イランの病院に目や頭撃たれた死傷者多数と医療関係者、 反体制デモ続く

通貨下落を発端としたイラン各地の反体制デモは10日にも各地で続き、100以上の都市や町へと広がり、近年で最大規模のものになっている。多数の抗議者が殺傷されている様子で、さらに多くが拘束されている。イラン国内の医療機関の医師たちは9日夜、BBCに対して、眼科病院をはじめ病院が死傷者であふれていると話した。抗議ではイスラム共和国の終わりを求める声が上がる一方、イランの治安当局はそろって抗議参加者に強い警告を発している。

イラン発のさまざまな映像には、首都テヘランで9日夜に抗議者たちが大勢で通りに出て車両を燃やすなどしている様子や、首都近郊カラジで政府庁舎が放火された様子などが映っている。

イラン軍は10日、治安当局と共に「国益と国の戦略インフラおよび公共の資産を守る」活動に参加すると表明した。

アメリカは9日、イランが抗議者を殺害した場合には軍事的に対応すると、あらためて警告した。ドナルド・トランプ米大統領は10日にソーシャルメディアで、「イランは自由を目にしている。もしかすると、かつてない形で。アメリカは助ける用意がある!!!」と書いた(太字は原文大文字)。

イランは同日、国内の平和的な抗議をアメリカが「暴力的な反体制行動および広範な破壊行為」に変容させたと非難した。

(この記事には、殺傷の被害描写が含まれます)

イラン国内にいる医師の一人は9日夜、衛星インターネット「スターリンク」を通じてBBCに連絡をとり、首都テヘランで眼科治療の拠点となっているファラビ病院が危機対応態勢に入ったと話した。救急外来がひっ迫し、緊急性のない入院と手術は中止され、救急対応のためスタッフが呼び出されたという。

テヘランにある病院の医師は、「若者が頭や心臓を直撃されていた」と話した。死傷者のほとんどは20〜25歳の若者だったという。

医療従事者2人はBBCに、銃弾やペレット弾による負傷を手当てしたと話した。

中部カシャンの医師はBBCに対し、負傷した抗議者の多くが目を撃たれていたと話した。この医師によると、カシャン各地の病院にいるほかの医師たちも、9日夜の騒乱の間に多くの負傷者を受け入れたと話しているという。

BBCペルシア語は、北西部ラシュトのプルシナ病院に9日夜、70人の遺体が運び込まれたことを確認した。同病院の遺体安置所は満杯だったため、遺体は外に運び出された。病院関係者によると、当局は埋葬のために遺体を引き渡す条件として、遺族に70億リアル(約110万円)を要求したという。

BBCはこのほか、南西部シラーズにある病院の医療スタッフによる8日の動画および音声メッセージを入手した。この医療従事者は、多くの負傷者が頭部や目に銃創を負っていると話した。多数の負傷者が運び込まれており、対応できる外科医が不足しているという。

テヘランの病院の医師はBBCに、死傷者の数が非常に多かったと言い、スタッフが心肺蘇生をする時間もなかったと話した。

「目を撃たれ、弾丸が頭部の後ろから貫通していた人を見た」、「病院に到着する前に亡くなっていて、助けられなかった」とも医師は話した。

テヘランの医療スタッフは、「およそ38人が亡くなった。多くは救急ベッドにたどりついた時点で死亡していた(中略)若者の頭部への直接の銃撃、そして心臓への銃撃もあった。病院にたどり着けなかった人も多い」と話した。

「あまりに人数が多くて、遺体安置所には十分なスペースがなく、遺体は互いに重ねて置かれていた。遺体安置所が満杯になった後は、祈祷(きとう)室に重ねて置かれた」

イラン警察は、9日夜にテヘランで死者は出ていないものの、26棟の建物が放火されて大きな被害が出たとしている。

BBCペルシア語は、子ども6人を含む26人の遺族と話し、身元を確認している。

イランでは8日夜以来、インターネットがほぼ全面的に遮断されている。BBCなどほとんどの外国報道機関は、イラン国内での取材活動を禁じられており、情勢について情報を得て確認する作業が難しくなっている。

インターネット監視団体のクラウドフレアおよびネットブロックスなどによると、イランでは8日夜からほぼ完全にインターネットが遮断され、9日にわずかに通信が戻った。このため、イラン発の情報が大幅に減っていることになる。

イラン人権(IHRNGO)のマフムード・アミリ=モガッダム代表は声明で、「政府がデモ参加者に殺傷力を行使する範囲が拡大している。インターネット遮断後に暴力が激化し、抗議者の殺害が大々的に行われるリスクは極めて深刻だ」と述べていた。

ノーベル平和賞受賞者のシリン・エバディ氏も、インターネット遮断中に「虐殺」が起きる可能性があると警告していた。

イラン政府は

イラン政府は10日、国連安全保障理事会に対し、自国内の抗議活動をアメリカが「暴力的な反体制行動および広範な破壊行為」に変容させたと非難した。

前日9日にはイランの最高指導者アリ・ハメネイ師が、全国で拡大する反体制デモの参加者について、「騒ぎを起こし」て「アメリカの大統領を喜ばせようとしている」「暴徒の集団」などと非難した。通貨下落を発端としたイラン各地の反体制デモは13日目となり、近年で最大規模へと拡大した。複数の人権団体によると、少なくともデモ参加者48人と治安要員14人が殺害されている。イランではインターネットが遮断されている。

ハメネイ師はテレビ演説で、トランプ米大統領が「あなたたちを支持する」とデモ隊に向けて発言したため、群衆が建物を破壊しているのだと非難した。

86歳になるハメネイ師は、「イスラム共和国は、何十万もの名誉ある人々の血によって権力を握った。これを否定する者に対して、共和国が後退することはないと、誰もが知るべきだ」と強調した。

イランの治安当局は9日、抗議参加者に警告を発した。国内の治安を担当するイラン国家安全保障会議は、デモ参加者を「武装した破壊者」「平和と治安を乱す者」と呼んだ。「軍の施設、治安機関、政府施設へのどのような攻撃」についても、「断固とした必要な法的措置を取る」と述べた。

別組織のイラン国家安全保障最高評議会(SNSC)はすでに、デモに対して「一切の寛容」も示さないと表明している。

さらに、イスラム革命防衛隊(IRGC)の情報部門は、「テロ行為」と呼ぶものを容認しないと述べ、「敵の計画を完全に打破するまで」作戦を継続すると主張した。

アメリカ、欧州、国連は

アメリカのトランプ大統領は10日夜、ソーシャルメディアで、「イランは自由を目にしている。もしかすると、かつてない形で。アメリカは助ける用意がある!!!」と書いた(太字は原文大文字)。

アメリカ政府は9日、イラン当局が抗議参加者を殺害するような事態になれば、アメリカは軍事力で対応するとあらためて警告した。

トランプ氏は9日、イランは「大変なことになっている」、「ほんの数週間前までは実際には無理だと思われていた都市を、国民が抑えるようになっているようだ」とホワイトハウスで記者団に述べた。さらに、もしもイラン当局がデモ参加者を殺害し始めるならアメリカは「(イランに)苦痛を与える場所を強力にたたく」と言う一方、アメリカの関与とは地上部隊派遣のことではないと話した。

こうした状況で英独仏の指導者は共同声明を出し、イラン治安部隊による暴力の報告を「深く懸念しており、デモ参加者の殺害を強く非難する」と述べた。

エマニュエル・マクロン仏大統領、キア・スターマー英首相、フリードリヒ・メルツ独首相は、「イラン当局には自国民を守る責任があり、自国民が報復の恐れなく表現の自由を行使し、平和的に集会することを認めなくてはならない」と述べた。

国連のステファン・デュジャリック報道官は、イランで大勢が命を落としているという報告を国連は憂慮していると述べた。「世界中のどこだろうと、人には平和的にデモを行う権利があり、政府にはその権利を保護し、尊重されるよう確保する責任がある」と報道官は強調した。

イラン国内の状況と今後は

デモはイランの国内各地で行われている。BBCヴェリファイ(検証チーム)は67カ所の映像を確認した。

南東部ザヘダンで9日、金曜の礼拝後にデモ参加者が集まった様子の映像を、BBCペルシア語とBBCヴェリファイが検証した。

映像の一つでは、ハメネイ師を指して「独裁者に死を」と叫ぶ声が聞こえる。別の映像では、地元のモスク付近にデモ参加者が集まっている状況で、複数の大きな破裂音が聞こえる。

8日に撮影され検証された別の映像には、中部イスファハンにある国営放送IRIBの子会社事務所が燃えている様子が映っていた。火災の原因や負傷者の有無は不明。

BBCが受け取った8日夜の写真には、テヘランのカージ交差点で複数の車がひっくり返り燃えている様子も写っている。

BBCと連絡を取ることができた男性は、自分は南部シラーズにいると述べた。男性は、住民が食料や生活必需品を買いだめしようとスーパーに殺到しており、今後さらに悪い日々が来ると予想していると述べた。

インターネット遮断により、現金自動預払機(ATM)が使えず、店でデビットカードが使えないために支払い手段がない状態となっている。

人権NGO「ウィットネス(目撃者)」スタッフのマフサ・アリマルダニ氏は、3日夜以来家族と連絡が取れていないと、ロンドンでBBCに話した。

「情報が入手できないというのは、とても不安だ。愛する人が(デモに)参加したかどうか、無事かどうか分からない」と、同氏は話した。

1979年のイスラム革命で追放されたかつての国王の息子で、現在は米首都ワシントン近郊で暮らすレザ・パーレヴィ氏は10日、ソーシャルメディアに動画を投稿し、「我々の目標はもはや、ただ街頭に出るだけではない。目標は、複数の都市の拠点を奪取し、掌握することだ」と述べ、自分は近くイランへ戻る予定だと述べた。同氏は、デモ参加者に対し8日と9日に街頭へ出るよう促していた。

パーレヴィ氏はさらに9日には、トランプ大統領に対し、「イラン国民を助けるために介入する準備をしてほしい」と呼びかけていた。

ただし、イギリスの元駐イラン大使サー・サイモン・ガスはBBCラジオに出演し、イランの今後について展望する際、「あまり先走るべきではない」と述べた。

元大使は、イラン国内に組織化された野党や反政府勢力が存在しないため、現体制に代わる選択肢を示す存在の周りに国民が結集するという事態につながっていないと説明した。

一方、今回の抗議活動はイランで過去にあったものとは異なっているとも元大使は指摘。「これまで見てきたよりもはるかに幅広く、抗議者の動きを取り込んで」おり、経済危機のため一般市民が「生活をやりくりするのが、ほとんどできない」状態がその背景にあると話した。

イランのデモは昨年12月末、通貨下落にテヘランの商店主たちが反発したことを機に始まり、学生も参加するようになり、さらに幅広い人が参加する街頭デモへと広がった。

イランでこれ以前に続いた直近の大規模デモは2022年で、若いクルド人女性マフサ・アミニ氏が、髪の毛を覆うヒジャブを「不適切に」着用していたとして道徳警察に拘束された後、死亡したのがきっかけだった。人権団体によると、当時は数カ月で550人以上が殺害され、2万人が拘束された。

(取材:ソルーシュ・パクザド、ロジャ・アッディ、レハ・カンサラ、カスラ・ナジ、ソルーシュ・ネガフダリ、マロリー・メンチ、アレックス・フィリップス、ヘレン・サリヴァン)