暴力の加害と被害をどう語るか アトランタ連続銃撃

ホリー・ホンドリッチ、BBCニュース(ワシントン)

米ジョージア州アトランタでマッサージ店が連続銃撃された事件の発生から間もなく、地元警察は容疑者の動機について記者会見で説明しようとした。しかし、早い段階での動機に関する憶測は、危険なステレオタイプにもとづくものだったという、専門家の意見もある。

アトランタ郊外のマッサージ店3店が銃撃された翌朝、地元チェロキー郡の警察は記者会見を開いた。アジア系女性6人を含む8人が死亡した事件の実行犯として逮捕されたロバート・アーロン・ロング容疑者(21)が、犯行を自供したという内容だった。

動機について記者に質問された警察報道官のジェイ・ベイカー警部は、ロング容疑者が人種差別を否定していると述べた。

容疑者は自分がセックス依存症に苦しんでおり、その「誘惑を取り除こうとした」と自供していると、警部は話した。

「本人にとって昨日は本当にひどい1日で、それでこのような行動に出た」のだと、ベイカー警部は発言した。

事件直後のこの警部の発言に、大勢が怒った。

それからしばらくして、このベイカー警部が、新型コロナウイルスを「CHY-NA(中国)から輸入されたウイルス」と書かれたTシャツについて「このシャツが大好きだ。売り切れる前にみんなも買うといいよ」とソーシャルメディアに投稿していたことが発覚。ジョージア州保安官事務所は18日までに公式に謝罪し、ベイカー警部をこの事件の報道担当から外した。

多くの人にとって、事件後の警察会見はあまりに何度も繰り返されてきたあらすじを、そのまま踏襲したものだった。警察の説明を聞いてどう思ったか、アジア系アメリカ人研究の専門家3人に尋ねた。

「まだ初期段階だが、人種差別が動機ではないと(容疑者は)主張している」

事件の一報から間もなく、襲われたのはアジア系のチェーン店で、被害者のうち少なくとも6人がアジア系アメリカ人の女性だと明らかになった。

アジア系アメリカ人への憎悪犯罪(ヘイトクライム)がアメリカで急増していることと、被害者の人種が合わさり、マスコミでもオンラインでも、ひとつの説が主流になった。つまり、この発砲事件は人種差別が動機だったに違いないというものだ。

しかし、ベイカー警部は容疑者の動機を記者団に説明し、このように述べた。

「取り調べの中でその点について、はっきり質問したが、それは動機ではないようだった」

この回答と、それを警部が自信たっぷりに口にした様子は「印象的だった」と、インディアナ大学のエレン・ウー教授(歴史学・アジア系アメリカ人研究)は言う。

「全面否定だった」

犯行に人種が要素として関係していたかどうかを、容疑者自身に決めさせるのは、アメリカで暗黙のうちに使われる人種差別の表現を無視するものだと、歴史家のヴィヴィアン・トゥルオン博士は言う。

「容疑者が『自分は人種が理由であの女性たちを標的にした』と認めなかったとしても、アメリカではアジア系の女性が極端に性的な存在として扱われてきた根深い歴史がある。ふしだらだとか、あるいは相手を堕落させるとか、そのように位置づけられてきた経緯がある」と、ヴァッサー大学でアジア研究に関わるトゥルオン博士は説明する。

加えて、事件後の注目はもっぱら容疑者に注がれてきた。容疑者が何をどう考え、事件の経緯をどう捉えているかに、重きが置かれた。

「動機にばかり注目が集まるのに、うんざりしている」と、ウー教授は言う。「それよりむしろ、事件の影響、重大性を考え、8人の人が死んだのだと、事件の結果どうなったのかを見るべきだと思う」。

「誘惑を取り除こうとした」

警察によると、セックス依存症だとされている容疑者は、自らの性欲のはけぐちにしていたマッサージ店を襲ったのだという。

「そんなことをするべきではないので、その誘惑を取り除こうとした」のだと、ベイカー警部は容疑者の内申を説明した。

この「誘惑」という表現には、色々と含みがあると専門家たちは言う。

「『誘惑』というその単語はもう長いこと、私たちの周りに潜む悪を意味してきた」と、ウー教授は言う。

ウー博士もトゥルオン博士も、1875年制定のページ法に言及した。これは、アメリカへの移民を規制する最も初期の連邦法のひとつだ。

法律の文言は、中国や日本や「その他のあらゆる東洋の国」の女性が、売春を含む「わいせつでふしだらな目的」でアメリカに入国することを禁止した。

これが現実に適用されると実際には、アジア系女性の移民を一切阻止することになった。アジア出身の女性は誰もがひとくくりで、セックス・ワーカーや売春婦だとみなされたからだ。

アジアの女性が「アメリカにみだらな不道徳を持ち込む」という、人種差別的で性差別的なステレオタイプは、今なお残存していると、トゥルオン博士は説明する。

そして、容疑者は「誘惑」されていたのだと語ることで、犯行の責任を容疑者自身から遠ざけ、殺害された女性たちにかぶせる効果があるとも、博士は言う。

事件をこのような枠の中にはめ込むと、「問題は容疑者にあるのではなく」、「マッサージ店が存在すること、あるいは女性たちの行動こそが問題なのだという話になってしまう」と、博士は話す。

「重大なことだとは理解していた。ただ彼はもう我慢の限界に来ていて、どうしようもなくなって、本人にとって昨日は本当にひどい1日で、それでこのような行動に出た」

ロング容疑者がマッサージ店を次々と銃撃して回った時、彼は「切れて暴れていたのかもしれない」とベイカー警部は述べた。

容疑者はそれまで「本当にひどい1日」を送った挙句、「それでこのような行動に出た」結果、8人を殺害したのだという説明だった。

トゥロン博士はこの発言に衝撃を受けたと話す。8人の人を殺したのは、「ひどい1日」を送ったからだと説明されてしまうのかと。

今回の事件に対する警察の発表と、2015年に米スタンフォード大学で起きた性的暴行事件との共通性を、トゥルオン博士は指摘する。スタンフォード大での事件では、シャネル・ミラーさんに対する性的暴行罪で学生ブロック・ターナー元受刑者が有罪になったものの、禁錮6カ月という軽い量刑に米社会では強い反発が起きた。

この事件の公判では、被告の父親が「たった20分間の行為」について自分の息子が刑務所に入れられるのは不当だと主張した。

こうした暴力行為は、「白人男性が一時的に自制できなくなっただけのこと」と軽く扱われがちだと、博士は言う。

たいしたことではない、男性たちは潔白だ、ただほんの1日だけ大変な思いをしていたから、あんな真似をしてしまったのだ―――というのが、言外に込められている暗黙のメッセージなのだと。