英首相、前駐米大使の審査結果を外務官僚が自分にわざと伝えずと 下院で説明

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ベッキー・モートン 政治記者
イギリスのキア・スターマー首相は20日、下院に出席し、与党・労働党の重鎮だったピーター・マンデルソン卿を駐米大使に任命した際、治安当局による身辺調査で問題ありと勧告されたことを、外務省幹部がわざと自分に報告しなかったのだと議員たちに説明した。
スターマー首相は、マンデルソン卿の審査で問題ありと判断されたことを、外務官僚が自分にわざと、かつ繰り返し、伝えなかったのだと下院で述べ、もし自分が審査結果を知っていたなら任命を進めなかったと力説した。
マンデルソン卿の審査結果と、それを外務省が報告しなかったことについて自分が知ったのは、今月14日のことだと首相は話した。安全保障審査機関からの勧告に反して、外務省がマンデルソン卿の任命を承認したのだという。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、首相が「自分の責任を取る」代わりに「部下や当局者をスケープゴートにした」として、首相の辞任を求めた。
ベイドノック党首は、マンデルソン卿の大使任命に際して「すべての適正な手続き」が踏まれたと首相がかつて下院で説明したことで、首相は議会を誤解させたと非難。「可能な限り早い時点」で記録を訂正すべきだったと主張した。
これに対してスターマー首相は、自分は下院を誤解させたわけではないと強調した。
閣僚規範では、わざと議会に誤解を与えた閣僚は辞任が求められる一方、不注意から誤った答弁をした際には「可能な限り早い時点」で訂正されるべきだと求められている。
マンデルソン卿を重要な外交ポストに任命した決定をめぐり、スターマー首相は数カ月間、批判され続けている。今回の下院での説明も、この問題に終止符を打ったようには見えない。
マンデルソン卿は2024年12月、詳細な審査の実施より先に、駐米大使就任が発表された。2025年2月10日に正式に就任したものの、アメリカの性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)とのつながりを理由に、就任から7カ月後の昨年9月に大使を解任された。
審査は、内閣府の専門機関・英安全保障審査局(UKSV)が担当する。対象者が機密情報へのアクセス権を悪用したり、恐喝や賄賂の標的になったりする可能性が低いことを確認することが目的。審査局は、対象者の信用情報や犯罪歴などを調べる。また、特別な訓練を受けた審査官が対象者を面接し、健康状態や友人関係、家族、性交歴などについて質問する。
UKSVは2024年12月下旬にマンデルソン卿の審査を開始し、2025年1月28日に、最上位の審査について合格と承認しないよう勧告した。しかし外務省の当局者はこの助言に反し、就任を承認した。
首相は20日の下院で、そうした経緯を外務省が自分に知らせるべきだったと主張。マンデルソン卿が任命された時、解任された時、そして首相自身がその後、審査プロセスの見直しを命じた時点など、報告するべきだったタイミングは何度もあったと述べた。
スターマー首相は、昨年9月に任命手続きの見直し作業を当時の公務員トップ、クリス・ウォーマルド内閣官房長(当時)に委ねた際にも、審査結果について外務省は同氏に知らせるべきだったが、報告はなかったとして、「驚くべきことだ」と表現した。
また、昨年9月にイヴェット・クーパー外相が下院外交委員会でこの任命について質問された際にも、審査について情報が共有されるべきだったがそうなっていなかったと首相は言い、外相に知らせていなかったのは「まったく許し難い」と批判した。
首相は、「その資料を私に見せないという決定が、意図的に行われた」のだと下院で述べた。
「こちらの質問が足りなかったわけではない。見落としでもない。情報を共有しないという判断が、繰り返された」のだと首相は言い、大使候補の審査プロセス見直しを開始した時点でも知らされなかったことに、「率直に言って愕然(がくぜん)とした」と述べた。
首相は、審査の過程で審査当局に提供される「デリケートで個人的な情報」は保護されるべきだが、審査を経た結果の勧告内容を閣僚に伝えられないなど、あってはならないとも主張した。

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外務省のオリー・ロビンス事務次官は、マンデルソン卿の審査とその結果について英紙ガーディアンが16日に報道した後、事実上解任された。
スターマー首相は20日の下院説明で最初はロビンス次官の名前を挙げず、「当局者」と言及するにとどめた。
しかし、審査勧告を覆した理由についてロビンス次官から何を聞いていたのかと議員に質問されると、首相は「私にこの情報を提供することは許されていない」と次官が考えていたのだと答えた。
ロビンス氏に近い関係者たちは、審査の内容は対象者の私生活を深く探るもので、詳細を明かせば審査の有効性が損なわれるため、他者に開示しない義務がロビンス次官にはあったと主張している。
ロビンス氏は21日午前、下院外交委員会で証言する。
その後に下院で緊急討論を開くよう保守党のベイドノック党首が要求したため、それも予定されている。

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外交委員会のエミリー・ソーンベリー委員長(労働党)は、かつてロビンス次官に審査プロセスについて尋ねた際、「部分的な真実しか得られなかった」と述べた。
ソーンベリー氏はさらに、首相の側近たちにとっては「ピーター・マンデルソンを(駐米大使の)職に就けることが、他の何事にも優先する目標となり、安全保障上の配慮は二の次だったのではないか」と、下院で問いただした。
ソーンベリー氏を含め、複数の与党議員がこの日の審議で、首相に批判的な質問をした。
先週までは労働党議員の間に、首相批判をためらう動きもあった。しかしこの日の下院答弁を経て、労働党議員の一人はBBCに対し、首相の対応は「悲惨だった」と評し、労働党議員の間の雰囲気は「とても、とても悪い」と明らかにした。
労働党のクリス・ヒンチリフ議員は下院で、審査勧告を覆す決定が「上級官僚の個人的な思いつきでなされた」というのは「まったく信じ難い」と述べた。
ヒンチリフ議員はその上で、労働党内の特定の派閥が長年「精神的、道義的な指導者」と仰いできた人物を出世させるべきだと、首相官邸から外務省に「政治的圧力」があったのではないかとの見方を示した。
同じく労働党のニール・ダンカン=ジョーダン議員も審議で、マンデルソン卿が「そもそも、なぜこれほど重要な役職の候補として検討されたのか」と質問した。
これに対してスターマー首相は、エプスティーン元被告との関係が当時から周知されるていたマンデルソン卿を駐米大使にするよう、首相官邸が圧力をかけたことなどないと強調した。
この日の下院審議に先立ち、マンデルソン卿の大使就任を発表する前に審査を受けさせるよう、首相への助言があった可能性が浮上した。
先月公表された公文書によると、当時の公務員トップだったサイモン・ケイス内閣官房長(当時)は、マンデルソン卿が大使に任命される1カ月前、外交官ではない政治任命者については、首相の候補として確定する前に治安審査を受けるべきだと書簡で助言していた。
しかし首相は20日の下院で、任命された当人の着任前に審査が行われるのは通常のことだと反論。ケイス氏に続いて内閣官房長になったウォーマルド氏が昨年の外交委員会で、その趣旨の発言をしていたと引き合いに出した。
首相はさらに、マンデルソン卿の解任後、大使任命と審査の手続きを変更し、治安当局による審査を通過するまで任命は発表されないようにしたと付け加えた。
また、この審査結果について外務省が最終判断を下す権限を持つという仕組みも、先週の時点で停止したという。
野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は下院質疑で、そもそもマンデルソン卿を任命したことが「壊滅的な判断ミス」だとして、それを理由に首相は辞任すべきだと主張した。
野党のリフォームUKと緑の党も、マンデルソン卿の審査についてうそをついたとして、首相に辞任を求めている。
野党プライド・カムリ(ウェールズ党)は、国民を誤解させたことを理由に首相は辞任すべきだとした主張。野党・スコットランド国民党(SNP)は、首相は「だまされやすいか、無能か、その両方だ」と批判した。
この問題についてアメリカのドナルド・トランプ大統領は「トゥルース・ソーシャル」で、マンデルソン卿を選んだことは「本当に悪い人選」だったとして、スターマー首相が「アメリカ大使の選考で『判断を誤った』と認めた」と書いた。
「自分も同じ意見だ。本当に悪い人選だった。でも巻き返すための時間はたっぷりある!」とトランプ氏は続けた。








