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「外骨格スーツ」でまひ患者が歩行可能に 脳波で制御=仏研究
ジェイムス・ギャラガー健康・科学担当編集委員
四肢にまひのある男性が、脳波で制御する外骨格スーツによって動けるようになったと、フランスの研究チームが発表した。
チボーさん(30)は、外骨格スーツをまとっての最初の一歩は「初めて月に降り立った人類」になったような気分だったと語った。
外骨格スーツでの動きは、特に歩行は完璧ではない。また、外骨格スーツは現状、ラボの中でしか使用できない。
しかし研究チームは、このアプローチがいずれ、まひをわずらう患者の生活の質の向上につながるだろうと話している。
この外骨格スーツの詳細は、医学雑誌「ランセット・ニューロロジー」に掲載されている。
外骨格スーツの仕組み
使うのは簡単?
めがね技師だったチボーさんは4年前、ナイトクラブで15メートルの高さから落下し、脊髄を損傷。まひをわずらい、2年間を病院で過ごした。
2017年に、グルノーブル大学と、生物医学研究センターClinatecの外骨格スーツの臨床試験に参加することになった。
しかし実際に外骨格スーツを着る前に、チボーさんはセンサーの働きを覚えるため、コンピューターゲームの中でアバターを動かす訓練をしたという。
外骨格スーツを着て歩いた時は「初めて月に降り立った人になったようだった。2年も歩いていなかったから、立つことがどういうことか忘れていた。部屋にいるたくさんの人よりも自分の方が背が高いことも忘れていた」とチボーさんは話した。
腕を動かすまでにはさらに訓練が必要だった。
「複数の筋肉と動きの組み合わせなのでとても難しい。外骨格スーツを着てやれることとしては一番すごいことだ」
外骨格スーツの出来は?
65キログラムの重さがある外骨格スーツは、両腕両脚の機能を完璧に再現してくれるわけではない。
しかし、片腕だけ、片脚だけを脳波を使って動かそうという研究にとっては、明らかな進歩となった。
チボーさんは転倒を防ぐため、外骨格スーツを着た上で、ラボの天井に取り付けられたハーネスをつけなくてはならない。つまり、このスーツはラボの外で使えるようにはなっていない。
Clinatecのアリム=ルイ・ベナビッド取締役会長はBBCニュースの取材で、「これは自動歩行には程遠い」と語った。
「(チボーさんは)転倒しないための素早く的確な動きはできない。そんな動きは地球上の誰にもできない」
一方、外骨格スーツを付けた状態で上腕や前腕、手首を動かして特定の標的を触るという実験では、チボーさんの成功率は71%だった。
パーキンソン病患者向けの脳深部刺激療法も手掛けているべナビッド教授は、「問題を解決し、原理が正しいことを証明できた。外骨格でまひ患者の動きを拡大できるという証拠だ」と語った。
「外骨格で生活の質を向上させることができる」
性能向上へ
研究チームは今後、技術の向上を続けていくつもりだと話している。
現時点では、脳波を読み取り、コンピューターに送信・変換し、リアルタイムで外骨格スーツに指令を送れる情報量は限られており、性能にも限界があるという。
思考が外骨格の動作になるまでには100分の35秒かかっており、これ以上になるとシステムの制御が困難になる。
そのため、ひとつのセンサーには64個の電極がついているが、現在は32個しか使用していない。
つまり可能性としては、より強力なコンピューターを使って脳からより詳細な情報を読み取り、人工知能(AI)でその情報を変換することもできる。
また、指を動かす装置を開発し、チボーさんにものをつまんで動かしてもらう計画もある。
チボーさんはすでに、車椅子の制御に手術で装着したセンサーを使っている。
悪用の可能性は?
外骨格をめぐっては、まひの克服ではなく、人間の身体能力の向上に使おうという「トランスヒューマニズム」という考え方もあり、研究も進んでいる。
トランスヒューマニズムには、軍事的な応用の可能性もある。
べナビッド教授はBBCに対し、「私たちはそうした極端で頭のおかしい外骨格の応用には絶対に向かわない」と話した。
「人類の能力向上というアプローチは行っていない。私たちの仕事は患者が失った身体機能を修復することだ」
コストを指摘する声も
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のトム・シェイクスピア教授は、「この研究は歓迎すべきワクワクするような進歩を見せてくれたが、概念実証から実際に使える臨床の可能性に行き着くまでには長い道のりがあることを忘れてはいけない」と語った。
また、「この領域には誇大宣伝の危険性が常に潜んでいる」とも述べた。
「もし実用可能となっても、コストの圧迫を考えれば、こうしたハイテクな方法は絶対に、世界中の脊髄損傷患者の大半に行き渡らない:
シェイクスピア教授によると、障害のある人のうち、車椅子などの移動手段を持っている人はわずか15%だという。