【2023年サッカー女子W杯】 「止められそうにない」日本、再び頂点に立つか 震災年の優勝から12年

ニール・ジョンストン、BBCスポーツ(ニュージーランド・オークランド)

サッカーの2011年女子ワールドカップ(W杯)での日本代表の優勝の記憶について聞かれると、現代表監督の池田太は、家でテレビで見ていたと振り返る。

東日本大震災が起きたばかりだったので、その意味ではみんなに勇気を与えるとともに、スポーツの楽しさと素晴らしさを伝えてくれた大会だった――。池田はそう言う。

12年前のドイツ大会での日本の優勝は予想外であり、感動的でもあった。

大会の3カ月前、東北地方の地震と津波で1万8000人以上が死亡した。数万人が避難し、福島原発ではメルトダウン(炉心溶融)が起きた。

福島県にあるサッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」は一時、避難所となった。

当時の日本代表のDF鮫島彩は震災が起きた時、福島原発で働いていた。熊谷紗希らチームメートとともにドイツに飛んでからも、恐ろしい出来事から立ち直ろうとしていた。

フランクフルトのヴァルトシュタディオンで行われた決勝は、PK戦にもつれ込んだ。20歳だった熊谷は、アメリカを打ち負かすキックを決めた。

それから12年がたった。32歳になった熊谷は、オーストラリアとニュージーランドで開かれているW杯で、日本代表のキャプテンを務めている。

「なでしこジャパン」は11日午後7時半(日本時間同4時半)からニュージーランド・オークランドで、ベスト4進出を賭けてスウェーデンと戦う。日本は2011年大会の準決勝で、スウェーデンを倒している。

日本がW杯で優勝したことで多くの女の子がサッカーを始めたと、熊谷は言う。彼女は2008年から日本代表チームでプレーしており、今回が4回目のW杯だ。

しかし、サッカーはまた人気が落ちており、よくないことだと熊谷は話す。日本代表は最近あまり勝てていないため、日本人のサッカーへの興味が再び薄れているという。

だが日本はいま、あと2勝すれば決勝というところまで勝ち進んでいる。決勝に進めば、直近4大会(今大会を含む)で3回目だ。優勝カップを再び手にし、国民の心をつかむことはできるだろうか?

「止められそうにない」

日本の世界ランキングは、2015年のW杯で決勝まで進んだあと、4位から11位まで落ちた。カナダ・ヴァンクーヴァーであったこの決勝では、アメリカが2011年の雪辱を果たし、5-2で勝利した。

しかし今大会、日本は自由で生き生きとしたプレーを見せている。8月20日にシドニーで優勝カップを掲げるだろうとの見方さえ出ている。

元イングランド代表FWのエニオラ・アルコは、日本がベスト16戦でノルウェーに3-1で勝利した後、「このチームは止められそうにない」と英ITV1でコメントした。

「日本の選手たちは自信に満ちている。連携、流れ、タイミング。まさに無敵のチームに見える。どうすれば止められるのか?」

番狂わせが多い今大会で、池田ジャパンは堅実、かつ、見る者の心を躍らせる試合を続けてきた。

4試合で14ゴールを挙げた。ザンビア(5-0)コスタリカ(2-0)スペイン(4-0)、ノルウェー(3-1)をすべて圧倒した。すでに総得点数はW杯での日本最多となっている。

優勝経験国のアメリカドイツ、ノルウェーが早々に姿を消すなか、日本は快進撃を続けている。

FW宮澤ひなたは、ここまでの大会得点王だ。枠内に蹴り込んだシュートは6本だけだが、うち5本を決めている。

FW田中美南は2ゴールに加えて3アシストを記録。GK山下杏也加は4試合で1失点しかしていない。19歳のMF藤野あおばは得点機を11回つくり出している。彼女を上回るのはスペインのテレサ・アベレイラ(17回)だけだ。

日本の女子サッカー界は、才能ある選手たちを何世代にもわたって育ててきた。池田が率いる現代表は、大会前こそデンマークとの試合に負けるなどぱっとしなかったが、いまやサプライズを起こす潜在力を見せつけている。

「このチームは(今大会で)気持ちを入れ替えた」と、著名スポーツライターの増島みどりはBBCのポッドキャストで話した。「日本には自信がある。いいことだ」。

日本中が笑顔に

震災から10年以上たった今も、およそ3万1000人が避難生活を続けている。

2011年大会で優勝した後、当時の代表キャプテン澤穂希の母親は涙を流しながら、「日本中が笑顔になるのを感じた」といった言葉をフジテレビで語った。

一方、当時のアメリカ代表GKホープ・ソロは、日本の勝利について、「何か大きなものが、このチームを引っ張ったと本当に信じている」と話した。

監督の佐々木則夫も涙ぐみながら、大会中に選手たちの気持ちを高めるため、震災の画像を使ったと明かした。

2016年に退任した佐々木は今大会、日本代表の一員としてニュージーランドに入っている。日本はここまでの4試合、すべて同国で試合をしている。

現監督の池田は10日、日本からの応援が、W杯で戦う選手たちを鼓舞してくれていると話した。

そして、日本でテレビで見ている人たちの応援を強く感じていると加えた。池田は2018年のU-20女子W杯で日本が優勝した時も、そのチームの監督だった。

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再び頂点に立てるか

池田は今大会、チーム23人のうち17人を先発させるなど、抱えている選手をフル活用している。

ここまで全試合に先発したのは、ベスト16のノルウェー戦でゴールを決めた英ウェスト・ハム所属のDF清水梨紗ら、4人だけだ。

日本の中盤では、英女子スーパー・リーグを本拠地とする3選手がプレーしている。リヴァプールのMF長野風花、ウェスト・ハムのMF林穂乃香、マンチェスター・シティのMF長谷川唯だ。

オークランドで10日にあった記者会見では、長野が10代のころに、2011年の日本のW杯優勝に大いに刺激を受けたと振り返った。そして、今年の「なでしこ」はその偉業を再び達成できると、彼女もチームメートたちも完全に信じていると述べた。

現在24歳の長野は、13歳前後で「なでしこ」のプレーを見て、本当に力をもらったと説明。

今大会でも日本の強さを見せたいと思っており、チーム全員がそれをできると信じていることが、ここまで勝ち進んできた一因だと感じていると述べた。

2011年大会で日本が優勝した時、長谷川は14歳だった。自身の成長に優勝がどう影響したかと問われると、ものすごく大きかったと彼女は答えた。

長谷川はまた、震災直後の日本にとって、優勝は信じられないほど大きなインパクトがあったと説明。自分もいつか同じことをしたいと思うようになったと述べた。

その夢を、長谷川は今月20日に実現できるだろうか?

池田は、すべての試合をハードに戦い、再び世界の頂点を目指すと意気込みを語った。(敬称略)