東京五輪、開幕まで1年 中ぶらりんの英企業
ビル・ウィルソン、ビジネス記者、BBCニュース

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新型コロナウイルスの感染症COVID-19は、スポーツ界にも深刻な混乱をもたらしている。大会のキャンセル、無観客試合、選手の健康、観客の安全など、さまざまな事象が大きく報じられている。
新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)はさらに、スポーツ業界を支える企業にも連鎖的に大きな影響を及ぼしている。それが最も顕著なのが、東京2020オリンピック大会(東京五輪)の周辺だ。
東京五輪は本来なら今月24日に開幕するはずだった。しかし来年夏に延期され、運よく関連事業を獲得していたイギリスの企業も影響を受けている。
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英企業が関わる予定だったのは、水上競技の一部コースの設営や、馬用の救急車や発電機の提供、競技場の建設などだ。もちろん、スポンサー企業への助言といったソフト面での関与も予定されていた。
大規模な物流が必要に
最も影響が大きかった2社が、ESグローバル(ESG)とアグレコ(Aggreko Events Services)だ。

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本社をグラスゴーに置くアグレコは、東京五輪で66ある公式パートナーおよびスポンサーの、唯一の英企業だ。オリンピックには1988年のソウル五輪から関わり、発電機を提供してきた。
東京五輪における当初の契約は約2億ドル(約214億円)相当。今年に入り、約2億5000万ドルに増える見込みを示していた。日本側は予定通りに分割の支払いを続けており、アグレコはこれまでに1億ドル超を受け取っている。
同社のロバート・ウエルズ代表取締役は、「延期は中止よりずっといい」と話す。「目下、五輪組織委員会と細部にわたる話し合いをしている。日程変更で大規模な物流業務が生じている」。
また、すでに何カ所かの競技会場に設置した発電設備を撤去しているところだと話した。

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それらの設備は東京にあるアグレコの施設に戻されて保管され、来年の使用に備えてテストされる。
「もちろん延期でコストはかさむ」とウエルズ氏は言う。「しかし、現時点ではそれを数量化できない。どれくらいになるか、組織委員会と継続的に話をしている」。
アグレコは発電機のほか、配電設備や電力ケーブル、日本の既存の電力網からの電力を蓄える設備などを提供している。
同社では東京五輪に向け、500人超のスタッフと契約業者を採用して多国籍のチームをつくる予定。五輪開催中も300人以上を採用する計画だ。
新たな契約を結ぶ?
一方、ロンドンに本社があるESGは、トライアスロン、射撃、ゴルフ、テニス、ボート、ホッケーの6競技の会場を設営・撤去を担う。

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「主催組織は東京五輪について延期されただけだと発表しているが、低位の政治レベルでは矛盾した声明が出ている。幾らかの不確実性がある」と、ESGのオリー・ワッツ共同最高経営責任者は言う。
「東京五輪がどのような事情の場合に中止となるのかは明確にされている。新型コロナウイルスの問題が日本と世界でどのように続くかにかかっている」
「わが社の現在の契約は、いかなる中止についても補償を受けられることになっている」
大会が来年開催に向けて動いている今、同社は東京五輪の主催組織が新たな契約を作成するのか、見守っているところだと、ワッツ氏は言う。
「どんな変更だろうと、知れ渡るには時間がかかる」、「現在の契約に関しては、尊重されるものと考えている」
ESGはすでに競技会場の設営に取りかかっていた。例えば射撃は、3月に東京五輪の延期が発表された時点で、99%が出来上がっていたという。

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他の競技会場では、必要な設備を現地に運び終え、設営を待っていた状況だったという。
射撃会場は大部分がそのままになっている。その他の会場では、すべての設備が現地で保管されている。
五輪主催者は、「例えば、契約期間や納期などについて」、現在の契約をめぐって再交渉を進めていると話す。また、「新たに必要となった物資の調達」も協議の対象だとしている。
輸送を延期
延期によって影響を受けたのは有名企業だけではない。
中小の英企業も、日本と世界のスポーツ界に専門能力を売り込もうと意気込んでいる。

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競馬場で有名なニューマーケットにあるエクイセイヴは、馬用の救急車をデザイン、製造している。
同社は2000年設立。創設者ビル・フェロウズ氏にとって東京五輪は、ロンドン(2012年)、リオ(2016年)に続いて3回目の五輪だ。
同社の救急車はイギリスで製造されており、同国の17競馬場と中東に販売されている。
「東京では気温に合わせて、初のエアコンつき車両を使う予定だ」とフェロウズさんは話す。
同社が提供する車両は6台だ。すでに去年、エアコン完備の車両2台を試験のため日本に送った。4台のハイテク救急車も続く予定だ。
「契約では残りを4月に送ることになっていたが、その前に東京五輪が延期になった」
「この職種は金銭的な浮き沈みが激しく、私たちの救急車を1年間も眠らせておくわけにはいかない」

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「それで私たちは取り決めを交わした。五輪主催者が救急車の代金を満額支払うなら、五輪のためにイギリスで無料保管しておくというものだ。代金はすでに支払われている」
残りの救急車は来年、輸送されるという。不確実なことが多い状況で、イギリスの小さな会社は五輪の設備据え付けにおいて大きく先行している。
「すべて支払われた」
イングランド北西部カンブリアのラピッドブロックスは、カヌーのスラロームで使われる大型ブロックを製造している。同社はすでに、東京・葛西臨海公園のコンクリート製コースに設備を設置し終えている。
創業者アンディ・レアード氏によると、ポリエチレンと鉄で作った大型ブロックは、コンクリートのコースの土台部分に配置されている。このブロックは、水の流れる方向や速度を「形作る」という。
作業は1年前に完了したと、レアード氏は話す。
「すべての支払いを受けた。私たちは製造し、輸送し、設置した。テストイベントも開かれていて、素晴らしいコースになっている」

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同社は東京五輪に加え、2024年パリ五輪のカヌー・スラローム競技のコースでも設置を終えている。
「(パリでは)2019年5月に完了させた」、「今後2つの五輪の仕事は無事終了している。これで計4つの五輪に関わったことになる」
明るい兆しも?
インフラ以外の分野でも影響は見られる。例えば、スポンサー企業やスポーツ団体にオリンピックでのマーケティングを提案する、トゥルー・ゴールド・コミュニケーションズのレン・オレンダー氏だ。
これまでサムスン電子、コカ・コーラ、富士通、NTTといった企業と仕事をしてきた。
彼にとって夏季と冬季合わせて14回目のオリンピックとなる東京五輪では、オセアニア・オリンピック委員会(ONOC)を支援している。

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「私たちは東京都と連携してオセアニア・ヴィレッジをつくるため、東京湾の見事な場所を確保していた」とオレンダー氏は言う。
しかし、大会は延期され、来年も同じ場所が利用できるかはわからないという。
オセアニアを紹介するこのプロジェクトは、来年の早い時期に再スタートすることが期待されている。だが、財源があるのかは不明だと同氏は話す。
それでも、東京五輪の延期には、明るい兆しと思えるものもあるという。
五輪のパートナー企業は、それぞれのスポンサー活動を異なるかたちで始動する機会をもつことになる。社会的距離の確保や人工知能(AI)テクノロジーを勘案したものになる可能性があり、そうした動きが新たなチャンスを生み出すというのだ。
さらに、2021年の東京大会の主催者は、新型ウイルス後のスポーツ界における世界的な「再生」の一部として、大会を売り出すことが予想される。
「それによって、オリンピックのブームに乗ることへの関心が高まることが考えられる。それはマーケティング企業やスポンサー活動の専門家にとって、チャンスが増えることを意味する」











