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アジアで食料価格が高騰 シンガポールの低所得層を直撃
大井真理子、アジアビジネス担当編集委員
シンガポールの名物料理として知られるチキンライス。鶏肉と、そのゆで汁で炊いたご飯のセットは、屋台が集まるホーカーセンターで最も手頃な価格で食べられる料理の一つだ。
しかしコロナ禍で食料価格が高騰し、その値段が上がっている。
チキンライス店舗を6つ持つダニエル・タン氏は、ずっと350円ほどで小サイズを提供してきた。
だが2020年初頭から現在までに鶏肉は50%値上がりし、野菜の値段は2倍以上になったと言う。
「当初は、半年か長くて1年くらいのパンデミックだと思っていたので、コスト増分を自分のところで吸収してきた」
しかし電気代が高騰し、一つの店舗で10万円を超える請求書を受け取った時、値上げを決断したと言う。
「そうしないとスタッフへの支払いが滞ってしまう。もしくは店舗を閉めなくてはいけなくなってしまう」
コロナ禍で外国人の入国が規制され人材は不足。新しいルールの導入もあって、従業員の給料は引き上げられている。
立派な家の家庭でも
国連食糧農業機関(FAO)は、2021年の世界の食料価格指数が前年比で28.1%上昇し、10年ぶりの高水準になったと今年1月に発表。
アジア開発銀行(ADB)のアブドゥル・アビアド氏は、「2011年は食糧危機が懸念されていた時だ」と言う。
今回の価格高騰は、食料や農薬生産にも深くかかわっている原油価格の上昇とサプライチェーンの問題が要因と言われている。
その結果、経済的に豊かなシンガポールでも、無料で食料を提供するフードバンクなどの福祉団体に助けを求める家族が増えた。
「家に食べ物を届けたときに気が付いたのは、私たちが想像する低所得者だけではなく、大きめの家に住む共働きの家族も助けを求めていることだ」と、シンガポールフードバンクの設立者ニコル・ング氏は言う。
「プラズマテレビがあるような家でも、両親がパートタイムの仕事だった場合はコロナ禍で仕事がなくなり、家計が苦しくなっている。支援が必要なのは以前は人口の10%くらいだったが、今は20%くらいに増えた」
生活を圧迫している値上がりは、食品だけの話ではない。コロナ禍で衛生用品の需要が増えたが、ヤシ油高騰でその値段も上がっている。
流通業も行っているング氏は、今回のインフレは今までと違うと懸念する。
「以前は、一年のどこかで、もしくは数年に一度、値段が上がることがあったが、今回のインフレは持続しそうで不安だ。いつ終わるのか誰にも予想できない」
アジアの他の国では影響がもっと深刻だ。FAOによると、新型コロナの影響で食料不足に苦しむ人々が急増。その結果、フードバンクの助けを求める人も倍増した。
欧米よりは穏やかだが
それでもインフレ率が数十年ぶりの高水準に跳ね上がっている北米やヨーロッパと比較すると、アジアの物価上昇は穏やかだ。
トウモロコシが44%、小麦が31%上昇する中で、コメの値段が4%下がったことが要因の一つだと、ADBのアビアド氏は言う。
また生産した農産物を輸出せずに国内マーケット用に備蓄するなど、アジア各国の政府は食料供給の安定に努めてきた。
たとえば、フィリピンは米の輸入規制を緩め、中国は穀物を買いだめてきた。米農務省の推計データによると、2022年前半にはトウモロコシ、コメ、小麦の世界在庫量の過半数を中国が占める見通しだ。その結果、中国では2021年、食料価格が世界で唯一下落した。
しかし世界の人口の20%を抱える中国が、世界で供給されるトウモロコシや米、麦などの過半を買いだめていることについては、穀物の高騰や貧困国の飢餓拡大の一因になっているとの批判もある。
多くが値上げを予定
食料の9割を輸入に頼るシンガポールだが、最大規模のスーパーマーケットチェーンNTUC FairPriceは輸入元を100か国以上に増やすなどし、現時点では値上げをしていない。
米、油、化粧や掃除用品など、2000以上の独自ブランドを持ち、競合他社より10%以上安く売っていると言う。
小規模スーパーマーケットも経営する、チキンライス店長のタン氏は、FairPriceは中央銀行のような役目を持っており、彼らが値上げをしないと、誰も値段を上げられないと言う。
「今回のような危機の時にインフレが起きづらいという利点もある反面、最終的には政府と近い関係の企業しか生き延びられないという欠点もある」
今年も食料価格が下がる気配はなく、多くの食品メーカーが値上げを予定している。
FAOのデイヴィッド・ドー氏は、家計の消費支出に占める食費の割合が高い低所得者への影響はさらに増えると言う。
今回取材したエコノミストたちは、アジア諸国は2桁のインフレからは免れると予測している。
しかし、現場を知るタン氏やング氏は、たとえ穏やかなインフレでもその影響を大きく感じており、いつまで続くのだろうかと不安を募らせている。