家からは、こうした謝罪は怒れる男性たちをさらに増長させるだけだとの声も出ている。
ユンさんは、「男性たちは次の標的に移った。アン・サン選手だ。そうした男性たちが嫌う様々なもの縮図のような。まして、若い五輪選手だ」と語る。
「アン選手はショートヘアで、女子大学出身で、インターネット暴徒が特にこれといった理由もなく『男性嫌悪的』と決めつけた表現を、いくつか使っていた」
女性の成功を敵視
インターネット暴徒の多くが若い男性だ。彼らが激高するのは、女性の成功は自分たちの犠牲の上に成り立っていると、信じ込んでいるからだ。
「男性ばかりが集まるオンライン・コミュニティーは、君たちが抑圧されているのは女のせいだと、若者に教え込む。たとえば、女性は試験で良い点を取り、君たち男性の席を奪っているのだ、などと」と、ハン博士は言う。
韓国では大学入試や就職活動が熾烈(しれつ)を極めている。一部の男性は、自分たちが不公平で不利な立場に置かれていると主張する。
たとえば、韓国ではすべての男性に18カ月間の兵役が義務付けられているが、これがキャリア形成を遅らせるという指摘だ。
また、韓国には数十の女子大学があり、中には需要が非常に高い学科を設置しているところもある。一方、男性には同じような仕組みが提供されていない。
しかし、韓国の女性の給与は男性のわずか63%に過ぎず、先進国の中でも最も給与格差が大きいのが現実だ。英誌エコノミストの「ガラスの天井(実績があっても性別や属性を理由に越えられない障壁を指す言葉)指数」でも、韓国は働く女性にとって最も環境の悪い先進国となっている。
では、今後韓国の女性たちの環境はどうなっていくのか。ショートヘアをめぐる活動で、現実的な変化は起こるのだろうか。
作家のユンさんは、「ここ数年で現実的な変化が起きている(と思う)」と語った。
「女性たちは自分たちの人生のために新しい道を切り開こうとしている。昔ながらの『女性らしさ』を求める社会的圧力を押しのけ、自分が一番しっくりくるヘアースタイルを選ぶ自由を手に入れようとしている。今回の動きもその一部分だ」
追加取材:ハ・セリン(BBCコリア語)







