作家ラシュディさん刺傷、「本人と支持者に責任」=イラン外務省

イラン外務省は15日、英作家サルマン・ラシュディさん(75)が米ニューヨーク州で講演中に刺された事件について、襲撃犯とのいかなるつながりも「断固として」否定すると表明した。そして、ラシュディさん自身に責任があると非難した。イランが同事件について公式見解を示すのは初めて。

イランメディアは、この襲撃事件を「神の報い」だと広く評している

イラン国営放送が発行する日刊紙ジャーメ・ジャムは、今回の攻撃でラシュディさんが片目を失うかもしれないというニュースを取り上げ、「サタン(キリスト教の悪魔)の片目が見えなくなった」とした。

イラン外務省の表明に先立ち、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、イラン国営メディアが今回の攻撃をほくそ笑んでいるとし、「卑劣」な行為だと非難した。

ラシュディさんは12日の講演中、壇上に駆け上がった男に、顔や首、腹部などを少なくとも10回刺され、重傷を負った。現在は自力で呼吸することができている

1988年出版の小説「悪魔の詩」は、その内容がイスラム教を冒涜(ぼうとく)しているとして一部のイスラム教徒の怒りを買った。

出版から1年後、イランの最高指導者だったホメイニ師はラシュディさんの死刑を命じた。ホメイニ師はラシュディさんを殺害した者に300万ドルの懸賞金を支払うとする「ファトワ」(イスラム教の法学者が宗教的な立場から出す勧告や判断)を発した。このファトワは現在も有効で、イランの準公的な宗教団体は2012年に50万ドルを懸賞金に上乗せした。

ラシュディさんは「一線を越えた」

ラシュディさんが襲われたとのニュースが伝えられると、30年以上前にこの作家の暗殺を呼びかけるファトワが最初に出されたイランに注目が集まった。

しかし、イラン外務省のナセル・カナニ報道官は15日、事件について初めてイランの公式見解を示し、イラン政府は犯人とのいかなるつながりも「断固として」否定すると述べた。そして、「誰1人としてイラン・イスラム共和国を非難する権利はない」と付け加えた。

一方で、ラシュディさんが著書の中で宗教を侮辱することを、言論の自由で正当化することはできないとした。

「今回の攻撃では、サルマン・ラシュディとその支持者以外に非難、ましてや糾弾に値する者はほかにいないと我々は考えている」と、カナニ報道官は首都テヘランでの毎週定例の記者会見で述べた。

「イスラム教の神聖な事柄を侮辱し、15億人以上のムスリム(イスラム教徒)とすべての神聖な宗教の信者のレッドライン(越えてはならない一線)を越えることによって、サルマン・ラシュディは人々の怒りと激高に自らをさらすことになった」

報道官はまた、事件の加害者について、イランはメディアで報じられていること以上の情報は持ち合わせていないと付け加えた。

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各国の反応

英首相官邸の報道官は、ラシュディさん側に何らかの責任があることを示唆するのは「ばかげた」話だとし、事件は「彼(ラシュディさん)だけでなく言論と表現の自由に対する攻撃でもあった」と述べた。

英最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相はこれに先立ち、イランに「本当に気分の悪い」発言の撤回と謝罪をさせるため、緊急に外交圧力をかけるよう英政府に迫った。

ブリンケン米国務長官は先に、イランの国家機関がラシュディさんに対する暴力行為を扇動していると非難していた。

ブリンケン氏は声明で、ラシュディさんについて、「表現の自由、宗教あるいは信仰の自由、報道の自由という普遍的な権利のために一貫して立ち上がってきた」と述べた。

「法執行当局による捜査が続くなか、これらの権利をヘイトスピーチや暴力行為の扇動などを通じて損なおうとする悪質な勢力について私は思い知らされている」

「具体的に言うと、イランの国家機関は何世紀にもわたってラシュディさんに対する暴力行為を扇動してきた。最近では国営メディアが彼の命が狙われたことをほくそ笑んでいた。これは卑劣な行為だ」

ブリンケン氏は「これらの脅威」に立ち向かうため、アメリカとそのパートナー国は使用可能な「あらゆる適切な手段」を使うだろうと付け加えた。