米国務長官が中東歴訪、地域の各国は紛争拡大を警戒 イラン外相は介入を警告

パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの軍事衝突をめぐり、アメリカとイランの中東外交が活発化している。アントニー・ブリンケン米国務長官はイスラエルを訪れた後、エジプトやサウジアラビアなど中東各国を歴訪。イスラエル支持を強調しつつ、ガザの民間人の被害回避が必要だと15日に述べた。他方でイランのホセイン・アミル・アブドラヒアン外相も周辺国を歴訪し、イラン軍の介入の可能性を含め、イスラエルにガザ攻撃をやめるよう警告した。

イスラエル政府は15日、ハマスの攻撃による死者は1400人以上に上ると発表した。これに対して、ガザ地区の保健当局は、イスラエルが続けている空襲で2450人が死亡したと発表した。

16日には一部報道で、ガザ南部について一時的な停戦合意がまとまったとの情報が出たものの、イスラエル首相府はただぢにこれを否定した。

ガザ南部への給水再開へ=イスラエル

イスラエルのイスラエル・カッツ・エネルギー相は15日、ガザ地区南部への給水を部分的に再開することで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とアメリカのジョー・バイデン大統領が合意したと明らかにした。

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在イスラエルのアメリカ大使館は16日早朝、未確認の報道をもとに、ガザとエジプトを結ぶラファ検問所の通行が午前9時から始まると明らかにした。「状況は流動的で、旅行者がいつまで検問所を通過できるのかは不明」だとしたうえで、「安全だと判断した場合は、ラファ検問所に近づくことも」選択肢だとした。

パレスチナ系アメリカ人のラファ通過が認められるのではとの観測から、大勢が検問所の周辺に集まっている。米国務省によると、ガザ地区には約600人のパレスチナ系アメリカ人がいる。

ハマスによる7日朝の攻撃を受けて、イスラエルはガザ地区を完全封鎖した。これでガザ各地で水や食料や燃料が枯渇したうえ、ガザ北部の住民約110万人に対して、ガザ北部へ避難するよう通告。一気に人が押し寄せた南部ハンユニスなどでは、必需品の不足が深刻な状況になっている。

こうした中でアメリカのブリンケン国務長官は、中東を歴訪。イスラエルのほか、ヨルダン、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、エジプトの6カ国を訪れた。

15日にエジプトの空港で報道陣を前にブリンケン氏は、今回の歴訪の目的は何より、諸国が「現在の危機をどう見ているか、傾聴し」、懸念について「どう協力して対応していけるか」を検討することだったと説明した。

そのうえでブリンケン長官は、アメリカはイスラエルを支えるとあらためて強調する一方、現在の紛争の拡大を阻止したいのだと述べた。

「イスラエルは自衛して、このような事態の再発を防ぐ権利、むしろその義務がある」と長官は述べつつ、「イスラエルがどうやってそうするのかが大事だ」として、民間人の犠牲を避けることの重要性を強調。

「ハマスによる残虐行為のせいで、民間人が苦しむことになってはならない」、「我々は現在、地域の諸国や国連、そしてイスラエルと積極的にかかわり、住民が危険から逃れられるよう、そして必要な支援を受けられるよう、食料や水や医薬品が届くよう、最善を尽くしている」と、ブリンケン長官は述べた。

イスラエル軍は14日、陸海空からのガザ地区への攻撃を計画しているとの声明を発表したが、実施時期などの詳細は明らかにしていない。

イラン、紛争拡大を警告

イスラエルの北に位置するレバノンからは、イランが支援する武装勢力ヒズボラが国境を越えてイスラエルを砲撃し、イスラエル軍がこれに反撃している。現地のパレスチナ系武装勢力も、これに参加している。

国連によると、レバノン南部ナクーラに駐留する平和維持部隊・国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の本部が、ロケット弾で攻撃された。負傷者はなかったものの、民間人や国連職員への攻撃は戦争犯罪に相当する可能性があると、国連は警告している。

イランはイスラエルに対して、ガザの紛争が悪化すれば、イラン軍が介入する危険が高まると警告を続けている。

イランのアブドラヒアン外相はカタールの衛星テレビ局アルジャジーラに対して、「(イスラエルが)ガザでの残虐行為を停止しないなら、イランはただ傍観し続けるわけにはいかない」と述べた。

「戦争の規模が拡大するならば、アメリカは相当な危害を受けることになる」とも外相は述べた。

イラン外務省によると、外相はさらにカタールのタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長との会談でも、イスラエルがガザに地上部隊を侵攻させれば、紛争が中東全域に拡大する恐れがあると警告した。

「その場合、状況が制御できて紛争は拡大しないなど、誰も保証できない」と、アブドラヒアン外相は述べたという。

外相はさらに、現在の危機の拡大を防ぎたいならば、イスラエルが「ガザの市民や民間人」に対して「現在行っている野蛮な攻撃」を阻止しなくてはならないと強調した。

さらに、アメリカが全面的にイスラエルを支援していることも外相は非難した。

アブドラヒアン外相は週末にかけて、イラク、レバノン、シリア、カタールを歴訪。14日には、ハマスの指導者イスマイル・ハニヤ氏とカタールの首都ドーハで会談した。ハニヤ氏はカタールを拠点としている。

米政府もイランの介入を警告

アメリカ政府も、ガザでの状況悪化がイランの介入につながる危険があると、警告している。

ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は米CBSニュースに対して、イスラエルがレバノンと接する北の国境で、第二の戦線が作られる危険性を指摘した。

「イランが直接関与しようとする可能性を、排除できない。あらゆる事態に備えておかなくてはならない」と、サリヴァン氏は述べた。

米国務省によると、イスラエルとガザの紛争でこれまでにアメリカ人30人が死亡し、13人が行方不明という。

バイデン米大統領は、15日放送の米CBS番組「60ミニッツ」のインタビューで、イランとヒズボラに対し、紛争に介入して悪化させてはならないと警告した。

12日にホワイトハウスで取材に応じたバイデン大統領は、ハマスは完全に排除されなくてはならず、パレスチナ国家樹立への道も必要だと強調した。

スコット・ペリー記者に、「現時点でイスラエルによるガザ占領を支持するか」と尋ねられると、大統領は「それは大きな間違いだと思う」と答えた。「ハマスとハマスの過激勢力は、すべてのパレスチナ人を代表しているわけではない。そして、イスラエルがまたガザを占領するのは、間違いだと思う」としたうえで、ハマスの排除は「必要な要件」だと述べた。

ハマスに拉致されたアメリカ人については、米政府が居場所の特定と「解放」に向けて全力を尽くしていると説明。「詳細に触れるつもりはないが、我々は猛然と取り組んでいる」と話した。

「何より大事なのは、この残虐な事態を終わらせ、責任者に責任をとらせることだ」とも、大統領は述べた。

欧州連合(EU)も15日、「ハマスによる残虐行為と無差別テロ攻撃を最大限に非難する」と声明を発し、「このような暴力的で無差別な攻撃を前に」、イスラエルには「人道法と国際法の範囲内で自衛する」権利があると述べた。

EU理事会のこの声明はさらに、すべての人質の解放と、ガザの民間人保護のための措置を求めている。

中東諸国はイスラエル批判

これに対して中東諸国では、イスラエルの行為は自衛権の範囲を超えているという批判が相次いでいる。

エジプトのアブドゥル・ファッターハ・アル・シーシ大統領は15日、ハマスの攻撃に対するイスラエルの反撃は「自衛権の範囲を超えて、ガザに住む230万人に対する集団的報復になっている」と批判した。カイロを訪れたブリンケン米国務長官との会談時に、報道陣を前に話した。

前日にはカタールとサウジアラビア両国の外相も、イスラエルがガザ北部の住民を強制避難させていることについて、「まったく容認できない」と批判した。

ヨルダンのアイマン・サファディ外相も15日、BBCに対して、ガザのパレスチナ人をエジプトへ移動させることは、ヨルダンとして「まったく受け入れられない」ことだと話した。

サファディ外相は、「ガザ住民を散り散りに移動させることは、問題の解決にならない」として、ガザ住民の安全をガザ地区内で保証するよう求めた。

外相は、すべての人が平和に、尊厳をもって生きる権利を、すべての人が支持しなくてはならないと指摘。世界は、イスラエルとパレスチナ双方の民間人が殺害されたことを、非難する必要があると述べた。

「なぜウクライナに食料と水を提供しないことは戦争犯罪なのに、ガザの場合は同じではないのか?」と、サファディ外相は尋ねた。

ヨルダンはエジプトやカタールなど他のアラブ諸国と協力し、人質の解放について水面下で働きかけているという。

「人質が解放され、紛争の悪化は止まり、誰もが前に進める段階にたどりつけると、我々は希望を抱いている」と外相は述べる一方、イスラエルとガザの紛争が中東全域に拡大する危険について警告した。

アメリカは人道状況を注視=元外交官

バイデン大統領やブリンケン長官の発言の論調がここ数日で変化しており、米政府がガザ地区での人道状況を、以前より注視するようになっている様子がうかがえると、アメリカの元外交官は話す。

アメリカの元イエメン大使で、元エルサレム副総領事だったフェラルド・ファイヤースタイン氏はBBCに対して、「アメリカ政府の発言、バイデン氏の発言やブリンケン氏の発言に、機微が生じ始めている。人道状況とそれに対する懸念が、強調されるようになっている。これは、中東諸国から聞こえてくる懸念を反映したものだと思う」と話した。

ファイヤースタイン氏はさらに、イスラエルが地上部隊をガザに進めるのは不可避の状況だが、イスラエルにあまり時間の余裕がないことも明らかになっていると指摘。

「この紛争を終わらせなくてはならないと、その必要性に国際社会は集中するようになる。ハマス破壊という目的は、もしかすると達成不可能かもしれない」

さらに、ヒズボラやイランによる介入の懸念が高まっており、その抑止のためにアメリカは2隻目の空母を派遣しているのだと、元大使は話した。

(英語記事 Israel-Gaza war: live page