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米軍、フィリピンで基地使用権を拡大 中国を取り囲む同盟の目的は?
ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(マニラ)
アメリカは3日、フィリピンで新たに4カ所の軍事基地の使用権を獲得した。中国の南シナ海や台湾周辺での動きをモニタリングできる特等席とも言える場所だ。
この協定により、アメリカ政府は北は韓国と日本、南はオーストラリアに広がる同盟の弧を埋めることができる。
フィリピンはこれまで、台湾と南シナ海という巨大火薬庫になり得る2カ所の両方と国境を接する、「ミッシングリンク」だった。
米軍は30年以上前に、旧植民地フィリピンから撤退している。今回の合意はその決定を一部覆すもので、決して小さな出来事ではない。
米戦略国際問題研究所の東南アジアプログラム長を務めるグレゴリー・B・ポーリング氏は、「南シナ海で想定されるあらゆる有事が、フィリピンへのアクセスを必要としている」と語る。
「アメリカは恒常的な基地が欲しいのではない。基地ではなく、場所が重要だ」
アメリカはすでに、防衛協力強化協定(EDCA)に基づき、5カ所の基地を限定的に使用できる。米政府によると、使える拠点と使用権の拡大は「フィリピンの人道的災害や気候変動での災害をより迅速に支援し、その他の共通の課題に対応する」もので、この地域における中国への対抗を示唆したものとみられる。
ロイド・オースティン米国防長官はこの日、フィリピンのフェルディナンド・「ボンボン」・マルコス・ジュニア大統領と面会している。
アメリカはどの基地を新たに使うのか場所を明らかにしていないが、そのうち3つはフィリピンの北端のルソン島にある可能性がある。これは中国を除けば、台湾に近い唯一の大きな陸地だ。
中国はこの協定を非難し、「アメリカの行動は地域の緊張をエスカレートさせ、地域の平和と安定を損なうものだ」と述べている。
在米中国大使館は、「アメリカは、その自己利益とゼロサムゲームの精神から、この地域における軍事態勢を強化し続けている」と述べた。
中国の変化
アメリカはこのところ、大規模な部隊が駐留できる基地よりも、必要時に補給や偵察を伴う「軽くて柔軟な」作戦の拠点にできる場所へのアクセスを欲している。
言い換えれば、フィリピンにアメリカ兵1万5000人が駐留し、クラーク空軍基地とスービック海軍基地というアジア最大の米軍基地の二つがあった1980年代に戻ったわけではないのだ。
フィリピン政府は1991年に「待った」をかけた。フィリピン国民は当時、憎きフェルディナンド・マルコス独裁政権を倒したばかりで、植民地の旧支配者を帰国させることは、民主主義と独立をより強固なものにする行為だった。
ヴェトナム戦争はとうの昔に終わり、冷戦も終息に向かい、中国はまだ軍事的に弱かった。1992年には、アメリカ軍は帰国した。少なくとも、その大半は。
それから30数年がたち、大統領府にはマルコス氏の息子が舞い戻ってきた。
それより何よりも、中国はもはや軍事的な弱小国ではない。このことが重要だ。そして中国は今や、フィリピンの玄関ドアをノックしている。フィリピン政府は、中国が南シナ海の地図を書き変えていくのを、介入しようもないまま、愕然(がくぜん)と眺めていた。フィリピンはこの海域を、西フィリピン海と呼ぼうとしている。2014年以降、中国は10カ所以上の人工島を作っている。そのうちの一つであるミスチーフ礁は、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある。
フィリピン大学のハーマン・クラフト教授(政治学)は、それまではフィリピンと中国の関係に大きな問題はなかったと話す。
「我々は南シナ海において『お互い様』の共存共栄状態にあった。しかし2012年に中国がスカボロー礁を実効支配しようとした。2014年には人工島を造り始めた。中国による領土収奪が、関係を変えてしまった」
ホセ・キュイジア・ジュニア元駐米フィリピン大使は、「フィリピンには、中国からの脅威に対抗する手段はほとんどない」と話す。
元大使によると、中国は南シナ海上の拠点を軍事化しないという約束を繰り返し破っている。
「中国は各地の拠点を軍事化し、我々の領土をますます脅かしている。これを止める力を持っているのはアメリカだけだ。フィリピン単独ではできない」
米軍による暴力の歴史
しかし今回は、オロンガポやアンヘレスといった街の歓楽街に、何千人もの米海兵隊員や空軍兵が押し寄せることはないだろう。
フィリピンで米軍が起こした暴力や虐待の歴史は、いまだに繊細な課題だ。フィリピン人の母を持つ推定1万5000人の子供たちが、アメリカ人の父親に置き去りにされた。
左翼グループの連合「新愛国連盟」のレナト・レイエス書記長は、「両国間には長い不平等の歴史がある」と話した。
「フィリピン人は社会的なコストを負わされてきた。レイプや児童虐待、有害廃棄物の歴史だ」
米軍のフィリピン帰還は、左派勢力から強い反発を受けた。
以前よりも派遣人数は少ないものの、アメリカは新たな拠点の使用権を要請している。その一部は南シナ海を、あるいは台湾を向いている。非公式の報告によると、ルソン島のカガヤンやサンバレス、イサベラ、そしてパラワン島がその候補だという。
カガヤンは台湾に面している。サンバレスはスカボロー礁に、パラワン島はスプラトリー諸島(南沙諸島)に向いている。新たな米軍施設は既存のフィリピン基地内に置かれる予定で、少人数のローテーションを組んで駐留するという。
米戦略国際問題研究所のポーリング氏は、米軍の目的は中国の南シナ海での拡大を阻止することに加え、中国の台湾周辺での軍事的動向を監視する場所を得ることだと指摘する。
「フィリピンは、この同盟以外に中国を抑止する術を持たない」とポリング氏は話す。
「インドからは巡航ミサイル『ブラモス』を購入している。アメリカは巡航ミサイル『トマホーク』を配備するだろう。この2つで中国の艦船を抑えられる」
台湾をめぐる摩擦への懸念が高まる中、フィリピンは米軍の作戦に対して「後方アクセスエリア」や、難民を避難させる場所を提供する可能性もある。
「台湾には15万~20万人のフィリピン人が住んでいるのに、これは忘れられがちだ」と、ポリング氏は話した。
一方で、フィリピンは中国の台頭に反対・対抗するために、アメリカとの全面的な同盟関係に入ろうとしているわけではないと、クラフト教授は警告する。
「フィリピンはオーストラリアや日本のように、南シナ海や東シナ海における中国の利益に直接対抗しているわけではない。マルコス大統領はアメリカと良い関係を築きたい一方で、経済的利益のために中国とも良い関係を欲している」
中国政府も、米比間の新しい基地協定によって、隣国との関係が混乱するのは許さないという姿勢を示している。
中国国営紙「環球時報」は、オースティン米国防長官がマニラに到着するのに合わせた社説で、アメリカが「フィリピンにわなを仕掛けた」、「中国との対立の最前線にフィリピンを追い込もうとしている」と非難した。
「新愛国連盟」のレイエス書記長は、「我々はまた板挟みになった」と話した。レイエス氏は、中国もアメリカと同じくらい資本主義・帝国主義の大国だと考えている。
「フィリピン人はまだ植民地時代の意識を持っている。アメリカを頼れる兄貴分だと思っているのだ」