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ロシア人が占領地マリウポリの家を購入する動き 政府が促進
アダム・ロビンソン、アーワン・リヴォールト、オルガ・ロビンソン、BBCヴェリファイ(検証チーム)
ロシア軍が1年前に破壊、占領したウクライナ南東部の都市マリウポリで、ロシア人が家を購入する動きがみられている。
ロシア軍によって2カ月にわたって包囲されたマリウポリは、砲撃によって建物の9割近くが破壊または損壊の被害を受けた。国連は、民間人数千人が死亡し、43万人いた市民のうち約35万人が市外に避難したとしている。
ロシアはマリウポリを占領後、住民投票を実施し、併合を宣言。ただ、この住民投票は見せかけだと広く非難されている。
そしていま、占領当局による同市の「ロシア化」が進行している。道路標識はウクライナ語からロシア語に変わり、学校はロシアのカリキュラムを導入、残った市民はロシアのパスポート取得が求められている。
さらに、ロシアが不動産開発と移住を進め、同市の構造を変えてしまおうとしている状況が、衛星写真を利用したBBCヴェリファイ(検証チーム)の分析から浮かび上がった。また、戦前に住んでいた人たちからは、将来が不安だという声を聞いている。
海の見える家
ロシアではここ数カ月、多くの人が同国最大級のSNS「フコンタクテ」で、マリウポリの不動産物件を探している。
北極圏の都市ムルマンスクで暮らすウラジーミルさんは、「物件を見つけた。マリウポリは美しい都市になる」とBBCの取材に話した。これまで住んでいたアパートはすでに売却済みで、近く家族全員でマリウポリに引っ越すという。ウラジーミルさんはBBCが取材した他の人々と同様、フルネームでの掲載は拒否した。
「大事なのは海に面していることだ」と言い、価格が安いので取得に踏み切ったと付け加えた。
ロシア政府の統制下にある国営テレビは、マリウポリの復興が「記録的な」ペースで進んでおり、人々の暮らしも正常に戻りつつあると繰り返している。
国営テレビ「ロシア1」は、「廃墟に代わって新しいアパート、保育園、学校ができており、すべてが最新技術によって修復されている」と伝えている。
BBCが分析した衛星写真では、確かにこの1年の間に、いくつかの高層団地がマリウポリ市内に出現している。郊外が多い。
また、市の北西端のネフスキー地区では、広大な敷地に高層アパートが新たに建設されている。下の衛星写真からは、同地区の変化をがわかる(中央の白丸を左右にドラッグすると変化を確認できる。左側は2022年6月2日時点、右側は2023年8月2日時点。出典はプラネットラブスPBC)
しかし衛星画像からは、市内の広い地域で、壊滅的な被害がそのままになっていることもわかる。とくに市中心部の一部では、今もほとんどの建物に屋根がない。
同市に残り続けているアレクサンデルさん(仮名)は、ロシアのテレビが流しているのは「ばかげた話」だと一蹴。被害を受けた住宅のうち、修復されたのは1割程度しかないと言う。
新たなアパートが建てられる一方で、多くのアパートが取り壊されている。修復不可能と判断されたものだと言われている。
下の衛星写真からは、被害が深刻だった市東部の地区全域で、建物が取り壊されたことがわかる(左側は2022年5月6日時点、右側は2023年4月27日時点。出典はプラネットラブスPBC)。
ただ、アレクサンデルさんによれば、その後はほとんど何も置かれていないという。
「アパート群を壊し、地面に穴を開けただけだ。基礎工事も何も行われていない」
入居できない元住民ら
家を破壊された市民たちはどうしているのか。
公式には、それらの人々は新たに建設されるアパートへの入居を申し込める。ロシアの国営テレビや親ロシア派のユーチューブ・チャンネルも、新しい家に引っ越していく幸せそうな家族を映し出している。
しかし実際には、手続きに非常に時間がかかり、さまざまな制限もあるため、新たな建物は半分しか入居者で埋まっていないと、多くの住民は話している。
前出のアレクサンデルさんは、「明らかに親ロシア的な考えを持つ人々」に対して「非常に控えめ、かつ、非常に選別的に」アパートが提供されていると、自身の見方をBBCに述べた。
住民らがオンラインで言い合っているのは、破壊されたアパート以外に不動産(土地、アパート、遠隔地の別荘)を持っていると、入居申請がはじかれる、という説だ。
アンナさん(仮名)は、40キロメートル離れた村に8平方メートルの小屋を持っていることを理由に代替アパートへの入居を拒まれたと、親ロシア派の地元テレビ局「マリウポリ24」に話した。
市中心部の西のナヒモフ通りにあったアンナさんのアパートは、「ドム・ナ・ナヒモヴァ」という名の新たなアパート群に建て替え中だ。
ロシアの民間建設会社が建設しており、ウェブサイトからは高級物件の開発のように思える。一般の不動産市場で売買される予定だという。
「現在の私たちは、住宅ローンを組んで家を買うことなどできない」とアンナさんはマリウポリ24に話した。「そんなのは無理だ」。
建設会社側はBBCの取材に対し、ほとんどのアパートはすでに売約済みだと説明。価格については、35平方メートルの部屋で355万ルーブル(約530万円)だとした。
「夢をあきらめていない」
BBCが取材したロシア人たちは、マリウポリ破壊の規模や、元々の住民たちが経験している問題は気にならないようだ。
「街を破壊したのはもちろんウクライナだ」とウラジーミルさんは言う。ウクライナに侵攻し、大規模破壊を引き起こしたのはロシアだという事実は無視する。
「ロシアはこの街を修復する。(中略)そして、ウクライナの一部だったころより良くするだろう」
ロシア西部タタールスタン共和国出身で、数人の子どもの母親のオクサナさんは、「海のそばで暮らすのをずっと夢みていた」と言う。しかしいま、ウクライナ人が戻ってくるのが心配だと話す。ウクライナの国防次官は、反転攻勢でマリウポリへの南下を狙っていると表明している。
米イェール大学のオナ・ハサウェイ教授(法学)は、ウクライナが同市を奪還すれば、占領中に与えられた財産権は無効となる可能性が高いとBBCに話した。
それでも、オクサナさんのような人は行動を止めない。「私はまだ夢をあきらめていない」、「180平方メートル以上の家を持つのが目標だ」。
グラフィックデザイン:フィリパ・シルヴェリオ