【解説】 トランプ氏が払う代償は大きい イランと停戦合意で戦争脱する道は開いたが

ダークスーツ姿のトランプ氏がホワイトハウスの記者会見場でマイクを前に立ち、両手を前に突き出して口を開いている

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画像説明, トランプ米大統領
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アンソニー・ザーカー北米特派員

結局は冷静な頭脳が勝った。少なくとも現時点では。

アメリカ東部時間7日午後6時32分、ドナルド・トランプ大統領は自身のソーシャルメディアに、アメリカとイランが「決定的な」和平合意に向けて「かなり進展している」と投稿した。そして、交渉を前進させるために2週間の停戦に合意したとした

厳密には土壇場ではなかったが、それでも、トランプ氏が設定した米東部時間7日午後8時(日本時間8日午前9時)という期限にかなり迫っていた。同氏は、この時間までに合意に達しなければ、アメリカがイランのエネルギーと交通のインフラを大規模攻撃するとしていた。

合意はすべて、イランも敵対行為を停止し、ホルムズ海峡を商船の航行に全面開放することを条件としている。イラン政権はこれに応じるとしているが、この水路に対する「支配権」は依然として保持していると主張している。

今回の合意でトランプ氏は、危険な選択を迫られる状況から脱することができた。「今夜、一つの文明が丸ごと滅びる」とした自身の公約通りに事態をエスカレートさせるか、後退して自身の信頼性を損なうかのどちらかを、トランプ氏は選ばなくてはならないところだった。とはいえ、彼が得たのは一時的な猶予に過ぎないかもしれない。

アメリカとイランは今後2週間にわたって交渉に臨む。恒久的な解決策を見いだすための時間を得たことになる。この先の道のりは険しいことが予想される。それでも、市場の時間外取引では、原油価格が数日ぶりに1バレル100ドルを割り込み、アメリカの株価先物は急騰した。最悪の局面は脱したとの楽観的な見方が広がっているとみられる。

7日朝までは、こうした進展さえ確実とは到底言えない状況だった。トランプ氏は同朝、イラン文明は滅び、「二度と決して回復しない」と脅していたのだった。

米大統領が発した肝をつぶすようなこうした脅しが、イランへの圧力となって、同国がこれまで拒否し続けてきたような停戦合意に至ったのかは定かではない。明らかなのは、卑語を重ねた「トゥルース・ソーシャル」での同種の要求からわずか2日後に発せられた、トランプ氏の驚くほど扇動的な今回の言葉が、現代の米大統領たちが発したり、ほのめかしたりしてきたものとは、全く異なるものだということだ。

そして、たとえこの2週間の停戦が恒久的な平和につながったとしても、イランとの戦争――そしてトランプ氏の最近の言動――は、世界のアメリカを見る目を根本的に変えてしまった可能性がある。

かつて世界的な安定の担い手を自負していた国が、今や国際秩序の基盤を揺るがしている。国内政治において規範や伝統を打ち破ることを楽しんでいるように見える大統領が、今では世界の舞台でも同じことをしているのだ。

与党・共和党からも厳しい批判

野党・民主党は7日、トランプ氏の発言を即座に非難し、同氏の罷免を求める声も上がった。

ホアキン・カストロ連邦下院議員は「大統領は明らかに衰退し続けており、指導者として不適格だ」とXに投稿した。

連邦上院の民主党トップのチャック・シューマー院内総務は、イラン戦争終結に向けた議案の採決に参加しなかった共和党議員に対し、「このひどい事態が何であれ、その結果のすべてを背負うことになる」とした。

与党・共和党では多くの議員がトランプ氏を支持したものの、同氏が普段得ているほぼ全面的な支持とは程遠い状況だった。

下院軍事委員会の重鎮オースティン・スコット下院議員(ジョージア州)はBBCの取材に対し、文明が滅びるというトランプ氏の脅しを強く批判。

「大統領の発言は逆効果だ」、「私は同意しない」と述べた。

普段はトランプ氏の忠実な支持者であるロン・ジョンソン上院議員(ウィスコンシン州)も、トランプ氏が発言どおりに爆撃作戦を実行するなら「大きな過ち」になると話した。

ナサニエル・モラン下院議員(テキサス州)は、「『文明丸ごと』を滅ぼす」ことには賛同しないとソーシャルメディアに投稿。「これは私たちの姿ではない」、「そして、アメリカを長きにわたって導いてきた原則とも矛盾する」と続けた。

トランプ氏とたびたび対立してきたリサ・マコウスキー上院議員(アラスカ州)も、同様に率直な姿勢を表明。トランプ氏の脅しは「イランとの交渉で優位に立つための試みだとして片付けることはできない」と書いた。

動画説明, トランプ氏、「文明が丸ごと滅ぶ」とイランを脅す アメリカ人の反応は

一方、ホワイトハウスは、この圧力戦略が功を奏したと反論するだろう。そして、支持率の低下、与党内での批判の高まり、エネルギー価格の高騰に苦しむ経済などの問題に直面している大統領にとっては、紛争収束への道筋は、いかなるものであっても安堵(あんど)をもたらすだろう。

トランプ氏は、停戦を発表したトゥルース・ソーシャルへの投稿で、アメリカがすべての軍事目標を「達成し、それを上回った」と書いた。

イラン軍は著しく弱体化している。イスラム原理主義の政権は依然、権力を握っているが、最高指導者の多くは空爆で殺害された。

現時点では、アメリカが掲げた戦争目的の多くは依然として達成が疑わしい。イランの核開発計画の基盤をなす濃縮ウランがどうなるかは不明だ。イランはなお、イエメンの反政府勢力フーシ派など、湾岸地域の代理勢力に対し影響力を保っている。

それに、たとえイランがホルムズ海峡を完全に開放し、通行料などの支払いを条件としないとしても、地政学的な要衝である同海峡を支配するイランの能力は、今やかつてないほど明らかになっている。

イランのセイエド・アッバス・アラグチ外相は、トランプ氏の停戦発表を受けて出した声明で、イランが「防衛作戦」を停止し、「イラン軍との調整を通じて」ホルムズ海峡の安全な通行を許可すると表明した。また、イランが提案した10項目からなる計画の「大枠」を、アメリカが受け入れたと付け加えた。

その計画には、アメリカの湾岸地域からの軍撤退、イランに対する経済制裁の解除、戦争被害に対する賠償金の支払い、イランによるホルムズ海峡の支配権の維持が含まれている。これらはどれも、トランプ氏が実際に同意するとは想像し難い。このことは、今後2週間の交渉が険しいものになる可能性を示唆している。

しかし、今のところは、これはトランプ氏にとって部分的な政治的勝利といえる。劇的な脅しをかけ、望んだ結果を得た。だが、停戦は一時的な猶予に過ぎず、恒久的な解決ではない。

トランプ氏の発言と行動、そしてこの戦争がもたらす長期的な代償は、まだ完全に評価されていない。