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メガン・ラピーノ、大好きか大嫌いか なぜこんなに評価が割れる
マリアン・ブレイディー、BBCニュース、ワシントン
(編集部注: 日本ではMegan Rapinoe選手について「ミーガン・ラピノー」などの表記が多く使われていますが、BBCでは本人発音に近い「メガン・ラピーノ」と表記しています)
彼女はワールド・カップ(W杯)に優勝して、最優秀選手と最多得点選手になった。その上、そのふてぶてしい態度と見事なスピーチで、帰国後の優勝パレードの主役になった。しかし、メガン・ラピーノに対する毀誉褒貶(きよほうへん)は激しい。彼女に憧れる人もいれば、彼女の存在に激怒する人もいる。なぜ、評価がこれほど割れるのか。
今年の夏の主役は今のところ、このアメリカ女子代表の共同主将だ。33歳のラピーノは大会を通じて6得点して、世界一のチームの連覇に貢献した。
ラピーノはアメリカでひっぱりだこだ。テレビのトーク番組に次々と出演し、数々の雑誌の表紙を飾っている。そして、アメリカ各地で子供たちは(女の子も男の子も)、次のメガン・ラピーノを目指して、さかんにサッカーを練習している。
しかしフランスで優勝を果たしてまだ1日とたたない翌日、ラピーノとチームメイトがおそらくまだ優勝を祝っていたころ、本国アメリカでは彼女のポスターが汚されていた。
ラピーノのポスターに何者かが、同性愛者を攻撃する落書きをして回ったのだ。ニューヨーク市警は、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の可能性もあると見て捜査していると発表した。
ネット上では、得点を喜ぶラピーノや踊るラピーノの動画が短く加工され、称賛と共に広く拡散されたが、その一方では彼女の態度や市民活動家としてのありようを非難・中傷するコメントもたくさん出回った。ラピーノの愛国心を疑う声さえある。
保守派コメンテーターの1人は、ラピーノが実は女子にとって悪いお手本だと強調する。「彼女を見上げても、そこにいるのは自分を律することができる、尊敬できるスポーツのスターではなく、理由もなく不満だらけで怒りっぽい有名人だ。自分に与えられたチャンスにまったく感謝していない、セレブだ」と、ブラッド・ポランボ氏は書いている。
ラピーノを批判する人のほとんどは、自分が彼女を嫌うのは、彼女の性的指向とは無関係だと言う。しかし、ラピーノに代表されるようなタイプのアメリカン・ヒーロー、強くて同性愛者で女性だという英雄の姿は、明らかに一部の人の拒否反応を刺激している。
「メガンをどう扱ったらいいのか誰にも分からない」
ニューヨークの優勝パレードをチームメイトが撮影した動画が、ネットで拡散した。マンハッタン市内を移動するオープントップ・バスの上で、ラピーノはカメラ目線で「私はこうする資格がある」と叫び、シャンパンをぐいと飲み干した。
ここまで自信をむきだしにする女性は、これまであまりいなかったと、米カリフォルニア大学バークリー校のボニー・モリス教授(歴史学)は言う。女性は従来、「謙虚に謙遜する」べきだと思われてきたからだ。
「女性はこれまで、あまり自己主張しすぎないように、あるいはあまり物知りに見えないように、注意深く振る舞ってきた。そうでないと生意気に思われ、男性に好かれないと思われてきたからだ」と、モリス教授は言う。
しかし、同性愛者だと公にしているラピーノは、自分が男性にどう思われるかを気にしているようには見えない。
W杯で得点した後、ラピーノは自信たっぷりに両手を広げ、あごを上げて堂々とポーズをとった。この姿はインターネットで大評判となり、大勢が彼女の自信満々な様子を褒め称えた。
ツイッターでは、「デリバリーを頼む代わりに、自分でお湯を沸かしてパスタをゆでたときの自分」など、ラピーノの誇らしい姿にあやかる冗談ツイートもたくさん出回った。
その一方で、彼女に対してはエゴイストという批判もある。
「メガンをどう扱ったらいいのか、誰にも分からない。彼女は魅力的で頭が良くて、素晴らしいアスリートだから」と、モリス教授は言う。「自分の有能ぶりを世間に披露する権利を、自分の力で獲得した。それでもまだ、彼女がプライドをあらわにすると、それを受け入れない人たちがいる」
ダブル・スタンダードが働いていると、教授は指摘する。
男性アスリートは自信と闘志をむき出しにして、自分の胸を叩いても批判されない。しかし、ラピーノはピンク色の髪をしたレズビアンで、ドナルド・トランプ米大統領にも歯向かう覚悟の持ち主なので、彼女のような人間に出くわしたことのない人はびっくり仰天してしまうのだと、教授は言う。
アスリートであり活動家であり
アメリカ代表チームには、ピッチの上ではほかにもスターはいる。しかし、常にゴールを目指したウイングのラピーノは、試合を離れても声高に発言し続けた。
女子選手に男子と平等な報酬の支払いを要求したほか、自分の知名度を活用して社会正義についても発言してきたラピーノは、時にアメリカ世論が深く対立する発火点にも触れてきた。
ラピーノは早い段階から、黒人への警察暴力に抗議して、試合前の国歌演奏の際に地面に片膝をつけた。
フランスでの今回のW杯では、試合前の国歌演奏で起立はしたものの、右手を胸に当てる仕草は拒否した。
大会中には半年前に撮影されたラピーノの動画が浮上。その中で彼女は、たとえ優勝しても「私は(放送禁止用語)ホワイトハウスなんかに行かない」と断言していた。
大きな大会やその年のリーグ戦で優勝したチームは、しばしばホワイトハウスに招待される。2015年にアメリカ代表がW杯に優勝した際には、ラピーノは当時のバラク・オバマ大統領の招きに応じてホワイトハウスを訪問している。
今の米大統領はラピーノの発言に反発し、大会中に批判ツイートを連投した。
「女子サッカー選手のメガン・ラピーノはたった今、『勝っても、く……みたいなホワイトハウスには行かない』と発言した。NBAを除いて、NBAはもうオーナーを呼ばないが、オーナー(僕はたった今、刑事改革を成立させた、黒人失業率はこの国の歴史で過去最低だし、貧困指標も過去最高だと、説明してやってくれ)も、リーグも、チームも、ホワイトハウスに来るのが大好きだ。僕はアメリカ代表と女子サッカーの大ファンだが、メガンはまず勝ってから、口を開くべきだ!」
これに対して、ラピーノはものの見事に勝ってみせた。大統領のツイートの2日後にはフランス相手の準々決勝で2得点を挙げ、2-1で勝ち進み、決勝戦そのものでもさらに1得点した。
しかし、それでもまだ足りないのだ。一部の批判派にとっては。
前出のポランボ氏は保守系米誌ワシントン・エグザミナーに、「彼女は実際、いささかひどい人間だ」と書いた。「ラピーノは確かにサッカーの才能はある。しかし彼女の、特権意識にまみれた、軽薄で非愛国的な態度は、まさに先進国特権そのものだ」と。
マーク・ティーセン氏はタブロイド紙ニューヨーク・ポストに、ラピーノ選手はアメリカ代表として星条旗をユニフォームにつけながら、星条旗に抗議すべきではないと書いた。
「メガン・ラピーノは素晴らしいアスリートだが、同時に意味もなく利己的に対立を助長するアスリートでもある」と、同氏は結論している。
そして、代表チームが見事優勝した勝利の瞬間についてでさえ、一部の保守派はツイッターで、ラピーノの国旗の扱い方を批判した。試合後にピッチで星条旗とトロフィーを手にして喜んでいたラピーノとチームメイトが、一斉に両手を挙げる際に旗を足元に落としたのが、不敬だと言われたのだ。
「もっと愛して、憎むのを減らして」
代表チームでプレーするのがどういうことか聞かれたラピーノは、「私は自分がとりわけ、独特な形で、とても深く、アメリカ人らしい人間だと思う」と答えた。「この国が体現する理想、歌や国歌、この国の建国の基礎について話をするなら、私はきわめてアメリカ人だと思う」。
その上で、自分は「完璧ではない」と認めつつ、アメリカも完璧ではないと思うという内容の発言をした。
「ええ、この国は偉大な国で、本当に素晴らしい部分がたくさんあって、自分がこの国にいるのはとても幸運なことだと思う。多くの国ではできないようなことが、ここではできる。けれども、だからといって、もっと良い国になれないなんてことはない。もっと良くなろうと常に努力するべきで、もっと努力しなくてもいいという話にはならない」
ラピーノは10日にニューヨーク市役所前でスピーチをした際にも、同様の呼びかけをした。
市役所に近い地下鉄駅は、選手8人のポスターが汚された現場だった。ニューヨーク市警が「性的指向に批判的で侮蔑的な」コメントが、ラピーノたちのポスターに書きなぐられたのだ。
ニューヨークでは6月30日に、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の権利を掲げる世界最大の「プライド」行進が行われたばかりだ。そのニューヨークで、サッカー代表のポスターがLGBTを攻撃する形で損壊された事件について、市警はLGBTコミュニティーに対するヘイトクライムの可能性も視野に捜査を進めている。
前出のモリス教授は、「得点するだけしたらそのまま黙っていてほしいと、多くの人が彼女についてそう思っている」と話す。「誇り高く魅力的でレズビアンなアメリカの英雄。そういう存在について、考えたくないという人がたくさんいる」。
LGBTのアスリートをそのまま受け入れることについて、世界はここ数十年の間に大きく前進したが、まだまだ道半ばだと教授は言う。
ラピーノが有名になったことで、逆にLGBTへの反感も高まったものの、彼女がこうして注目されることは女性アスリートやLGBTコミュニティー全体にとって「素晴らしく期待にあふれた瞬間」だと受け止める人も大勢いる。
モリス教授は、見事な結果を出した頭のいいレズビアンが、世界的な舞台でアメリカを代表して勝ったことに、希望を見出すと話す。
「ホモフォビア(同性愛嫌悪)は才能と業績を無駄にすることだと、多くの人が気づき始めた」